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水面を滑走する水上飛行機 |
水面で発着する水上飛行機を活用し、複数の都市を結ぶ「水上空港ネットワーク構想」。国内では、東日本大震災で被災した三陸地方の復興を後押しするため、日本大学の研究者らで構成するグループを中心に調査・研究が進められてきた。遊覧飛行などを目的とした水上飛行機の運航事業会社も発足している。観光振興や地方創生の新たな方策の一つとして水上飛行機の活用が注目されている。
◇地域・観光振興で期待大◇
同構想の調査・研究を進めているのは、12年に発足した「東日本復興水上空港ネットワーク構想研究会」。伊澤岬日大理工学部名誉教授が研究代表、轟朝幸日大理工学部教授が幹事長を務めている。構想では、三陸地方に広がるリアス式海岸の湾奥にある静水域のほか、東京湾、内陸部の湖などに桟橋や揚陸・乗降施設などの空港施設を整備し、水上飛行機でネットワーク化する計画。空港整備の候補地には、岩手県の宮古や釜石、宮城県の塩釜などを選んだ。このほか、三陸地方と首都圏を結ぶネットワークの拠点として、茨城県の霞ケ浦も水上飛行場の建設地に見据えている。水上飛行機を震災の被災地で活用するメリットの一つには、交通アクセスの向上が挙げられる。
同研究会の試算によると、東京~宮古間を移動する場合の所要時間は、鉄道だと約5時間40分。一方、水上飛行機なら新幹線の規制速度(時速260キロ)と同程度のスピードで移動できるため、飛行艇(水面上で主に艇体で機体の重量を支持する航空機)で1時間半、フロート水上機(水面上で主に脚部に取り付けたフロートで機体の重量を支持する航空機)で2時間にまで短縮できるという。桟橋やスロープなどの簡易な設備と、延長1000メートル程度の静穏な水域があれば、どこでも離着水が可能なため、インフラ設備への初期投資を抑制できるのも利点。水上飛行機を活用すれば、迅速に低コストで復興を加速することが可能とみている。
伊澤名誉教授は飛行場の整備実現に向け、「水上飛行機が発着できる飛行場の整備を復興の柱とすることで、瞬間的な支援ではなく持続的な支援を行っていきたい」と強調。シンポジウムや講演などの啓発活動に一層力を入れる。こうした研究者の情熱に動かされ、いくつかの自治体で水上飛行機の導入に向けた検討が始まっている。
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東日本エリアの水上空港網を生かした事業化イメージ |
岩手県宮古市は、沿岸部の都市を結ぶ効率的で夢のある交通手段として水上飛行機に着目。12年度に航路開設に向けた検討を始めた。横浜市では、山下ふ頭(中区、約47ヘクタール)の開発の方向性を検討してきた「横浜市山下ふ頭開発基本計画検討委員会」が、7月にまとめた答申案に、地区内外の交通ネットワークを強化する施策の一つとして水上飛行機の活用を盛り込んだ。具体化に向けた議論がこれから本格化する見通しだ。
◇運航事業会社も発足◇
西日本でも、観光振興の観点から、水上飛行機に熱い視線が注がれている。広島県尾道市では、同市の境ガ浜を拠点に水上飛行機を運航する民間航空会社「せとうちSEAPLANES」(須田聡社長)が設立された。国内初の水陸両用機を活用した遊覧飛行やチャーター便の運航などを手掛け、機体の保守管理や運行乗務員・整備士の派遣なども行う。遊覧飛行では、境ガ浜マリーナを拠点に、尾道市と愛媛県今治市をつなぐしまなみ街道(西瀬戸自動車道)や広島県の名所の宮島・厳島神社、「アートの島」として世界的に知名度の高い直島(香川県)など瀬戸内海の観光地を上空から楽しめるコースを設定。島々が連なる風光明媚(めいび)な瀬戸内海沿岸地域を水上飛行機で結び、観光客を呼び込むのが狙いだ。
島根県浜田市では、漁港の既存設備を活用し、日本海沿岸と瀬戸内海沿岸とを水上飛行機で結ぶ計画を、地元経済界が中心となって検討し始めた。このほど、同市内でシンポジウムが行われ、隣接する大田市にある世界遺産「石見銀山」近くの港と浜田市の漁港を水上飛行機でネットワーク化するなど、同市の観光振興に向けた施策が提案された。轟教授は「少子高齢化による人口減少が進む中で地方経済を活性化するには、交流人口の増加が鍵になる」と指摘。既存の産業をネットワーク化することで新たな産業や文化が生まれ、地域の魅力が向上。それが交流人口の増加につながるとみる。
観光振興の視点では、地域に点在する複数の既存観光地をネットワーク化すれば、回遊性が高まり、それが地域経済の活性化や地方創生をもたらす。人が回遊する仕組みをつくるためには交通利便性の向上が不可欠。効率的でロマンがある交通手段として水上飛行機の導入に向けた検討が各地で加速しそうだ。