2020年7月6日月曜日

【駆け出しのころ】三井住友建設取締役常務執行役員土木本部長・柴田敏雄氏

 ◇経験に基づく感覚が大切◇

 ゼネコンに就職しようと考えるきっかけは、青函トンネル建設を描いた映画「海峡」を見て、土木の現場はやりがいがありそうだと感じました。各社採用を控えていた厳しい時代でしたが、学校推薦で縁あって三井建設(現三井住友建設)に入社しました。

 最初は地元の名古屋支店(現中部支店)に配属され、トンネルや造成、河川関係の工事を回りました。いきなり貫通間近のトンネル現場に赴任し、貫通式では一升瓶を背中に突っ込まれたことを覚えています。

 次の大規模造成の現場には、着工時から工事があらかた終わるまでの1年半ほど勤務。土の動かし方や型枠、鉄筋の組み方など、基礎的なことを学びました。

 宿舎に泊まり込みで働き、山奥で明けても暮れても測量の毎日。荷物を担いで測量杭をハンマーで打ち込む力作業が続いた時には、大学を出てやる仕事かなと頭によぎることもありました。たまの休みには街に出掛けたり、学生時代から続けているサッカーの練習に励んだりして気分転換していました。

 技術者をさまざまな部署にローテーションしながら育成する会社の方針を受け、入社5年目に本社の土木設計部に異動。結局、二十数年も設計畑を歩くことになります。主に電力・エネルギー関係の構造物の設計に携わりました。

 コスト面も含めて現場にマッチした設計を行うには、現場経験が生かされます。最初は深く考えずに担当した設計の仕事でしたが、次第にはまっていきました。

 思い出深い仕事はガス会社から受注した液化天然ガス(LNG)の地下タンク。要求レベルが高く、上司や先輩含めて7、8人で2年ほどかけて取り組みました。発注者との打ち合わせは、朝から晩まで一日かかることもあり、残業も多かったです。激務から上司たちが体調を崩して業務から離れ、成果品を持ち込む前に残ったのは私と新人の2人だけ。寝る間も惜しんで作業し、最後は若さで乗り切りました。

 設計者として駆け出しのころは、コンピューターが出した答えが合っているかがよく分かりません。上司から「複雑なものはまず簡略化しなさい」と教えられました。簡略化したら簡単な公式などに当てはめ、大まかに間違いがないかをチェックする。何でも問題が複雑に絡み合っているものをいかに単純にできるか。訓練を積み重ね、そうしたスキルを感覚的に身に付けることが技術者に必要なことだと思います。

 「違和感」も技術者に必要な感覚の一つ。何かを見たり、聞いたりした時に納得できず、違和感を覚えた時はどこかにリスクがあると考えます。納得いかなければ基本である現場をよく見る。自分の経験値からくる直感的なものを最後は大切にしてほしいです。

30代前半、社内のサッカーチームの試合で
(しばた・としお)1985年名古屋大学工学部土木工学科卒、三井建設入社。執行役員土木本部土木技術部長、同東京土木支店長などを経て2020年から現職。愛知県出身、57歳。

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