2019年6月18日火曜日

【記者手帖】ものづくりの原点は人

世界遺産にも登録されている頭ケ島天主堂は長崎県の五島列島北東部、人口20人にも満たない小さな島にある。建物は小ぶりだが珍しい石造りの教会で、内部のかわいらしい花の装飾から「花の御堂」とも呼ばれる◆新上五島町出身の建築家・鉄川与助が設計・施工を手掛けた。費用を抑えるため地元の石を切り出し、信者らが船で運び、積み上げた。石壁には作業の際に刻まれた符丁の漢数字がいくつも残る。資金難により工事は2度中断したが、約10年をかけ1919年に完成した◆石壁を利用して列柱をなくした折り上げ天井、花の彫刻、窓枠下の水抜き穴など随所にきめ細かな工夫や心配りが見られる。素朴で人の手のぬくもりにあふれた穏やかな祈りの場だと感じた◆「鉄川与助さんが造ってくれたんです」。案内してくれた老人の言葉には誇らしさと感謝が込められているように思えた。信者が生活を切り詰めて建設資金を捻出しているのを知っていた鉄川与助は、工事が中断しても決してやめようとはしなかったそうだ。小さな教会にものづくりの原点は人だと改めて教えられた。(松)

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