研究開発の方針は経営環境にも左右される… |
◇何もせぬままでは終われない◇
景気が悪い時は生産に関わる目先の技術、景気が良くなると10年先の技術を要求してくる-。
ゼネコンの研究開発の方針は、その時々の経営環境に大きく左右される。環境が厳しくなれば、限られた経営資源を利益に直接結び付けようとする意識が強くなるため、現場の収益性を高める技術開発に重点が置かれる。現在は景気が回復基調に転じ、先を見据えた技術開発への比重が徐々に高まりつつあるという。
この十数年、技術開発部門で先進的な技術・システムの研究開発に携わってきた森長廣太さん(仮名)。事業環境の変化やトップの方針転換に振り回されながらも、社内はもちろん、業界にもインパクトを与える技術の実現にがむしゃらに取り組んできた。
本社を中心にさまざまな部署を転々とした後、技術研究所で新規の事業領域・分野を開拓するための専門チームに配属された。最初は何をすればよいか全く見当が付かず、モチベーションも上がらなかった。
そんな時、幼稚園に入ったばかりの娘の姿を見て、「このまま何もせずに会社人生を終わらせては、父親としてあまりにも情けない」と心機一転。「娘の花嫁姿を見るまでは、業界で誰にも負けない成果を出すために走り続けよう」と決意した。
新規性や先進性の高い研究は成果が出にくく、現場でもすぐには使われない。研究開発の過程でも社内から何かと横やりが入る。芽がなかなか出ない時や、成果を公表する時などに文句やクレームを付けてくるのはとかく社内からだ。こうした状況に直面した時、ある上司の言葉が胸に響いた。
「提案した研究テーマに対して10人中10人が賛成したものは大した成果は出ない。3人からOKをもらえれば、その技術の方が可能性を秘めている。進んでやるべきだ」
周囲の理解をなかなか得られない中、自分が信じた技術の実用化に孤軍奮闘してきた。開発してきた技術・システムは、社内のモデル現場などに導入され、多くのメディアにも取り上げられた。専門分野で誰にも負けないという自信が付き、仕事の充実感も得られた。今では他社の数年先を走るほどの成果を残してきたと自負する。
最近、研究者の立場から、管理職として部署を統括する立場に変わり、環境変化に戸惑いを感じている。「研究所ではプレーヤーである研究者が主役。主役たちを監督するマネジャーは仕事も生活も180度変わる」
部下たちの研究分野はさまざま。会話がつながらず、どう指導すればいいのか。まずは研究テーマの方向性を見定め、未来を予測しながら各技術の将来像を明確化していった。
これまで猪突(ちょとつ)猛進で研究開発に取り組んできた。マネジャーという立場が、これまでの仕事のやり方、実績・成果を冷静に見つめ直すよい機会とも感じている。残り10年余の会社人生で最後の追い込みをかけるための力を蓄える。
娘が通った高校が昨夏、甲子園に出場。大好きな高校野球で甲子園へ応援に行く夢をかなえてくれた。「父親として、会社人として、まだまだ格好よくありたい」。そんな思いを抱きつつ、次代を切り開く技術を実用化する夢を追い続ける。
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