2021年2月25日木曜日

【回転窓】賃上げへの覚悟

  多くの企業で新しい事業年度が始まる4月に向け、労働組合が賃金引き上げなどの労働条件で経営者側と団体交渉を行う春闘。例年2月までに労組が要求内容を示し、企業からの回答が3月に出そろう▼全国中央組織の労働団体や産業別組織の指導・調整の下、労使交渉が進む現在の春闘方式は、1950年代に始まったとされる。戦後の復興から高度成長、バブルといった景気動向、社会環境の変化が、団体交渉にも影響を及ぼす▼コロナ下で迎えた2021年の春闘交渉は、従業員の基本給を底上げするベースアップ(ベア)で要求段階から見送りや前年割れの労組が目立つ。業績悪化や先行きの不透明感が強まり、賃上げムードは低調のようだ▼国土交通省が先週公表した公共事業の積算に使う新たな公共工事設計労務単価で、前年度を下回った単価を据え置く特別措置を講じた。コロナ禍の影響などを単価下落の要因とし、特別措置を通じて技能者の賃上げを後押しする▼価格競争の激化が懸念される建設市場。担い手確保に欠かせない技能者の処遇改善の流れを反転させぬよう、業界全体の覚悟が一段と問われている。

【仮囲いをキャンバスに】「108ART PROJECT」始動、全国108現場で実現へ

初弾プロジェクトでは悠然と泳ぐ巨大なクジラを仮囲いに描いた(撮影・花坊)

  仮囲いが都市のキャンバスに--。108ART PROJECT(事務局・山下PMC)は、建設現場とアーティストをマッチングし、仮囲いに壁画を描くプロジェクトを開始した。初弾は大阪市内の淀屋橋プロジェクトの現場で1月にスタート。2021年度に大阪、福岡、東京の3都市で第2~5弾を展開する予定だ。将来的には全国108現場での実現を目指す。描かれた壁画を映像やオンラインで公開。取り組みを国内外の現場に広げる考えだ。

 プロジェクトでは「都市の余白に、アートの力を」をテーマに、仮囲いの新たな活用方法を模索する。壁画の一部を再利用可能な素材で制作するなど、SDGs(持続可能な開発目標)にも配慮する。

 初弾の淀屋橋プロジェクトの壁画は、国内外で精力的に作品を発表する大小島真木氏が巨大なクジラを描いた。

 第2弾以降の実施予定箇所は次の通り。▽プロジェクト名(実施都市)=開始予定時期。

 ▽梅田プロジェクト(大阪)=21年5月▽福岡プロジェクト(福岡)=21年度▽赤坂プロジェクト(東京)=同▽八重洲プロジェクト(同)=同。

【優先整備区間は60km】関東整備局、東京23区内に自転車通行空間整備


  関東地方整備局は24日に「東京23区内における直轄国道の自転車通行空間の整備計画」を公表した。都心部の一般道路を中心に、2023年度までに約60キロの自転車通行空間を整備する。効率的な事業実施に向けICT(情報通信技術)を活用した3D測量を展開。発注や関係機関との調整に役立てる。将来的には取得データを道路の基礎情報として活用し、維持管理の高度化につなげる。

 同局は東京都内の直轄国道で自転車通行帯を整備してきた。関係機関との調整に時間が必要で、事業進捗(しんちょく)に課題があった。新型コロナウイルスの流行などを契機に、新しい生活様式の普及で自転車の交通量が増えているため、早期整備を決めた。

 整備対象は都内直轄国道のうち、縦軸となる国道1・4・6・14・15・17・20・246・254号の9路線と357号バイパス。総延長は約104キロ。利用者の利便性に配慮し、自転車通行空間の連続配置が可能な約60キロを優先整備する。自転車専用通行帯や自転車通行が可能なことを示す青い「矢羽根マーク」を路面表示する。

 従来の自転車通行空間の整備は現地測量や図面作成に多くの時間が掛かっていた。作業短縮に向け「モービル・マッピング・システム(MMS)」を搭載した車両を活用して3D測量を実施。道路空間を高精度に計測し、発注図書の作成などに生かす。他機関との調整にも活用する。

 事業のフォローアップは有識者らで構成する「自転車通行空間整備計画検討会」(会長・屋井鉄雄東京工業大学副学長、環境・社会理工学院教授)で行う。残りの約44キロは車線の再配分などが必要で関係機関と調整する。

【ウーブン・シティが起工】トヨタ、静岡県裾野市に実証都市を創造

関係者による鍬入れ(トヨタ自動車提供)
  新たな都市創造へ--。トヨタ自動車と、トヨタグループでモビリティー開発を担うウーブン・プラネット・ホールディングスは、静岡県裾野市で計画する実証都市「ウーブン・シティ」の地鎮祭を23日開いた。トヨタ自動車の豊田章男社長ら関係者が出席し工事の安全を祈願した。

 予定通りの着工を迎え、豊田社長は「コロナ禍で決めたことを決めた通りに進めるということは決して簡単なことではない」と述べ関係者に謝意を表明。「『人中心の街』『実証実験の街』『未完成の街』というウーブン・シティのぶれない軸を持って、この地で日本のモータリゼーションをけん引し続けていたトヨタ自動車東日本東富士工場のDNAを受け継いでいく」と語った。

 ウーブン・シティでは、自動運転、パーソナルモビリティー、ロボット、人工知能(AI)技術などさまざまな新技術を実証する場となる。地上にモビリティーと歩行者が共存する道を整備。モノを移動させる道を地下に造る。

 初期段階で高齢者や子育て世代、発明家を中心に360人程度、将来的にトヨタ自動車の従業員を含む2000人以上の住民が暮らす構想。社会課題を解決する発明がいち早く生み出せる環境の構築を目指す。都市設計などは、デンマーク出身の建築家のビャルケ・インゲルス氏が手掛ける。

20年1月に公表したウーブン・シティの完成イメージ
(トヨタ自動車提供)

 市が22日に許可した開発行為の内容によると、5万5804平方メートルの開発区域で三井住友建設が工事を施工。共同住宅や事務所、店舗、研究所などを整備する。造成工事の設計や施設の基本設計を日建設計が手掛ける。工事予定期間は2024年3月22日まで。「TMEJ東富士工場更地化工事」は、大林組が施工する。

【屋内外スペースは原風景の杉林をイメージ】大分空港海上アクセス旅客ターミナル設計、藤本壮介建築設計事務所JVに

最優秀提案のイメージパース(大分県提供)

  大分県は「大分空港海上アクセス旅客ターミナル建設工事基本・実施設計委託」の公募型プロポーザルで6者を対象に2次審査を行い、最優秀者に藤本壮介建築設計事務所・松井設計JVを選定した。

 審査講評によると最優秀者の提案は宇宙港となる大分空港を象徴し、なだらかに空へと上昇する外観の下、県の原風景である杉林をイメージした屋内・屋外スペースが計画されており、二次交通への乗り換えがスムーズにできるなど利用者に優しいターミナルとして総合的に最も優れた提案と評価された。

 県は空港アクセスとしてホーバークラフトの導入を進めており、同業務ではターミナル上屋などの基本・実施設計を行う。

 最優秀提案によると大分市側(駄原)の施設はターミナル上屋が3階建て延べ1495平方メートル、艇庫が平屋2070平方メートル、立体駐車場が平屋一部2階建て526台。国東市側(安岐町下原)のターミナル上屋が平屋450平方メートル。大分市側ターミナルの大屋根と立体駐車場は津波発生時に避難できるようにする。

 業務履行期限は2022年3月15日。予定工事費は約14億円。工事期間は約12カ月。プロポーザルの次点者には坂茂建築設計・東九州設計工務JVを選定した。

2021年2月24日水曜日

【回転窓】寄り添い合う心

  東日本大震災が発生した半月前、ニュージーランド(NZ)の南島でも大地震が起きた。東海岸にあるクライストチャーチ市を中心に大きな被害が出て日本人28人を含む185人が命を落とした▼同市は英国風の歴史的建造物が数多くあり、「イングランド以外で最もイングランドらしい街」と言われた。700カ所を超える公園がありガーデンシティーとも称される▼地震が発生したのは2011年2月22日午後0時51分。語学学校が入っていたビルが倒壊し日本人ら115人が犠牲に。追悼式では犠牲者全員の名前が読み上げられ多くの市民が当時の出来事に思いをはせ、追悼の気持ちを新たにした▼街のシンボルだった大聖堂の修復が始まったのは昨年5月。市内には崩れたままの建物も残っているそうだ。翻って日本はどうなのか。被災地の復興は10年で進んだと思うがそれでもなお、癒やしきれない傷があるだろう▼被害の大きさは違うかもしれないが、地域にそして多くの人たちの心に深い爪痕を残した二つの大地震。日本とNZが寄り添い、震災の教訓を世界中に発信し続けることができればと改めて思っている。

【延長1344mの斜張橋、開通は3月6日】気仙沼湾横断橋、市民らが徒歩で渡り初め

  復興のシンボルを体感ーー。国が東日本大震災の復興道路として建設してきた三陸沿岸道路の「気仙沼湾横断橋」(宮城県気仙沼市)で21日、3月6日の開通を記念して市民が橋を歩く「開通記念ハイウエーウオーキング」が市主催で開かれた。

 公募で選ばれた市民や土地の提供者ら約800人が参加。間もなく震災から10年の節目を迎える中、橋の上から見渡せる気仙沼市街の美しい景色や復興が着実に進んでいる様子を目の当たりにした。

 イベントに先立ち、菅原茂市長は「この橋を使って復興のまちづくりを進めていく」とあいさつした。気仙沼湾横断橋は20日に工事がほぼ完了。延長1344メートルで東北最大の斜張橋になる。国や市は復興のシンボルや地元のランドマークとなり、アフターコロナの観光振興を後押しする効果に期待している。

【ドリカム・中村正人さんが発案】大和ハウス、猫専用ユニットバス発売

  大和ハウス工業は22日、水洗トイレとシャンプーシンクを一体化した猫専用のユニットバスを発売した。猫の退出を感知して流れる自動洗浄トイレや、水を嫌がる猫であっても洗いやすいシャンプーシンクを組み合わせた。人気バンドのDREAMS COME TRUEのメンバーで愛猫家として知られる中村正人さんが発案者として参画。猫と飼い主の目線で設計したという。新築住宅やリフォームなどで提案していく。年間500台の販売を目指す。

 開発した「ネコレット」は、上部に深くて広いシンクを配置。マイクロバブル水栓を搭載したシャワーヘッドやハンズフリーのドライヤーなどを備えた。下部には普段使っている猫トイレパンを置いてもらう。自動洗浄のほか定期洗浄モードや手動モードを切り替えられる。販売価格は36.3万円。

 コロナ禍もあり自宅で過ごす時間が増える中、新規ペット飼育数が増加する傾向にある一方で、トイレ処理やにおいなど共存する上での課題が指摘されていた。22日に開かれた会見で大友浩嗣取締役兼常務執行役員は「猫も飼育される方もよりストレス無くいられるような空間が必要だ」と述べるとともに、非住宅分野や猫以外のペットも検討材料になるとの見方を示した。中村氏は「猫バトラー(執事)としてのドリームズ・カム・トゥルーだ。夢がかなった。欠かせないアイテムになる」と笑顔で話した。

【施工は大林組、三井住友建設ら】トヨタ「ウーブン・シティ」、敷地造成などスタート

  トヨタ自動車が実証都市「ウーブン・シティ」の建設を計画する静岡県裾野市の工場跡地で、敷地の造成工事などが始まった。

 「TMEJ東富士工場更地化工事」の施工者は大林組。東富士工場は昨年末に閉鎖しており今後、段階的な整備でさまざまなモノやサービス、情報がつながる実験的な街が造られる。

 東富士工場の所在地は御宿1200。敷地面積は26万平方メートルで、子会社のトヨタ自動車東日本が運営していた。操業開始は1967年。東名高速道路の裾野ICに近接する。

 トヨタ自動車が2020年1月に公表した内容によると、自動運転やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などの導入・検証を想定する。

 更地化工事に加え、現地では上物整備も進む。市の開発行為許可標識によると、御宿小鍋沢上1117の1ほかの敷地約5・5ヘクタールに、共同住宅や事務所、店舗、研究所などを建設する計画。施工を三井住友建設が担当。工期は23日から24年3月22日までを予定している。

 初期段階では、同社の従業員やプロジェクトの関係者など、約2000人が暮らすことを見込んでいる。将来的には70・8万平方メートルの範囲を対象に、街づくりを進める構想。暮らしを支える新技術やサービスを、実験的に導入・検証する「コネクティッド・シティ」の構築を目指す。都市設計などは、デンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルス氏が手掛ける。

2021年2月22日月曜日

【回転窓】20万人超えの防災士に期待

  防災・減災の知識や技能を習得し、非常時の避難誘導や平時の防災訓練などでも活躍する防災士。日本防災士機構の認証者が20万人を超えた▼阪神大震災を教訓に、自助、共助、協働を理念に社会の防災力を高めようと2003年に創設された。東日本大震災で防災意識が一段と高まったことや、取得を支援する自治体や教育課程に組み込む大学などもあって、認証者が着実に増えてきた▼同機構によると、都道府県別の認証者(1月末時点)は1・6万人の東京が最多ながら、6000人以上の府県は東日本大震災で未曽有の被害が出た東北以外に複数ある。震災を機に全国規模で防災意識が高まったことが防災士の数からうかがえる▼建設業界の認証者も少なくない。中には阪神大震災の被災地で生まれ、東日本大震災を目の当たりにしてから、大学で防災士を取得し、「防災に貢献したい」と昨春から公的機関で働いている人も▼ハードだけでは防ぎきれない自然災害が目立ち、平時の備えと非常時の初動の重要性が高まっている。防災士は自分が動き、周囲を動かすリーダーとなる。取得と継続教育を巡る支援が期待される。

【電子取引などへ移行促す】経産省、2026年めどに約束手形廃止へ

 経済産業省は、企業間取引で所定期日までの支払いを確約する紙の約束手形を2026年めどに廃止するよう、産業界に求める方針を固めた。

 手形の振り出しから支払いまでの期間は90~120日と長期にわたるケースが多く、中小企業の資金繰りを圧迫している。銀行振り込みや電子決済への移行を促すことで、中小企業の負担を軽減する。経産省の有識者会議で報告された。24年に改善状況を踏まえ施策の見直しを行う。

【東日本大震災から10年】平沢勝栄復興相、知見を後世に伝える

 平沢勝栄復興相は3月11日に東日本大震災の発生から10年を迎えるのを前に、日刊建設工業新聞など報道各社の取材に応じた。これまでの復興事業を総括し「得られたノウハウや教訓は(国内外に)共有し、後世にも伝える必要がある」と強調。原発事故の影響を受ける福島県内の再生に向け、取り組み課題として県外からの移住促進を挙げ、住環境の整備が重要になるとの見解を示した。

 --過去10年間で復興庁が果たしてきた役割は。

 「復興庁の特徴は職員の半数が(被災3県の)復興局に在籍していることだ。復興庁の設置期間を延長するかどうか議論された時も、被災自治体から継続を強くお願いされた。被災地に寄り添った対応を目指したため、地元からの信頼を得られてきたことが背景にある。復興の過程で積み上げてきた教訓やノウハウは、ほかの行政機関や海外にも広く共有していく必要がある」

 --自然災害が頻発化している。今後発生する災害からの復旧・復興で必要となる視点は。

 「従来の復興は、単に災害で壊れた部分を元の状態に戻すことを目指していた。今後は新たな価値を生み出す『創造的復興』の観点を踏まえ、30年先、50年先の未来も見据え、全く新しい街をつくるという考えに変わっていくだろう。地球環境への配慮も必要になる」

 --原発周辺の復興街づくりの方向性は。

 「一日も早く全域で避難指示を解除できるよう、政府全体で取り組む。福島県はとりわけ大きな人口減少に直面している。(震災前の)人口まで回復させることが課題だ。県外からの移住・定住を促進するには、生活環境の整備が大事になる。浜通り地域で計画中の国際研究拠点は、世界トップレベルの拠点にし、福島復興の目玉にしたい」。

【凜】常総開発工業(茨城県神栖市)土木本部・小沼友琴さん

 建設業への就職を考えたきっかけは10年前の東日本大震災。生まれ育った茨城県南東部の鹿行地域も大きな被害を受けた。自宅の近くにあり普段使っていた鹿行大橋が落橋し大きなショックを受けた。震災後、着々と造られていく新しい橋を間近に見て「自分も地元に貢献できる仕事に就きたい」と思った。

 ただ建設業で働くという思いをかなえる道筋は決して平たんでなかった。「母は大反対。逆に父は背中を押してくれた」。高校は普通科で、周囲に同じような進路を選ぶ友人はいなかった。不安で気持ちが揺れていた時、担任の教師が「土木女子」を特集したテレビ番組を見せてくれた。「大きい仕事ができる土木の仕事に就きたい」。希望は決意に変わった。専門学校に進み2年生から土木を専攻。施工コースで土木を選択した女子は学校で初めてだった。

 「生まれ育った鹿行地域に貢献したい」と地元の会社に入社を決めた。今は高速道路の建設現場で働きながら、1級土木施工管理技士を目指して勉強に励んでいる。

 現場で一緒に働くのは年上の男性ばかり。気を使うことも多いが、「あいさつを忘れないこと」を大切にしている。謙虚さと心配りを忘れずに、いつも前向きにと心掛けている。茨城県建設業協会の女性部会「建女ひばり会」の活動にも積極的に参加。「横のつながりができて心強い」と話す。

(おぬま・ゆうこ)

【サークル】JESCOグループ共済会「社員交流やクラブ活動を後押し」

 電気設備工事を手掛けるJESCOホールディングス(HD、東京都中野区、古手川太一社長)で、相互共済や福祉増進活動を展開する「JESCOグループ共済会」。時代の変化を踏まえたサービスを考え、社員交流の活性化などを後押ししてきた。

 同社では現在、ゴルフ部やモータースポーツ部、雪山滑走部、アウトドア部、音楽部、天文部、マラソンなどに参加するクラブといった9クラブが活動中。会社で金魚や熱帯魚の世話をして社員に癒やしを与えている熱帯魚部や、本社や研修センターでの植樹などを通じて二酸化炭素(CO2)削減への貢献を目指すエコグリーンクラブなどユニークな活動も目立つ。同会から各部に補助して、活動を後押ししている。

 親睦を図るため新入社員歓迎会やクリスマスパーティーなどを実施してきたが、新型コロナウイルスで開催が難しい。昨年の会社設立50周年を記念した海外旅行も延期を余儀なくされた。同会の観音茂喜理事長は「会員がより利用しやすいサービスや仕組みを第一に考えている。コロナ禍なので、何か違った形で活動を活発にしていきたい」と、次なる一手を模索中だ。

【駆け出しのころ】ダイダン常務執行役員営業本部長・北村広外志氏

  ◇さまざまな場所で経験を◇

 就職活動では第1志望のフライトエンジニアがかなわず、それならばメーカーよりも事業全体に関われる設備工事会社に入りたいと考えました。大阪電気暖房(現ダイダン)に入社後、2カ月ほど設計部門での勤務を経て、大阪駅前の複合ビルの建設現場に配属。1年目は現場の清掃などを行いながら、職人の方々に追い回されていました。技術的な学びよりも、協力会社の方も含めて人のつながりが広がったことが大きかったです。

 次の現場は大阪市内のホテル新築工事で、高層階のホテル室を担当。部屋数も多く、建築とのやりとりでだいぶ苦労しましたが、きちんと収まった時の喜びは格別でした。

 周りでは設備以外にも作業が進められており、1歩でも半歩でも先に仕事を進めることが大切。少しでも前に進んでいれば周りも見え、トラブル発生時の対応も違ってきます。うまくいかないことばかりで葛藤の日々でしたが、若いながらも仕事をやり切ることで充実感がありました。

 入社6年目に大阪国際空港の増築・改修工事を担当。工期中に日航機墜落事故が起き、空港内は騒然としましたが、現場への影響は特になかったです。いかなる時も施設を供用しながらの作業のため、第三者に細心の注意を払い、さまざまなトラブルを想定し、1歩ではなく10歩先を読んで取り組むことが大変でした。

 所長として最後に担当した神戸市内の複合商業施設の工事では、工期中に阪神・淡路大震災が発生。地下部分を施工中だった現場の被害は軽微でしたが、周りは大変な状況にあり、現場を止めて5カ月ほど被災地の支援に入りました。

 41歳で営業部門に移った当初、現場勤務を通して技術や顧客のことは分かっており、やっていけるだろうと考えていました。しかし、名刺交換した相手に電話してもこちらのことを覚えてなく、なかなか会ってもらえず、また面会を断られたらどうしようと不安にさいなまれる日々。そんな時、あるゼネコンの営業部長から「営業は断られて当たり前。そう思ったらどこでも電話できる」などと諭され、営業のイロハを教えてもらいました。

 無駄足かもしれないけど、何度も出向き、名刺に訪問した日時と目的を書き込んで置いてくる。そうした地道なことの繰り返しの中で、受け付けや秘書の方々と仲良くなり、役員との面会もセットしてもらえるようになりました。仕事がある時以上に、ない時に普段から付き合いを深めることが大切です。

 一つの場所にとどまらず、率先して動き、さまざまな経験を重ねる。若い人たちには現場でも営業でも、その場所で切磋琢磨(せっさたくま)し、スキルアップしてもらいたいです。

入社8年目ころ、娘と出かけた近所の夏祭りで

 (きたむら・ひろとし)1980年日本大学工学部機械工学科卒、ダイダン入社。中国支店長や上席執行役員大阪本社副代表兼営業統括、常務執行役員西日本事業部営業統括などを経て2020年4月から現職。石川県出身、63歳。

2021年2月19日金曜日

【災害対応の最前線で奮闘】建コン協、災害時用ジャケットを会員会社に提供

 建設コンサルタンツ協会(建コン協、高野登会長)は、災害復旧や復興業務に従事する会員企業向けにユニホームなどを作った。

 長袖のジャケットと安全ベスト、腕章を用意。災害対応の最前線で奮闘する会員各社の活動をアピールし、担当者のモチベーションや業界認知度のアップにつなげる。

 ジャケットなどは、広報活動の一環で作った。災害時に国や自治体から建コン協に支援要請があった時や、特定の企業が活動に当たる場合などに着用してもらう。特定の企業が発注者から応援要請を受けた時も身に着けてもらう。

 ジャケットやベストの前背面には、英訳した協会名称の頭文字「JCCA」をプリント。ジャケットは白を基調にした春秋用と、青をベースにした冬用の2タイプを用意した。330着を製作。鮮やかなオレンジ色を使用した安全ベスト560着、腕章870枚も配布した。今後は支部の要望に応じベストと腕章を2512枚ずつ追加で製作する予定だ。

【BT+コンセッションを採用予定】秩父宮ラグビー場建替、JSCがPFI手法検討業務発注

  日本スポーツ振興センター(JSC)は、東京都港区にある「秩父宮ラグビー場」の建て替えに向けPFI手法の検討に入る。

 19日に検討業務の委託先を決める簡易公募型プロポーザルを公告する。建築や構造、電気設備、機械設備といったPFI事業に伴う建築計画の策定を任せる。

 件名は「新秩父宮ラグビー場整備事業PFI手法による整備(建築計画分野)検討業務」。プロポには単体か2~3者JVが参加できる。参加申請を3月1日まで、技術提案書は同22日まで電子入札システムで受け付ける。同業務の受託企業は新施設の建設・施設運営事業を受注できない。履行期限は2022年10月31日。

 新秩父宮ラグビー場の整備を巡っては「ラグビーの振興に関する関係者会議」が1月15日の会合で、BT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIを採用する方針を決めた。ラグビーだけでなく他の競技やイベントでも使用できるよう、屋根などを備えた全天候型の施設とする。三井不動産、明治神宮、JSC、伊藤忠商事の4者が計画する秩父宮ラグビー場を含む「神宮外苑地区」の再開発事業と一体で新施設を設ける見通しだ。

 同15日にJSCは「新秩父宮ラグビー場整備事業基本計画策定等支援業務」の委託先を決める企画競争手続きも開始。施設整備や管理運営の条件、事業スケジュール、事業収支などの検討を委託する。3月上旬に審査結果を通知する。履行期間は5月31日まで。

【建築デザインは隈研吾氏】新愛知県体育館整備・運営等事業、前田建設ら8社グループに


  愛知県の「新体育館整備・運営等事業」の事業者が前田建設とNTTドコモを代表企業とする「Aichi Smart Arenaグループ」に決まった。同グループは、スポーツや音楽などの世界的イベントが開催できる最先端のアリーナを提案した。外観を木の柱で覆った建築デザインは隈研吾氏が手掛けた。

 代表企業を除く同グループの構成企業はAnschutz Sports Holdings、三井住友ファイナンス&リース、東急、中部日本放送、日本政策投資銀行、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド。協力企業は隈研吾建築都市設計事務所、マニカ・アーキテクチャー、大建設計。

 県は、事業者選定にPFI手法のBT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式を採用。昨年8月7日に総合評価一般競争入札を公告、同12月18日に入・開札し、事業提案書を受け付けた。

 9日のプレゼンテーション審査を経て、同グループを落札者に決めた。応募は3グループだった。

 新体育館の建設地は、名古屋市北区名城1の名城公園北園内約4・6ヘクタール。中区二の丸にある現体育館を移転する。

 同グループの提案によると、メインアリーナ・サブアリーナ・多目的ホールを中心とする建物は、RC・S造5階建て延べ5万8400平方メートル。名古屋城に近い名城公園の自然と一体感を創出する「樹形アリーナ」になる。

 最大1万7000人(立ち見含む)を収容するメインアリーナには、楕円(だえん)形と馬てい型を組み合わせた「ハイブリッドオーバル型」の観客席を採用、天井高を30メートル以上確保する。

 音楽イベントから広い競技面積が必要なフィギュアスケートまで、質の高い観戦・鑑賞体験を提供する。

 維持管理・運営には最先端のICT(情報通信技術)を導入、スマートアリーナを目指す。各種スポーツや文化イベントは、国内外から多くの集客が期待できる催事を計画する。

 今後、県と同グループは3月に基本協定、6月議会後に特定事業契約を結び、2025年夏オープンを目指す。維持管理・運営期間は30年間。

2021年2月17日水曜日

【回転窓】非正規社員が4割という国

  あるニュースに対し、自分のコメントを書き込む。なぜ、こんな行為をするのか理解に苦しむが、つい読んでしまう▼スマホでニュースを見た後、その下段にある多数のコメントを読む。このニュースに対しみんなはどう思うのか。自分と同じ受け止め方なのか。それとも違うのか。どうでも良い話なのだが、なぜか気になる▼先日、老舗靴メーカーが業績悪化で50代以上の社員や再雇用社員を対象に希望退職者を募る記事があった。その記事の下には「こんな状況が続いたら無職のおじさんばかりの日本になる」とコメントがあった。同世代の者として暗たんたる気持ちになる▼先週、厚生労働省がまとめた就業形態の多様化調査結果によると、パートタイマーや派遣社員など非正規社員の割合は2019年10月時点で41・3%、14年の前回調査に比べ1・3ポイント増加した。働く人の4割以上が収入の不安定な非正規社員という国が先進国と言えるのだろうか▼日経平均株価は3万円を超えた。株価上昇は悪いことではないが、まずは雇用だろう。社員として働いて安定した収入を得る。そんな当たり前の社会にするべきではないか。

【回転窓】最前線で奮闘する方々に敬意を

  福島県沖で発生し最大震度6強の揺れを観測した地震。宮城、福島両県を中心に東北、関東の広い範囲で土砂崩れや停電、交通機関のストップといった被害が報告された▼けがをした方も少なからずおり、避難所に身を寄せた人もいる。コロナ禍で不自由な生活を強いられている状況も加わっている。心配で不安な時間を過ごしている方に心からお見舞いを申し上げたい▼土曜日の夜中に起こった今回の地震。不気味な地鳴りがしたと思ったらスマートフォンが突然けたたましく鳴り響き、「地震が来ます」との音声。東日本大震災の記憶がよみがえった人も多かろう▼政府は被災者支援や早期の復旧に全力で当たる構え。被害の全容は徐々に明らかになるだろうし、政府や自治体、企業らの支援活動が本格化し混乱も解消に向かうはず▼土砂崩れが起き一部区間が通行止めになっている常磐自動車道、運転を停止している東北新幹線や在来線も少し時間はかかるかもしれないが、復旧に向け関係者が懸命の努力を続けている。最前線で奮闘する各地の建設業界の方々に敬意を表しつつ、どうか安全第一で作業をと願ってやまない。

【総工事費120億円見込む】横浜市、横浜美術館を初の大規模改修

大規模改修に入る横浜美術館(写真提供:横浜市)

  横浜市は2021年度、みなとみらい(MM)21地区にある横浜美術館の大規模改修に着手する。1989年に開館してから初の大規模改修となる。3月1日に休館し、23年度のリニューアルオープンを目指す。総工事費は約120億円を見込んでいる。改修(建築)工事はWTO政府調達協定の対象案件で3月に発注予定。大規模改修の基本・実施設計は丹下都市建築設計が担当している。

 開館から30年以上経過し、建物や設備が老朽化しているため、機能向上と長寿命化を図る。21年度予算案に美術館大規模改修事業(実施設計、工事など)の経費として8億40百万円を計上している。

 老朽化対策は▽電気・衛生・空調設備などの全面更新▽外壁・防水など経年劣化改修-などを予定。バリアフリー対応は多目的トイレの整備・増設とエレベーター増設を計画する。法令適合の対応としてエレベーター・エスカレーターを更新する。機能向上は▽美術品収蔵庫増設▽展示環境改善▽美術情報センター移設-などを実施する予定だ。

 所在地は西区みなとみらい3の4の1。建物はSRC一部RC造8階建て延べ2万6829平方メートルの規模。設計は丹下健三都市建築設計研究所。竹中工務店・清水建設・東急建設・奥村組・佐藤工業・奈良建設JVが施工した。

【川崎駅西口にエンタメ施設】大宮町地区市有地利活用、整備運営事業者にホリプログループ

  川崎市はJR川崎駅西口大宮町地区(幸区)にある市有地の利活用で、整備運営事業者を大手芸能事務所のホリプロ(東京都目黒区、堀義貴社長)と、建築設計などを手掛けるスピーク(東京都新宿区、林厚見・吉里裕也共同代表)の2社グループに決めた。

 音楽ホールなどエンターテインメント施設を整備し、にぎわいを創出する。設計・工事監理はスピークが担当。施工者は決まっていない。4月にも着工し2022年度のオープンを目指す。

 建設地は大宮町1の13ほか(敷地面積1027平方メートル)。施設は非木造で3階建て延べ1200平方メートルの規模になる。音楽ホール「グリーンアートシアター」など大小二つのホールを設ける予定。コンサートや講演会といった大規模イベントからダンス教室まで幅広い催しに対応できるようにする。

 屋上を階段状にして緑化し、市民が楽しめるようにする。隣接する街区とペデストリアンデッキで接続。JR川崎駅などからのアクセス性も高める。災害時には一時避難場所としてホールを開放。防災備蓄倉庫も設置する。事業期間は20年間。

 市は緑化を視野に入れ開発を保留していた。20年7月に地区の活用方針をまとめ、同10月に事業提案の募集手続きを開始。書類審査やプレゼンテーション審査で整備運営事業者を決定した。

【日刊建設工業新聞社からのお知らせ】東日本大震災10年シンポを2月24日にオンライン開催します

 日刊建設工業新聞社と読売新聞社は、24日にオンラインシンポジウム「東日本大震災から10年~復興を支え、教訓を引き継ぎ、未来に繋(つな)ぐ~」を開催します。

 震災10年の節目を機に被災地復興の軌跡と現状、建設産業が果たしてきた役割に改めてスポットを当て、業界内外の方に視聴していただきながら、未来に引き継ぐ教訓や頻発する自然災害への備えなどを考えます。

 今村文彦東北大学教授が「東日本大震災の経験と教訓次世代に繋げるために」と題して基調講演します。その後、武山徳蔵氏(武山興業会長、宮城県建設業協会専務)と深野健司氏(ラジオ福島アナウンサー)のトークセッション「東日本大震災からの10年とこれから」を予定。被災各地の定点写真を使って復興の歩みも解説します。

 時間は午後1時30分~午後2時45分を予定。視聴定員は300人、参加無料。申し込み(先着順)を専用ウェブサイトで受け付けます。

2021年2月15日月曜日

【回転窓】食文化の灯火

 大切な家族や気の置けない友人たちと囲む食卓でのおいしい料理は、普段の暮らしに彩りを添える。家庭の味や旅先の名物料理など多様な「食文化」は人生を豊かにしてくれる▼新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、再度の緊急事態宣言で向かい風が強まる飲食店。営業ができなくなったり、店を開けても自粛モードで客足が遠のいたりと厳しい経営状況が続く。コロナ禍の長期化により、これまで育んだ食文化が途絶えてしまう恐れもある▼各地の食文化や祭りなど無形文化財の保存、活用に向け、政府は「登録文化財」の対象を無形にも広げる文化財保護法改正案を今国会に提出する。地域の人たちが地元の文化的資源を再発見する機会を増やし、外部からの関心も高めて地域振興の効果も狙う▼文化庁は書道や茶道、華道のほか、日本酒の醸造技術や郷土料理といった食文化、地域古来の祭りなどの登録を想定。将来的には国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への提案も視野に入れているという▼足しげく通ったあの味がなくならないよう、今はテークアウトで食を楽しむ。まずは身近な食文化から守りたい。

【凜】東京都葛飾区都市整備部・阿部渚さん

  ◇仕事のノウハウ伝えたい◇

 千葉県の大学に通っていた時に遭遇した出来事が、街づくりの仕事を志すきっかけになった。所属していたサッカー部の練習中に東日本大震災が発生。コーチの車で帰宅する途中に製油所で爆発事故が起こり、立ち上る黒煙を目の当たりにした。「場所が違ったら死んでいたかもしれない」。安心できる街をつくりたいと決意した。

 区役所で働き始めた年、一度は被災地を見ておきたいと考え、宮城県南三陸町を訪れた。目の前に広がるのは震災から時が過ぎてもがれきが残る海岸線。「私はただの観光客。この地域のために何もできていない」。切ない思いがこみ上げた。くすぶる気持ちを抱え続け数年がたったある日、南三陸町の応援職員を募るお知らせを目にした。今しかない…。迷いはなかった。

 赴任して衝撃を受けたのは、中堅職員の多くが震災で亡くなり、仕事で積み上げてきたノウハウも失われてしまったことだった。業務に追われる日々。新人に仕事を教える余裕はなく若手が次々と職場を去っていった。「ここで職員になっていたら、私も同じ選択をしただろう」と振り返る。

 派遣期間を終えて区に戻ったとき、一から仕事を教えてくれる職場の温かさが身に染みた。今の部署で自分は最年少だが、将来は先輩が教えてくれたノウハウを後輩にしっかり伝えられるように、真摯(しんし)に仕事と向き合っている。

 (都市計画課鉄道立体担当係、あべ・なぎさ)

【中堅世代】それぞれの建設業・278

企業財務のプロとして専門家目線で経営に貢献する

 ◇専門家の立場を生かす◇

  東京都内に本社を置くゼネコンで働く加藤敦さん(仮名)が大手会計事務所を辞め、今の会社に入社したのは約5年前。経営コンサルティングやM&A(企業合併・買収)に携わる仕事にやりがいは感じていた。だが子どもが生まれ、激務で家族との時間がほとんど取れない生活が続くと思った時、新たな道を進む選択をした。

 企業内会計士として再出発した当初は、「何もかもが違って同じことを探す方が難しかった」職場の環境に戸惑いを覚えた。前職はプロジェクトごとにチームが編成され、案件に対応していた。「決まった上司と決まった部下がいる」環境で仕事をするのも慣れるまで少し時間が掛かった。それでも新しい職場と仕事と向き合うことに、楽しさを感じる自分がいた。

 ゼネコンに入社して感じたのは、外から見ていた建設業と内側から見た建設業に大きな違いがあることだった。トンネルや道路、ビルなどを造り上げる工程には多くの会社と数多くの人が関わり、しっかりと利益を得るには「優れた現場所長の存在が非常に重要」と知った。そして現場をうまく運営するには管理部門の役割も大きく、現場と管理部門のバランスを整え「原価管理などを本社や支社の管理部門で肩代わりする」ことで、「現場の作業負担が軽減できる」と理解できた。

 転職してからあっという間に過ぎた時間。仕事にすっかり慣れ、周囲に目を向ける余裕も出てきた。そんな自分の中で以前からくすぶっていた思いがある。それは「うちの会社はなぜ女性の管理職がほとんどいないのだろう」という疑問だ。能力があれば年齢や性別に関係なくプロジェクトを任された会計事務所。それが当たり前と思っていただけに、「意思決定をするのは男性の管理職ばかり」という環境を、できるだけ早く変えるべきではないかと感じている。

 数年前から続いてた産業間、企業間の人材獲得競争。加藤さんの会社も採用に苦戦するケースが多々あった。一緒に現場を動かす協力会社はより厳しい状況にあり、今の状況が続けば「人材難を理由に廃業してしまう会社が後を絶たなくなるのでは」と危機感を募らせる。企業財務の専門家という立場をどう生かしていけるのか。自分の果たすべき役割を考えるようになった。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)もあり、世の中の動きを読むのは難しくなっている。数字を見て分析し、問題点を洗い出して解決方法を探っていく。不安定な時代だからこそ「財務基盤の強化と着実な技術力向上が必要」という思いは日増しに強くなっている。

 ゼネコンの社員として働く自分にできることはたくさんあるはず。強い信念を胸に秘め、まっすぐ前を見据えて歩み続けようと思っている。

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】大成建設「氷点下20度に対応できる新防寒着」

  大成建設が通常の防寒着よりも機能をアップした「寒冷地用防寒着」を新調した。山間部や豪雪地区など氷点下20度の気温を想定した地域限定の極寒仕様。実際に着用した社員からは「防寒性に優れており、気温が零度以下で強風という青森の極寒環境でも耐えられる」と好評。寒さがつらい冬場の工事を助ける必須アイテムとなりそうだ。

 上着はフルハーネス安全帯を上着の中に装着できるロング丈と、上着の外に装着するショート丈の2種類を展開。オーバーパンツとセットで着用する。強力なはっ水効果があり、雨具代わりに活用する社員もいるそうだ。雨や雪の浸透を防ぐため「長時間現場にいても作業に支障が出ない」という声もあり、厳冬期の過酷な現場作業に欠かせないアイテムになっている。

 同社は2020年度にヘルメットを含めたユニホームを一新。通常用の防寒着も新調した。通常用と寒冷地用の2種類を現場の環境に応じて選択する。通常用防寒着は従来よりも防寒性が向上し、気温が零度の環境でも快適さを感じる仕様となっている。

駆け出しのころ/日特建設取締役常務執行役員経営戦略本部長・川口利一氏

  ◇のめり込みスキルアップを◇

 興味があった映画関係の仕事では飯が食えないと断念し、就職活動で大学から紹介されたのが日特建設でした。仕事内容は現場の事務などと聞き、数字を扱う作業が割と好きだったこともあり、建設業界で働くのもいいかなと思い入社を決めました。

 最初の配属先は大阪支店。生まれも育ちも東京だったので、入寮時に近所の子どもたちが普通に大阪弁を話す様子を見た時、ショックを受けました。

 当時は業務量がそれほど多くなく、支店内の雰囲気もどこかのんびりとしていました。上司や先輩はいい方たちだったのですが、お酒が弱い体質の自分にとってほぼ毎晩の酒席はつらく、辞めてしまおうかと心が揺れました。しばらくして寮を出て1人暮らしを始めてから、周りと適度な距離感を保て心の安定につながりました。

 2年目に入って現場を2カ所回りました。推進工法で下水管を整備する和歌山の現場では、周辺にある井戸の水位や水質などに影響がないかを調べる業務などを担当。十数件ほどの民家に毎日出入りする際、こちらの声が聞こえなかったのか、不審者に間違えられて怒鳴られたこともありました。

 次の現場は大阪市内の高校の体育館。杭工事の現場支援に入りましたが、特にトラブルもなく手際良く作業が進みました。事務職で技術的なことは全く分かっていませんでしたが、当社は現場で稼いでいると実感できました。

 現場勤務後、支店に戻ってからは事務の仕事が手作業からパソコン入力に移行する改革期で忙しくなりました。現場勤務の人たちは作業を終えてから支店に書類などを取りに来ます。夜遅くまで残って現場の要望にできる限り対応するよう心掛けました。

 入社7年目に東京支店へ異動。大阪時代と違って現場の数が膨大で非常に忙しく、泊まり込みで業務に当たる日も多かったです。翌年移った本社経理部は20年以上にわたって在籍し、経営的に厳しい時代も経験しました。特に経理部長に就任した2006年ごろは業界全体が再編・淘汰(とうた)の波にさらされ、資金繰りに関する金融機関とのやりとりは想像を絶する大変さでした。

 精神的にもきつかったですが、「自分がやれることをやって駄目なら仕方がない」と、途中から開き直りました。前向きな上司と最後まで付いてきてくれた部下のおかげで、なんとか乗り越えることができました。

 自分が任されたポジションで何をすべきか。前任者や周りを気にしすぎず、自分なりに考えて行動することが大切です。個の成長なくしてチームは強くなりません。若い人たちは受け身にならず、いろいろなことにのめり込みスキルを高めてほしいと思っています。

入社4年目。大阪支店の同僚らとの懇親テニスで
(前列右から2人目が本人)

 (かわぐち・としかず)1983年日本大学商学部経営学科卒、日特建設入社。執行役員管理本部経理部長や常務執行役員経営戦略本部副本部長を経て2019年から現職。東京都出身、59歳。

2021年2月9日火曜日

【回転窓】優しさも…

 2022年春入社に向けた採用活動が動きだしている。コロナ禍の影響で業績悪化が深刻になっている企業は多く、数年間続いていた超売り手市場に少なからず変化がありそうだ▼地方公務員の採用試験で地元開催の保護者向け説明会が活況を呈しているという記事を、時事通信が8日午前に配信していた。子どもの就職活動に関心を持つ保護者が増えたのに加え、「新型コロナウイルスの影響で帰省できない学生に代わり、情報収集する場として需要が高まる」と背景を分析する▼企業取材を担当している時、採用活動ついて「本人はもちろん、両親へのアプローチに気を使っている」という苦労を聞いた▼自分が就職活動をした時は、親に相談をすることはなかったし、親に気を使う企業も恐らくなかっただろう。時代は変わったといえばそれまでかもしれないし、子どもの就活に協力したいという親心は分からないこともない。ただ優しさも度が過ぎれば本人のためにならないのでは…と思ってしまう▼22年の採用スケジュールは民間の場合、3月会社説明会、6月選考開始。オンラインも増えているので情報収集はお早めに。

【水面を見ながらコーヒーブレーク】入間川にこにこテラス(埼玉県狭山市)にスタバ、3月5日開業

スターバックスコーヒー狭山市入間川にこにこテラス店
の完成イメージ(提供:狭山市)

  埼玉県狭山市が入間川の河川敷にある河川敷中央公園を再整備し設けた「入間川にこにこテラス」に、米コーヒーショップチェーンのスターバックスが出店する。開業は3月5日。市が整備した遊具も同16日から一部が利用できる。

 市は河川敷の商業利用に向け民間事業者から提案を募った。スターバックスの敷地は高台にあり、一昨年の台風19号で河川が増水した時も水に漬からなかった。土地の占用料として年間30万円を県に支払う。占用期間は最長10年。

 市は入間川の新しいにぎわいスポットとして官民連携で河川敷中央公園を再整備。「入間川とことん活用プロジェクト」として飲食店を募集した。スターバックスジャパンを事業者に選定した後、同公園のリニューアルオープンに向け愛称を募り、計734件の応募から市内小学生の投票で入間川にこにこテラスを選んだ。市が河川敷を民間に開放し商業利用するのは今回が初めてという。

【健康増進へ企業が後押し】スポーツエールカンパニー、建設業界は西松建設ら認定取得

  スポーツ庁は、従業員の健康増進に取り組む企業を認定する「スポーツエールカンパニー2021」に623社を選定した。主なゼネコンでは西松建設、奥村組、鉄建建設、日本国土開発らが認定を受けた。

 クラブ活動費の一部補助や運動不足を解消する動画配信など、コロナ禍での新たな取り組みも目立った。認定期間は12月31日まで。

 認定制度は2017年からスタート。4回目を迎える今年は過去最高の認定企業数だった。今回は新型コロナウイルス感染症の拡大予防のため、ウェブ会議システムなどを活用し職場と在宅勤務者と一緒に運動やスポーツを楽しむなど、スポーツをコミュニケーションツールに活用する事例が多数報告された。

 主要ゼネコンでは建設現場の作業開始前にラジオ体操を行う企業が多かった。主な取り組みをみると、西松建設は健康保険組合主催のウオーキングイベント(年2回)に参加。各事業所ではオフィスヨガやマラソンイベントなども行っている。奥村組は建設現場に加え、店内でも午後3時に「けんせつ体幹体操」を実施。有志で実業団駅伝にも参加している。

 鉄建建設はクラブ活動費の一部を補助金として支給。日本国土開発は自宅で行えるストレッチや運動の動画配信など、運動不足解消を支援する取り組みなどが評価された。

 福井県の坂川建設では歩数計を配布してウオーキングを推奨。目標達成者に月3000円を支給し、3カ月連続で達成した社員に健康食材を支給するユニークな取り組みも行っている。

【道路覆蓋の構造など検討】東京・中央区、首都高築地川区間の上部活用で技術的検討

  東京・中央区は2021年度、首都高速道路都心環状線の築地川区間の上部活用に向けた動きを加速する。

 道路上部を覆うための構造形式や施工方法、概算事業費などを検討。首都高速道路会社ら関係機関に、事業成立の条件を示す。21年度予算案に検討支援業務の委託費として20百万円を計上。4月にも発注手続きに入る見通しだ。

 築地川区間は、1964年の東京五輪開催を契機に築地川を埋め立てて整備した。区間延長は約1・5キロ。コンクリートの剥離など老朽化が進み、大規模更新の可能性が議論されている。

 区は上部活用の方向性を示す「築地川アメニティ整備構想」を、19年9月に策定した。築地川区間の中央区役所付近から銀座郵便局付近の約1キロを対象に、覆蓋(ふくがい)で創出した上部空間を活用して、緑豊かな歩行者ネットワークや防災活動拠点、イベントを開催できる共用空間の整備を目指す方針を掲げた。

 覆蓋のスキームについて、区の担当者は「首都高速会社が大規模更新に併せ、一連の工事として覆蓋化工事を実施するのがスムーズではないか」とした。緑化空間の整備などは「区や再開発組合が取り組む可能性もある」との見通しを示した。

 築地川沿線の「築地一丁目地区」(築地1の7ほか)では、再開発準備組合が17年から活動している。街づくりの動きがある同地区付近での、先行した覆蓋の在り方の検討も視野に入れている。

 8日に会見した山本泰人中央区長は「外から来る人、在住の人両方にとって大きな財産になる」と事業の重要性を説明した。

2021年2月8日月曜日

【回転窓】懐かしい秩序のある新幹線

 在宅勤務や移動の自粛が続き、出張のときに見た景色や思い出が話題になる機会が増えていると聞いた▼船上で見た真っ青な空と海が印象的な初夏の瀬戸内海、紅葉の険しい崖からエメラルド色の川面が見渡せる黒部峡谷のトロッコ列車…。人それぞれの絶景が仕事のため目的地に向かう旅の思い出にあるという。ブルブルした携帯電話が知らせてくれた身震いした内容を忘れられない人も少なくないそうだ▼JR東日本が新幹線の車内でウェブ会議や携帯電話の通話ができる「新幹線オフィス」の実証実験を東北新幹線で始めた。3人掛けの座席も1人で利用でき、追加料金は不要。会話が漏れるのを防ぐために情報マスキング音を流す▼新型コロナウイルスの影響によって社外で働く時間が増えた人は多い。「移動時間も有効に使ってほしい」と1日8~10本の1編成に1両ずつ「リモートワーク推奨車両」を設けた▼気兼ねなく出張できなくなって1年ほど。周りを気にして控えめにキーボタンを押したり、通話で席を立つ人のために座り直してスペースを空けたり。働く人の秩序が感じられた新幹線の車内が懐かしい。

【笹塚~初台間に憩いの場】玉川上水旧水路緑道再整備、2022年度の着工めざす

  東京・渋谷区が京王電鉄笹塚~初台駅の沿線エリアにある「玉川上水旧水路緑道」の再整備プロジェクトに取り組んでいる。

 老朽化した遊具や親水施設などを地域のニーズに合わせ更新。街づくりのけん引役になる緑道を目指す。着工は2022年度を計画。基本・詳細設計は東京ランドスケープ研究所に委託している。区は21年度予算案に関連経費2億2600万円を計上した。

 再整備のコンセプトは「FARM」。エリアごとに機能を設定し地域の交流を育むエリア、作物を育てるエリアなどを設ける。整備に当たっては、Park-PFI(公募設置管理制度)といった民間活力の導入も視野に入れている。

 玉川上水旧水路緑道は玉川上水を地下水路にし、上部を遊歩道状に整備した都市公園。笹塚、大山、幡ケ谷、西原、初台、代々木の各緑道を1982~85年に整備した。遊具や親水施設、トイレ、駐輪場などを配置している。延長は約2・6キロ。

 完成から時間が経過し施設は老朽化。新たなニーズに合わせた再整備が課題になっていた。区は緑道がある京王線笹塚駅や幡ケ谷駅、初台駅周辺の住民と再整備の方針を協議している。今年度には「ササハタハツ会議」を開設。専門家を交えて検討を深めている。

【技術者の誇り、後世へ】静岡県交通基盤部、構造物・建築物に技術者名の銘板設置

  静岡県交通基盤部は、完成した土木構造物や建築物に工事関係技術者の名前を刻んだ銘板を設置する取り組みを始めた。

 技術者の誇りを示し後世に伝えることで、将来の建設産業を支える若手就労者の確保につなげる。第1弾として大坂沢砂防堰堤(掛川市大坂)に設置する。

 対象となる土木構造物は樋門・樋管、排水機場、水門、堰、砂防堰堤、トンネル、コンクリートシェッド、RC擁壁(高さ5メートル以上)、ボックスカルバート(内空断面積25平方メートル以上)、橋梁、ダム。建築は新設の建物。

 銘板には名称、施工年度、概要とともに設計会社と管理技術者、施工会社と監理(主任)技術者の名前を刻む。技術者名は会社を通じ了承が得られた場合に記載する。費用は県が負担する。

 1月8日以降に公告した案件から適用しているが、工事中の案件でも受発注者の合意が得られれば設置する。

【凜】フォトラクションカスタマーサクセス部部長・野崎華弥さん

  ◇建設現場の魅力伝えたい◇

 建築・土木の生産支援クラウドサービス「Photoruction(フォトラクション)」の顧客対応チームのリーダーとして奔走する。

 大学の建築学科を卒業後、ハウスメーカー勤務や派遣での施工管理などを経験。海外で仕事をしたいとゼネコンの入社試験を受けていたタイミングで、写真管理や電子黒板、書類作成など現場情報を一元管理できる同サービスを知った。「こうしたサービスが増えたら、若い人がもっと建設業界に定着しやすくなる」と直感し、入社を決めた。

 「お客さまが何をしたいのかを考えて提案する」ことがモットー。「効率化のために入れたツールでストレスを感じるのは良くない。押し付けるのではなく、小さく導入してもらい『使うと楽だね』とお客さまが感じて広がっていく方がうれしい」と笑顔で話す。

 自身の経験から、「現場にはまだまだ人の手が必要」と感じる。オペレーターによる確認と人工知能(AI)を組み合わせて、書類作成などを支援する外注サービスを展開中。より注力するべき所に人や時間を集中してもらうのが目指す姿だ。「現場のニーズを聞きながらメニューを増やしていきたい」と意欲を見せる。

 「建設業界で働く女性が魅力的だということを発信したい」とも。「格好良く働く姿を見て『これって建設現場なんだ』と伝わるといい」。休日は、読書や映画鑑賞をして過ごす。愛犬と共に癒やしの時間を満喫している。

 (のざき・かや)

【中堅世代】それぞれの建設業・277

知識を身に付けることも大事だが、
それを分かりやすく伝える会話力も不可欠だ

 ◇つらさや苦しさもバネにゼネラリストへ◇

  住宅設計に興味があった中野智恵子さん(仮称)は、大学で建築学科に進んだ。建築設計の授業は楽しく「特にプレゼンテーションの作業は頭の中で想像したものを、人に見えるよう形にする。その工程がたまらなく好きだった」。一方で、構造や法律といった苦手科目は、試験前の詰め込み勉強でようやく単位を取得。「今となってはほろ苦い思い出かな」とはにかむ。

 卒業後、主に住宅設計を手掛ける建築設計事務所に就職。施主はもちろん現場に携わる職長、職人との日々のやりとりは苦労も多かったが、物件が完成した時の達成感は何ものにも代えがたい。こうした経験を重ねる中で人の暮らしにより広く、深く関わりたいとの思いが募った。「住まいづくり」にとどまらず「街づくり」の視点も含めた仕事をしたいと、生まれ育った街の市役所に転職した。

 最初に配属されたのは建築指導係。前職で住宅設計を経験したこともあり建築基準法をかじったが「法律の知識が乏しいのに、長年建築設計をしてきた設計者の方々に建築指導することは、かなりのプレッシャーだった」。まずは知識をとにかく付けようと苦手科目に向き合った。

 建築基準法は奥が深く、身に付ける知識も多岐にわたる。しかも法律だけを勉強しても、確認申請や検査などの建築指導はできない。設計のプロたちと同じ舞台に立つには、法律の内容や解釈をきちんと理解し、分かりやすく伝える会話力も求められた。

 これまで個人住宅やホテル、商業施設などさまざまな確認申請を審査してきた。市内は社寺や動物園などの観光地、歴史ある住宅地など個性豊かな地区が集積している。動物園内の建物や社寺建築、駅舎など多様な建築物の確認申請、中間・完了検査に携われるのは「この街でこの仕事をする魅力だと思う」。

 図面の段階から完成するまですべての工程に関わることができる。図面通り、法律に合った形で建築物が完成すると、設計者と共に喜びを分かち合うことも。しかし大変なこともまだまだ多い。法律で明確にされていないことや、新しい技術・用途に対して、どのように考え、どう指導していくか。設計者は分からないことを問い合わせるため役所に来るが、市としてなかなか決定できない事項も少なくない。日々の勉強と情報収集を怠ってはいけない。

 市役所の建築職は建築指導のほか条例指導、街づくり、公共施設の整備などの業務があり、基本的には3年をめどに異動する。昨年、公共施設の整備に異動し、また一から学ぶことも多いが、建築基準法の知識が強みになっている。「建築指導係での3年間でたくさんのことを学び、成長できた」と実感している。

 最終的に街づくりに携わる課に配属されたいと思っているが、どの業務も責任のある仕事。「さまざまな業務を経験し建築の『ゼネラリスト』になることで、街づくりの役に立つことが必ず増える」。つらくても、苦しくても、すべてが経験。与えられた仕事に前向きに取り組んでいきたい。

【きみに期待】鹿島工事課長・中瀬一暁さん「無事竣工へチームまとめる」

中瀬さん㊨と安井所長
 

 2005年に入社し関東支店を中心に、再開発事業や工場、学校などの建築工事を経験してきた。現在は首都圏の大規模再開発プロジェクトで、工事課長として地上鉄骨構築や躯体工事全般を担当している。

 工事はメインの鉄骨が完了し細かい部分の鉄骨などを構築中。「周りで仕上げなどが進む中、狭い場所や高所での鉄骨構築が続く。皆が円滑に施工し無事に竣工できるようチームをまとめていく」と力を込める。

 「繊細で優しい」が上司である安井啓所長の人物評。「優しさが裏目に出ることもある。部下にも自分にも厳しく、頼れるリーダーになってもらいたい」と期待を込めて話す。

 地域住民らが完成を待ちわびる大規模プロジェクトで「大きい仕事を手掛けられることはありがたい」と中瀬さん。今後に向けては「新しいツールを積極的に採用して、現場全体の生産性向上につなげたい」と意欲を見せる。

 「部下として動かせる人材が少なく苦労している世代」という中瀬さんの仕事ぶりを間近で見ている安井所長。「今後も劇的な改善は見込めない。より効率的な方法がないか柔軟に考え、一歩先のやり方を実践してほしい」とエールを送る。

【駆け出しのころ】高砂熱学工業常務執行役員東京本店長・土谷科長氏

  ◇積極的に挑戦しやり切る◇

 就職先を考えた時にメーカーなどで働くよりも、さまざまな現場で異なる仕事に携われる建設業が自分には向いているかなと感じました。

 縁あって高砂熱学工業に入社し研修後、5月の大型連休明けに東京・渋谷にあった公共施設の建設現場に配属されました。現場は設備工事が始まる前だったため、7月ごろまでは会社で図面関係の業務に従事。作業に本格着手する前に、先輩から「現場に行ってスリーブ(さや管)を入れてこい」と指示され、一人で現場に向かいました。現場の職人に聞けば大丈夫ということでしたが、その職人も新人だったため、互いに戸惑いながら作業したのを覚えています。

 1年目は何かを教わったというよりも、とにかく目の前の仕事に無我夢中で取り組みました。設備工事を監督する立場なので、年上の職人にも「ちゃんと作業するように」と指示を出したら、「若造が生意気に何言っているんだ」とよくどやされました。

 若手時代の思い出深い建設現場は、入社5年目に携わった東京駅に近い事務所ビル。着工後、オーナーの要望で当初の設計から施設用途などが大幅に見直されました。初めての所長で社員は自分一人。建物の設計を担当した会社は意匠系だったため、設計変更に伴う設備関係の設計と見積もりもすべて、一人でこなしました。

 仕様などを決める会議や打ち合わせは当時、午後10時に始まって夜中すぎまでかかることがしばしば。現場事務所に泊まり込むこともあり、一人現場で休めないことから体調管理には特に気を付けていました。

 必死に作業を進めてきたのですが、建物の竣工が間近に迫った時期に設備工事で大きな漏水が発生。普通なら竣工に間に合わないところを、建築担当のゼネコンなど現場関係者らの支援のおかげで、なんとか工期通りに作業を終えることができました。それまで一生懸命に取り組んできた姿を周りが評価し、支えてくれたのだと感じています。

 設備工事では複数の機材や機器などを自分なりに組み合わせ、いろいろなやり方を提案することが可能です。30代前半に担当したホテルの建設現場では作業工程を短縮するため、機材を地組みしてからつり上げる工法を検討し、メーカーやゼネコンの協力を得て採用してもらいました。

 下調べをして、自分で現場作業のストーリーを組み立てる。個の発想で現場を変えられ、答えが一つでないことが設備工事の面白み。若手社員には目の前の仕事が自分の思ったようにいかなくても、諦めずに試行錯誤しながらやり切ってほしいです。

入社13年目、現場担当者らとの懇親ゴルフで
(前列右から2人目が本人)

 (つちや・のりなが)1983年北見工業大学工学部応用機械工学科卒、高砂熱学工業入社。執行役員東京本店副本店長、同横浜支店長を経て2020年4月から現職。北海道出身、59歳。

2021年2月4日木曜日

【用地取得費削減、施設整備先送り…】都内自治体、コロナ禍で予算編成厳しく

都内区部の道路整備予定地。
関係権利者の理解を得ながら用地取得を進めている

  東京都内の自治体で財政悪化の懸念が深まっている。新型コロナウイルスへの対応でかさむ歳出と、景気後退に起因する税収減が自治体を直撃。2021年度の予算編成に色濃く影響を与えた。都は用地取得費に焦点を当て経費節減を断行。公共施設の整備延期を決めた区もある。新型コロナの収束が見通せない中、厳しい財政運営が長期化する恐れもある。

 都の21年度予算編成の最終段階となる知事査定が終了した1月18日。報道陣の取材に応じた小池百合子知事は緊急性や必要性の高い事業に財源を重点的に配分するなど「めりはりを利かせた」と強調し、「不要不急」と判断した事業の具体例として「公共施設の用地取得を控えるなど苦渋の決断をした」と明かした。

 当初は「産業振興に向けた施設の整備」の事業名で200億円超の用地取得費を計上していたが、厳しい財政事情を理由に知事査定で全額カットした。そのまま予算化されていれば施設整備の新規プロジェクトとして21年度の目玉事業になっていた可能性もある。

 各部局の予算要求に対する財務局の査定でも、やり玉に挙げられたのは用地取得費。コロナ禍で需要が高まる中小企業制度融資への対応や、東京五輪・パラリンピックの延期に伴う追加経費で歳出はいやが応でも膨らむ。「例年以上に激しく議論し歳出削減に努めた」と財務局幹部。その中でも用地取得費には「相当切り込んだ」という。

 最終的に予算案に計上した投資的経費のうち工事費などは8114億円(前年度比489億円減)、用地取得費は1289億円(同600億円減)。工事費の減少は大型工事の完了など各事業の進捗(しんちょく)状況に左右された側面が大きい。一方、用地取得費は過去の予算執行率が低調となっている事業を削減対象とし「より確度の高い事業に(優先的に予算を)付けた」(財務局担当者)。

 道路や河川、公園を所管する建設局の関係予算には、用地取得費にメスを入れた跡が鮮明に見て取れる。災害対策に重点配分したため工事費は前年度より307億円増加したが、道路整備などの前提として必要となる用地取得費は497億円減少した。

 東京23区の各自治体では財政負担が大きい学校建て替えなど公共施設の整備・更新事業を先送りし、歳出削減を図る事例が目立つ。

 練馬区の前川燿男区長は「(08年の)リーマンショック後は400億円強の減収となったが、今回はそれぐらいでは済まないだろう」と危機感を募らせる。予算編成では「聖域のない事業見直し」(前川区長)を断行し、56億円の歳出を削減。公共施設整備に関する実施計画を見直し、区民館や図書館の改修、学校の設計を当面延期する。

 文京区の成澤廣修区長は学校改築の計画的な推進に懸念を示す。歳入減の影響で「(改築工事代金の)支払いすら基金を取り崩さないと回らない」と打ち明ける。21年度は一部の公園整備事業の予算計上も見送った。

 20年度に予定していた「(仮称)江北健康づくりセンター」の工事発注を延期した足立区。それでも複数の学校改築などを抱えており、公共施設の更新需要は依然大きい。近藤やよい区長は「できる限りの減額を図ったが、かさむ投資的経費を抑えられなかった」と予算編成作業の苦労をにじませた。

 一方、歳出抑制を拙速に進めることには疑問の声もある。杉並区の田中良区長は「この状況で歳入が減ったから単純に予算規模を減らせばいいと考えてはいない。経済が良くないと繁栄しない。行政がきちっと対応するニーズに応える予算編成が必要」と指摘する。

 再発令された緊急事態宣言の延長が2日、決定した。景気低迷の長期化は避けられない情勢。都内自治体の税収減は複数年にわたる公算が大きく、必要な公共投資を巡る慎重な判断はしばらく続きそうだ。コロナ禍がもたらした難題に各自治体がどう応えていくのか、22年度以降の予算編成でも問われることになる。

 □リーマンショック後と同等の都債発行へ□

 都は21年度、前年度から3996億円の税収減を想定。財源の不足分を確保するため、これまで抑制してきた都債の大量発行に踏み切る。21年度の発行額は5876億円(前年度比3792億円増)。新型コロナ対策への充当分を除くとリーマンショック後の09年度と同水準となる。

 この十数年で着実に積み立ててきた基金も活用する。19年度最終補正後の基金残高は2兆5047億円。20年度は新型コロナ対策の補正予算を断続的に編成し、1兆円近くあった財政調整基金が一時ほぼ底を突いたが、21年度にも特定目的基金(社会資本整備基金など)を中心に例年と同規模を取り崩す予定。同年度末の基金残高は7611億円となる見込みだ。

 財務局幹部は、持続可能な財政運営の観点で一定の基金残高を確保していると説明。これまで都債の発行を抑制し「身を軽くしてきたからこそ新型コロナにも対応できている」とも強調する。起債依存度(歳入に占める起債の割合)は7・9%(前年度比5・1ポイント増)と大幅に上昇したが、国(起債依存度40・9%)や地方自治体全体(同12・5%)と比べると低い水準を維持。都債発行にはまだ余力があるとの見方もできる。

【東日本大震災から10年】東北整備局ら協議会、震災伝承施設に仙台空港など31件追加

  東北地方整備局が事務局を務める「震災伝承ネットワーク協議会」(会長・梅野修一東北整備局長)は2日、第6回会合を仙台市青葉区の仙台合同庁舎B棟で開いた。

 新たに仙台空港(宮城県名取市、岩沼市)を含む31施設を「震災伝承施設」として登録。今回の決定で登録した施設の累計は271施設となる。

 冒頭あいさつした梅野局長は「震災伝承活動は非常に重要な取り組みと認識している」と強調。「新型コロナウイルスの感染拡大で人から人へと伝える伝承活動も厳しい状況に置かれている。ウェブを使った発信など新たな取り組みが必要になってくる」と指摘した。

 震災伝承施設は、震災で大きな被害が出た東北4県(青森、岩手、宮城、福島)から随時募集しており、年2回開く協議会で選定している。今回登録した施設の数を県別に見ると、岩手が24施設、宮城が4施設、福島が3施設。登録した施設数の累計は、青森が6施設、岩手が105施設、宮城が123施設、福島が27施設となっている。

 今回の会合では防災貢献の観点から仙台空港を登録した。空港は津波の影響でほぼ全ての敷地が冠水。旅客ターミナルビルには利用者や周辺住民、空港従業員ら約1700人が避難した。震災後、空港内には教訓パネルや津波到達高さの表示板などを設置した。

 協議会は2021年度からの新たな取り組みとして「震災伝承連絡会議(仮称)」を立ち上げる予定。伝承活動を行う語り部や伝承施設管理者、産学官の関係者らが集まり、震災伝承の課題や在り方を話し合う。初会合の日程は未定となっている。

 今回登録された31施設は次の通り。名称・所在地。

 【岩手県】野田村復興展示室・野田村▽東日本大震災津波記念碑・岩泉町▽3・11希望の灯り・陸前高田市▽東日本大震災大津波記念碑・野田村▽津波石碑(鶴樹神社の津波溺死霊供養塔)・陸前高田市▽津波石碑(明下の招魂供養塔)・同

 ▽津波石碑(大陽の津波溺死紀念碑)・同▽津波石碑(慈恩寺の海嘯溺死漂着者碑)・同▽津波石碑(前花貝の海嘯溺死漂着者碑)・同▽津波石碑(華蔵寺の弔海嘯赤痢亡霊碑)・同▽津波石碑(華蔵寺の海嘯溺死供養塔)・同

 ▽津波石碑(華蔵寺の弔海嘯溺死霊碑)・同▽津波到達地点記念碑(中沢の津波記念碑)・同▽津波到達地点記念碑(六ケ浦の津波記念碑)・同▽津波到達地点記念碑(大陽の津波記念碑)・同▽桜木町・花輪田地区慰霊碑・大槌町

 ▽小枕・伸松地区慰霊碑、芳名塔・同▽沢山・大ケ口地区慰霊碑(沢山)、津波到達伝承表示・同▽沢山・大ケ口地区慰霊碑(源水)・同▽赤浜地区慰霊のモニュメント・同▽吉里吉里地区慰霊碑、津波到達伝承碑・同▽浪板地区慰霊碑、津波到達伝承碑(5基)・同▽小鎚地区慰霊碑・同▽金沢地区慰霊碑・同

 【宮城県】名取市震災復興伝承館・名取市▽閖上中学校遺族会慰霊碑・同▽仙台空港・同、岩沼市▽昭和8年3月3日大震嘯災祈念碑(荒浜)・石巻市

 【福島県】ふたばいんふぉ・富岡町▽原釜尾浜防災緑地・相馬市▽震災伝承看板「松川大洲・大浜地区海岸堤防」の復旧(相馬市尾浜)・同。

2021年2月3日水曜日

【阿蘇大橋の架け替え完了】国道325号阿蘇大橋ルート、3月7日に全線開通

 2016年4月の熊本地震で落橋し通行不能になっている国道325号の阿蘇大橋ルートが、3月7日午後3時に全線開通する。国土交通省は2日に発表した。熊本地震で寸断したすべての国道と県道が開通する。

 阿蘇大橋ルートの延長は約1km。被災した阿蘇大橋を約600m下流側で架け替えた。新しい橋の延長は525m。国の権限代行事業として復旧工事を推進。早期復旧に向け24時間施工や工期短縮につながる施工技術を採用した。

 ルートの開通で熊本市内と南阿蘇方面のアクセスが改善。震災直後に60分掛かっていた所要時間が33分に短縮できる見込みだ。開通日に現地で式典を開く。