2015年8月17日月曜日

【インフラのストック効果は・・・】首都圏外郭放水路で水害に強い街に

首都圏外郭放水路は周辺自治体のまちづくりに好影響を与えている
大雨による水害から地域や人命を守るために造られているダム、堤防、水門、排水機場などの河川インフラ。事業推進の最大の目的が災害対策にあるかどうかが道路、鉄道などの交通インフラと河川インフラとの違いの一つだ。しかし、非常時の備えである河川インフラが日常の街づくりを促し、地域を活性化へと導くケースも出てきている。

 ◇災害リスク減、新たな開発生む契機に◇

 河川インフラの整備によって発展が進む地域の一つが、中川・綾瀬川流域と呼ばれる埼玉県東部の春日部市とその周辺市。一帯は外側を利根川、江戸川、荒川に囲まれた低地の上、地域内には別の中小河川(中川、倉松川、大落古利根川など)が流れ、雨が降るとお盆のように水がたまる地形になっている。台風が襲来するたびに住宅などの浸水が相次ぎ、住民を悩ませていた。


 その状況を一変させたのが、国土交通省関東地方整備局が総事業費2000億円以上を投じて同市に建設した巨大な地下構造物「首都圏外郭放水路」だ。「米軍関係者も興味を抱き、視察に来たほど」(当時の担当職員)という同放水路は、総延長6・3キロのシールドトンネルや、調圧水槽(幅78メートル、長さ177メートル、高さ18メートル)、立坑、排水機場などで構成。中川、倉松川などからあふれた水を立坑から地下に流し、トンネルを通して江戸川まで排出する仕組みだ。02年に部分通水、06年に全面供用された。



 「『水害に強い街』というアピールポイントが新たに生まれ、地域の可能性は大きく向上した」。春日部市は同放水路の整備効果をそう強調する。
 同放水路の整備後、中川・綾瀬川流域の浸水戸数は整備前の7000戸(1975~84年の平均)から500戸(05~14年の平均)へと激減した。市内には以前から、東京外かく環状道路と国道16号をつなぐ東埼玉道路の建設計画があり、企業立地のポテンシャルは高かった。同放水路の完成がそうしたニーズを掘り起こし、現在まで計28社の新規立地が実現。06年には市内の共同住宅の累積着工戸数も2・8倍(02年比)にまで高まった。

 ◇地域の可能性高め新たな計画誘発◇

 放水路の供用開始を契機に新たなインフラ整備の計画も動きだしている。
 同市内の春日部駅(東武鉄道)周辺は、駅舎と線路によって地域が東西に分断されている状況のため、05年度に国から着工準備採択を受けた線路を立体化する事業(春日部駅付近連続立体交差事業)の早期着手に向け、事業主体の県や鉄道事業者と協議を進めている。「駅周辺では浸水被害の減少に伴いマンション建設が増えており、鉄道全体を高架にすることで街に一体感が生まれる」と同市。市では、17年度の事業認可を目指し関係機関との調整を進めている。
 同市は人気アニメ「クレヨンしんちゃん」の舞台としても有名だ。世界ボクシング協会(WBA)スーパーフェザー級スーパー王者、内山高志選手の出身地でもある。市は安心・安全な街づくりに加え、地元発の優れたエンターテインメントや著名人らとのコラボレーションで地域の一層の発展を目指していく。

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