2021年2月8日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・277

知識を身に付けることも大事だが、
それを分かりやすく伝える会話力も不可欠だ

 ◇つらさや苦しさもバネにゼネラリストへ◇

  住宅設計に興味があった中野智恵子さん(仮称)は、大学で建築学科に進んだ。建築設計の授業は楽しく「特にプレゼンテーションの作業は頭の中で想像したものを、人に見えるよう形にする。その工程がたまらなく好きだった」。一方で、構造や法律といった苦手科目は、試験前の詰め込み勉強でようやく単位を取得。「今となってはほろ苦い思い出かな」とはにかむ。

 卒業後、主に住宅設計を手掛ける建築設計事務所に就職。施主はもちろん現場に携わる職長、職人との日々のやりとりは苦労も多かったが、物件が完成した時の達成感は何ものにも代えがたい。こうした経験を重ねる中で人の暮らしにより広く、深く関わりたいとの思いが募った。「住まいづくり」にとどまらず「街づくり」の視点も含めた仕事をしたいと、生まれ育った街の市役所に転職した。

 最初に配属されたのは建築指導係。前職で住宅設計を経験したこともあり建築基準法をかじったが「法律の知識が乏しいのに、長年建築設計をしてきた設計者の方々に建築指導することは、かなりのプレッシャーだった」。まずは知識をとにかく付けようと苦手科目に向き合った。

 建築基準法は奥が深く、身に付ける知識も多岐にわたる。しかも法律だけを勉強しても、確認申請や検査などの建築指導はできない。設計のプロたちと同じ舞台に立つには、法律の内容や解釈をきちんと理解し、分かりやすく伝える会話力も求められた。

 これまで個人住宅やホテル、商業施設などさまざまな確認申請を審査してきた。市内は社寺や動物園などの観光地、歴史ある住宅地など個性豊かな地区が集積している。動物園内の建物や社寺建築、駅舎など多様な建築物の確認申請、中間・完了検査に携われるのは「この街でこの仕事をする魅力だと思う」。

 図面の段階から完成するまですべての工程に関わることができる。図面通り、法律に合った形で建築物が完成すると、設計者と共に喜びを分かち合うことも。しかし大変なこともまだまだ多い。法律で明確にされていないことや、新しい技術・用途に対して、どのように考え、どう指導していくか。設計者は分からないことを問い合わせるため役所に来るが、市としてなかなか決定できない事項も少なくない。日々の勉強と情報収集を怠ってはいけない。

 市役所の建築職は建築指導のほか条例指導、街づくり、公共施設の整備などの業務があり、基本的には3年をめどに異動する。昨年、公共施設の整備に異動し、また一から学ぶことも多いが、建築基準法の知識が強みになっている。「建築指導係での3年間でたくさんのことを学び、成長できた」と実感している。

 最終的に街づくりに携わる課に配属されたいと思っているが、どの業務も責任のある仕事。「さまざまな業務を経験し建築の『ゼネラリスト』になることで、街づくりの役に立つことが必ず増える」。つらくても、苦しくても、すべてが経験。与えられた仕事に前向きに取り組んでいきたい。

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