2021年2月4日木曜日

【用地取得費削減、施設整備先送り…】都内自治体、コロナ禍で予算編成厳しく

都内区部の道路整備予定地。
関係権利者の理解を得ながら用地取得を進めている

  東京都内の自治体で財政悪化の懸念が深まっている。新型コロナウイルスへの対応でかさむ歳出と、景気後退に起因する税収減が自治体を直撃。2021年度の予算編成に色濃く影響を与えた。都は用地取得費に焦点を当て経費節減を断行。公共施設の整備延期を決めた区もある。新型コロナの収束が見通せない中、厳しい財政運営が長期化する恐れもある。

 都の21年度予算編成の最終段階となる知事査定が終了した1月18日。報道陣の取材に応じた小池百合子知事は緊急性や必要性の高い事業に財源を重点的に配分するなど「めりはりを利かせた」と強調し、「不要不急」と判断した事業の具体例として「公共施設の用地取得を控えるなど苦渋の決断をした」と明かした。

 当初は「産業振興に向けた施設の整備」の事業名で200億円超の用地取得費を計上していたが、厳しい財政事情を理由に知事査定で全額カットした。そのまま予算化されていれば施設整備の新規プロジェクトとして21年度の目玉事業になっていた可能性もある。

 各部局の予算要求に対する財務局の査定でも、やり玉に挙げられたのは用地取得費。コロナ禍で需要が高まる中小企業制度融資への対応や、東京五輪・パラリンピックの延期に伴う追加経費で歳出はいやが応でも膨らむ。「例年以上に激しく議論し歳出削減に努めた」と財務局幹部。その中でも用地取得費には「相当切り込んだ」という。

 最終的に予算案に計上した投資的経費のうち工事費などは8114億円(前年度比489億円減)、用地取得費は1289億円(同600億円減)。工事費の減少は大型工事の完了など各事業の進捗(しんちょく)状況に左右された側面が大きい。一方、用地取得費は過去の予算執行率が低調となっている事業を削減対象とし「より確度の高い事業に(優先的に予算を)付けた」(財務局担当者)。

 道路や河川、公園を所管する建設局の関係予算には、用地取得費にメスを入れた跡が鮮明に見て取れる。災害対策に重点配分したため工事費は前年度より307億円増加したが、道路整備などの前提として必要となる用地取得費は497億円減少した。

 東京23区の各自治体では財政負担が大きい学校建て替えなど公共施設の整備・更新事業を先送りし、歳出削減を図る事例が目立つ。

 練馬区の前川燿男区長は「(08年の)リーマンショック後は400億円強の減収となったが、今回はそれぐらいでは済まないだろう」と危機感を募らせる。予算編成では「聖域のない事業見直し」(前川区長)を断行し、56億円の歳出を削減。公共施設整備に関する実施計画を見直し、区民館や図書館の改修、学校の設計を当面延期する。

 文京区の成澤廣修区長は学校改築の計画的な推進に懸念を示す。歳入減の影響で「(改築工事代金の)支払いすら基金を取り崩さないと回らない」と打ち明ける。21年度は一部の公園整備事業の予算計上も見送った。

 20年度に予定していた「(仮称)江北健康づくりセンター」の工事発注を延期した足立区。それでも複数の学校改築などを抱えており、公共施設の更新需要は依然大きい。近藤やよい区長は「できる限りの減額を図ったが、かさむ投資的経費を抑えられなかった」と予算編成作業の苦労をにじませた。

 一方、歳出抑制を拙速に進めることには疑問の声もある。杉並区の田中良区長は「この状況で歳入が減ったから単純に予算規模を減らせばいいと考えてはいない。経済が良くないと繁栄しない。行政がきちっと対応するニーズに応える予算編成が必要」と指摘する。

 再発令された緊急事態宣言の延長が2日、決定した。景気低迷の長期化は避けられない情勢。都内自治体の税収減は複数年にわたる公算が大きく、必要な公共投資を巡る慎重な判断はしばらく続きそうだ。コロナ禍がもたらした難題に各自治体がどう応えていくのか、22年度以降の予算編成でも問われることになる。

 □リーマンショック後と同等の都債発行へ□

 都は21年度、前年度から3996億円の税収減を想定。財源の不足分を確保するため、これまで抑制してきた都債の大量発行に踏み切る。21年度の発行額は5876億円(前年度比3792億円増)。新型コロナ対策への充当分を除くとリーマンショック後の09年度と同水準となる。

 この十数年で着実に積み立ててきた基金も活用する。19年度最終補正後の基金残高は2兆5047億円。20年度は新型コロナ対策の補正予算を断続的に編成し、1兆円近くあった財政調整基金が一時ほぼ底を突いたが、21年度にも特定目的基金(社会資本整備基金など)を中心に例年と同規模を取り崩す予定。同年度末の基金残高は7611億円となる見込みだ。

 財務局幹部は、持続可能な財政運営の観点で一定の基金残高を確保していると説明。これまで都債の発行を抑制し「身を軽くしてきたからこそ新型コロナにも対応できている」とも強調する。起債依存度(歳入に占める起債の割合)は7・9%(前年度比5・1ポイント増)と大幅に上昇したが、国(起債依存度40・9%)や地方自治体全体(同12・5%)と比べると低い水準を維持。都債発行にはまだ余力があるとの見方もできる。

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