2020年10月14日水曜日

【回転窓】ミラノの風景

  翻訳家で大学教授だった須賀敦子さんが初の随筆集『ミラノの風景』(白水社)を出版したのは61歳の時。数年前この本を読んで、20年近く前の体験をここまで深い内省を込めて語れるのかと驚いた▼須賀さんのイタリア生活は29歳から13年間に及ぶ。小さな書店で仕事を見つけ、仲間と語らい、そして夫との出会いと死別。そんな出来事が昨日のように新鮮かつ客観的に描かれている▼「私のミラノは狭く、やや長く、臆病に広がっていた」(『コルシア書店の仲間たち』)。そんな気持ちでミラノの街を眺め、人々を観察した。私的な異国体験なのに読者に素直に訴える▼ミラノはコロナ禍によって欧州で最も早い2月にロックダウン(都市封鎖)が行われた。6、13日付本紙最終面の日本みち研究所との共同緊急提言で、ミラノ在住のヴァンソン藤井由実さんがその時の様子や現状を語っている▼ヴァンソンさんはコロナ禍を利用してミラノは都心から車を少なくしているとし、街ににぎわいを戻すには「歩行者が安全に歩ける空間整備が必要」という。須賀さんが愛したミラノも人が行き交い、人の匂いを感じさせる街だった。

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