小説家の志賀直哉が、1946年3月発行の雑誌『展望』に、ある政治家のことをつづっている。互いに面識はないが、戦後すぐに書かれた随筆らしい▼〈…かういふ非常な時期には政治の技術など、たいして物の役には立たないのではないか。それ以上のもので乗切るより道がないやうな状態に日本はなってゐたと思ふ。鈴木さんにはさう云うものがあり、鈴木さん自身、それを自覚してゐて、総理大臣を引受けたのではないだらうか〉▼鈴木さんとは、終戦時の首相・鈴木貫太郎。45年4月、小磯国昭内閣の総辞職を受け、当時の枢密院議長だった鈴木に組閣の大命が下される。以降、終戦までにどのような史実をたどったかは、『鈴木貫太郎内閣の133日』(野田市郷土博物館発行)に詳しい▼組閣の際、本土決戦という軍部の要求を受け入れる。少しでも和平をにおわせれば軍部は一層反動的になるため、〈鈴木さんは他に真意を秘して、結局、終戦といふ港にボロボロ船を漕ぎつけた〉と志賀は評する▼戦後70年の今夏、公開中の映画『日本のいちばん長い日』で鈴木貫太郎役を名優・山崎努が演じている。
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