2020年7月21日火曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・261

職人のこだわりと業界のトレンド。両方を把握し製品を取りそろえる

 ◇職人に寄り添い、頼られるショップに◇

 職人に寄り添う-。工具や衣類をはじめ、現場の職人が仕事道具を調達するプロショップの店長だった庭野雅司さん(仮名)は、接客をそう心得るようになった。

 流通・販売業の会社の中で職人向けの専門商品を扱う初めての店舗の責任者を任された。開店当時は売り上げを増やせるという手応えを感じると同時に、顧客が好む店舗にするための課題が山積していると実感し、先行きへの不安感を覚えた。

 ホームセンターでは扱っていない工具や備品を求めて来店してくれた職人に「すぐ取り寄せますよ」と応じたが、「じゃあいいや」と予約せずに帰ってしまった。「道具にこだわりのある人ばかり。代替品では納得してもらえない」と痛感した。

 こだわりのあるDIY用の道具を求めるような一般消費者以上に、職人のニーズに応える店舗というふれこみで出店した。ホームセンターのプライベートブランドのような製品ではなく、高額なハイスペックを含めた専門メーカーの製品をそろえるよう心掛けた。「こういう製品ではなく、『これ』を求めて来てくれる職人に応えたい」。店頭の商品は大幅に入れ替えてきた。近郊の店舗になかった商品を見つけた職人がうれしそうに買い物してくれた。昼休みや仕事帰りにふらっと立ち寄ってくれる顔なじみの職人が随分増えた。

 仕事柄、建設業のトレンドには敏感だ。法令整備に伴ってフルハーネスタイプの安全帯の販売量が一気に増えた時期があった。労働災害を少しでも減らしたい元請業者が熱中症対策にも一段と力を入れており、評判を口コミで聞いた職人が送風ファン付きの作業着を次々と手に取っていく。このタイプは「一度着たら脱げないよ」とある職人が話したように夏場の必需品になりつつある。充電切れに備えて、予備の送風機を購入していく職人が少なくない。

 速乾性のある下着は一般の人も購入していく。衣類はデニム系の素材の人気が続いている。防火や耐水の機能が高いのに安価でデザイン性の高い衣類が多くあり、アウトドア用に購入する一般の人が来店することもある。衣類の販売コーナーは開店当時と比べると大幅に広げた。

 躯体系、設備系、造園関係など顧客の職人はさまざま。おそろいのワーキングシューズや、同じ色の安全靴を買っていった施工班らしき一行がいる。ワーキングシューズは大手スポーツメーカーが参入し、高価だが機能の優れる商品が増えてきた。価格帯が広いが、売り手としては「靴の寿命は1000円で1カ月。1万円なら10カ月くらい」と見ている。現場の元請業者と下請業者の作業員のように、販売店の現場も信頼関係が欠かせない。人気ブランドのスニーカーと同じように、入手が難しいワーキングシューズがある。メーカーとの関係が深い仕入れ先からは、「日頃の信頼関係がないと商品を回してもらえない」という。

 コロナ禍で建設投資の先行きを懸念している。店には大手ゼネコンの現場で働くような職人や、一戸建て住宅の大工、内装工事の職人らが訪れる。景気の影響は受けながらも建設の需要には底堅さがある中で、「仕事に誇りを持った職人がたくさんいる」と考えている。求められるのはプロの職人に頼られる店。店長からは退いたが、ニーズと業界のトレンドに敏感になって店舗と職人をサポートし続ける。

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