◇他分野のデザイナーと協働◇
2020年東京五輪・パラリンピックで出場する選手や関係者を迎え入れる選手村。東京・晴海にある広大な敷地に整備される住宅や商業施設の全体計画、施設デザインを建築家の光井純氏(光井純&アソシエーツ建築設計事務所社長)が手掛けた。インテリアやランドスケープなど各分野で活動するデザイナーと協働し、ビッグプロジェクトを成し遂げた光井氏に選手村のデザインコンセプトを聞いた。
--選手村のデザインコンセプトは。
「健全で快適なコミュニティーをつくる上で、一体感のある空間や景観づくりを目指した。文化活動やイベントの開催など利用する人々と空間がマッチした街となるよう、まずは全体計画に相当するマスタープランの作成に着手した。その後、マスタープランを基に街区ごとのデザインガイドラインを決めた」
「住宅以外には、周辺にショッピングセンターやBRT(バス高速輸送システム)のターミナルも整備される。この点を踏まえ、マスタープランでは超高層住宅が立地する敷地中央を軸に、施設をシンメトリー(左右対称)に配置した。多様な世代が居住するのにふさわしい、利便性の高い街に生まれ変わるだろう」
--他分野のデザイナーが参加していると聞く。
「多くの人が訪れることを考えると、建築家だけでは施設から見た眺めや配置の面で偏りが生じると感じた。プランづくりの当初からインテリアやランドスケープなどで知見を持つデザイナーに協力してもらった。計25人のデザイナーとミーティングを重ね、優れた提案の中から配置計画やデザインを決めた」
--一方で課題もあったのでは。
「一つ一つの街区に個性を与えつつ、全体のバランスを維持するには時間的にもタイトだった。そこでプランとデザインを同時進行させるというこれまでにない手法を試みた。これにより、設計の手戻りが少ない、デザイン業務としての効率化を実現できた。難しい条件下ではあったが、各デザイナーと課題を共有して進められた。大変やりがいのあるプロジェクトだ」
--今後の街づくりで建築家が果たす役割は。
「マスタープランやデザインガイドラインを立案して大規模プロジェクトを進める仕組みは、発展途上にある。今回のプロジェクトのように、計画地内の動線やインフラの配置など街の全体像を決めながら個々の建築デザインを落とし込む手法は最善と考える。街の魅力を創出するために、建築家の果たす役割は大きい。これからも建築デザインのみならず、マスタープランや街づくりにも興味を持っていただいて、多くの経験を積み100年後、200年後に街がどうあるべきかを想像できる建築家として、活躍してもらいたい」。
(みつい・じゅん)1978年東京大学工学部建築学科卒。岡田新一設計事務所で4年間勤務した後、米・イエール大学建築学科大学院に進学。84年に米国建築家協会(AIA)の学生賞と最優秀作品賞(HIフェルドマン賞)を受賞。修士号を取得後はシーザー・ペリ&アソシエーツ(現ペリクラークペリアーキテクツ)の米国建築事務所で勤務。現在はペリクラークペリアーキテクツジャパンと光井純&アソシエーツ建築設計事務所の社長を兼務する。
□ハルミフラッグ□
晴海五丁目西地区市街地再開発事業にある五つの街区(約13ha)に、5000戸超の住宅、商業施設など計24棟を整備する。特定建築者は三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスら11社。マスタープランとランドスケープは光井純&アソシエーツ建築設計事務所が担う。
都市生活の新たなフラッグシップになるという思いを込め、街の名称は「HARUMI FLAG(ハルミフラッグ)」。約1万2000人を受け入れられるよう、中層住宅や高さ180m超の超高層住宅2棟のほか、保育施設や介護住宅などを配置する。街区の中心に直径100mの広場やBRTターミナル、水素ステーションなどを設けるなど環境にも貢献している。
大会期間中に利用した後は各施設の解体と新築工事を再開。中層住宅と商業棟は23年4月、超高層住宅棟は24年4月の完成を目指す。同年度の事業完了を予定している。
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