2019年6月10日月曜日

【駆け出しのころ】西松建設執行役員九州支社長・吉田卓生氏

 ◇苦労と喜びを繰り返し成長◇

 公務員だった父親から「男の仕事でダムの建設とかいいよな」と言われ、幼いながら自分もそう思うようになりました。高校の修学旅行で黒四ダムを実際に見て、すごい仕事だと実感したことが土木の世界に入るきっかけになったと思います。

 入社後に赴任した高速道路の現場では、仕上がりを示す丁張りの作業で重い機材を担ぎながら山を毎日駆け巡りました。過酷で地味な仕事です。

 土木構造物はスケールの大きな仕事に見えて、造っている間は小さなことの繰り返し。土木技術者として、まずは図面を見て測量できなければ、どういうものを造るのかイメージできず、作業員にも指示できません。歩掛かりを取ることも地味な作業ですが、工事の出来高や予算・費用など、現場の実態を肌身で感じることができます。

 最近は現場でのICT(情報通信技術)活用が進み、丁張り作業なども機械任せになり、技術者として必要な技量が身に付くのかと心配しています。苦労しながら技術を身に付けることは大切です。

 入社2年目のころ、山深いダム現場に配属されました。周囲は水没するから何もなく、宿舎・事務所と現場を行き来するだけの毎日。宿舎に居着いた野良犬に「タロウ」と名を付け、しっぽを振って私の帰りを待っている犬が現場関係者以外でコミュニケーションをとる唯一の相手でした。

 当時は「なんでこんなに苦しく、寂しい思いをしなければならないんだ」とも思いましたが、「ここでやめたら何も残らない。まだ先はあり、負けてたまるか」と奮起しました。

 どこの現場でも完成した時の喜びは格別です。技術者は苦労と喜びを繰り返しながら成長していきます。生産性向上や働き方改革など、現場ではいろんなことにチャレンジしやすい環境にあり、一人一人が自己アピールするチャンスととらえ、頑張ってほしい。

 入社18年目、営業畑に移りました。現場所長を経験せぬまま、最初は「何で自分が」と思いましたが、人生の転換期で逆に面白そうだと感じました。苦労はありましたが、人と話をすることは嫌いではなく、人脈が広がる面白さがあります。営業が仕事を取らないと、土木も建築も成り立たないため、仕事への責任感はより強くなりました。

 営業も地道に相手先を回ることが受注に結び付きます。沖縄での営業時代はお酒の付き合いも大変でしたが、地元の人たちは温かく、土地の雰囲気や風土にも親しみを覚えました。

 会社組織を運営する上で、働き方改革は重要課題です。改革の本質は単に仕事をしないのではなく、自分で工夫して仕事の効率を上げ、休むために努力すること。若い人たちにどんどん挑戦してもらうため、先輩とも活発に意見が言い合える風通しのいい職場づくりに励んでいます。

高校の修学旅行で訪れた黒四ダムでの一枚(右側が本人)
(よしだ・たくお)1987年熊本大学工学部卒、西松建設入社。九州支社沖縄営業所長、土木計画部長、土木部長などを経て2018年2月から現職。熊本県出身、55歳。

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