2020年11月9日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・271

良好な職場環境は優れた成果につながる

 ◇若くてもプロフェッショナルとして◇

  「自分が魅力的に感じた職場の雰囲気を後進にも伝えたい」。大手ゼネコンの研究所で、先端技術を活用した土木インフラの施工技術の開発に携わる川崎幸恵(仮名)さんは就職してから抱き続けている思いを打ち明ける。

 昔からものづくりに興味があったものの、土木が特別好きだったわけではない。大学進学時は建築系の学部を志望したが不合格に。同時に受験していた土木工学系の学部に入った。「最初は何をするところかも分からなかった」。当時を思い出しほほ笑む。

 大学で学ぶうちに土木が利水や地盤、街づくりなど社会を支える学問だったことに気付き、研究者の道を志すようになった。「縁の下の力持ちとして社会に貢献する姿勢」に心を引かれるようになった。

 もっと土木を学びたいという思いをかなえるため、公共デザインを研究する大学院に進学。希望を胸に研究室へ飛び込んだが、周りは同じ専門課程の人たち。話題が狭い範囲に限定されてしまうことが多かった。「専門に特化するより、最初に興味を持った土木が持つ幅広い世界に触れてみたい」といつも考えた。博士課程の終わりにはこのまま大学に残るか、民間に就職するか選択に苦悩した。

 今の会社に出会ったのは、悩みを抱えながら訪れたインターンシップ(就業体験)がきっかけだった。

 ゼネコンの研究所を訪れると環境や建築、コンクリートなどさまざまな分野の研究者が集い、気さくに話しながら新技術の開発に打ち込んでいた。「開発中の新技術で意見を聞かれたこともよく覚えている」。自分を一人のプロフェッショナルとして扱ってくれたことがうれしく、「専門や年齢にこだわらず、自分を高めることができる理想の環境に思えた」と当時を振り返る。入社試験に合格し晴れてゼネコンの研究職に。キャリアを重ねていつの間にか20年目を迎えた。

 民間の技術開発は他社との厳しい競争を強いられる。スピードが要求される技術開発。計画立案や試験、データ解析などを短期間でこなす必要がある。無理なく実現してこられたのは、自身が憧れた風通しの良い職場のチーム力のおかげだ。研究に行き詰まった時、助けてくれたのは同僚や先輩だった。

 川崎さんもベテラン社員となり、後輩をリードする場面が増えた。現在携わっているデジタル技術の研究は今まで以上に開発スピードが速く、注目度も高い。確実な成果を求められている。日々の忙しさで後輩の相談に応じる機会が少なくなり、「なかなか面倒を見ることができない」と頭を悩ませることもある。

 慌ただしい中でも後輩と接する時に心掛けるのは、インターンシップで初めて訪れた時の自分ならどう思うかということ。「若いから」と下に見ず、プロフェッショナルとして扱われれば誰でもうれしいはず。「自分が最初にこの職場で感じた喜びを伝えられたら」。その思いが心の真ん中にある。

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