2020年7月6日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・259

人を育てる上で「背中を見て学べ」は通用しなくなっている

 ◇人を育てるには時間がかかる◇

 大竹智さん(仮名)は建設会社の3代目。40代で父親の跡を継いだ。先代の苦労を近くで見ていたこともあり、親から社長就任を打診された時は「二つ返事はできなかった」。

 電機メーカーを28歳で辞め親の会社に入った。現場で職人の手元として働くところからスタート。跡取りだろうが職人には関係ない。昔かたぎの職人からひよっこ扱いされ、最初は現場に行くと「おーい坊や」とからかわれた。名前で呼ばれない悔しさより、自分が何もできない未熟さに腹が立った。「いつか同じ力を付けてやる」。そんな負けん気が大竹さんを支えた原動力だった。

 建設業の仕事はものづくり。一つ一つのステップを大事に積み上げていく。理屈ではなく、体で覚えないといけないこともある。「一人前と周囲から認められるには最低でも3~5年はかかる」。

 今問題なのは、その間に若い人が別の仕事に移ってしまうことだ。やりがいや達成感を得られないまま建設業の仕事を離れていく。「他人の職場はよく見えるもの。じっくりと腰を据えて仕事と向き合うことが必要」と言いながら、やりきれない思いが胸中に残る。

 大竹さんの会社では若手の育成に時間を掛ける。仕事内容や年次、テーマに応じた研修制度を用意し、意欲的に学び、成長できる環境を整えている。「入社何年でこの資格を取り、こういった仕事をし、このくらいの給料になる」。ステップアップを丁寧に説明するようにしている。

 当たり前のことかもしれないが、そうした説明をきちんとしないと若い人は付いて来ない。大竹さんが社長になるまではこうした取り組みをしてこなかった。「職人気質にこだわりすぎた過ち」と断言する。

 「素人に言っても分からないだろうというのは職人の考え方。背中を見て学べでは分からない」。苦労は自分の代までにしたいとの思いから人材育成の改革に乗り出した。若手の定着率はここ数年でぐんと高まった。一方で先代から引き継いだ現場代理人や技術者が残っている。「年功序列の部分もある。高給取りばかりになって困る」と笑顔を見せる。

 社長になってから10年。その間、胃が痛むような場面に遭遇し、金銭問題に発展したこともあった。父親から教わったのは「石橋をたたいても渡らない」。最初に聞いた時は何を言っているか分からなかった。最近になってようやく真意が理解できるようになった。「もう一度確認してから判断しろということ。自信が持てなかったらやめろということだろう」と。

 建設業でも事業継承が課題となっている。後継者不足から廃業を決断するケースも少なくない。「建設業は世襲制が多い。経営者は自分の息子だから譲るのではなく、他人様であっても能力がある人は登用すべきだ」。

 大竹さんには大学へ通う息子がいる。自分は宿命とあきらめの気持ちを抱きながら、家業を継ぐため業界に飛び込んだ。息子には自分の道は自分で切り開いてほしい。そう思っている。

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