2015年8月24日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・107

現場の最前線で汗を流す技能者なくして建設産業は成り立たない
  ◇処遇改善で職人気質取り戻したい◇

 躯体系の専門工事会社で安全管理を担当する石原祐一さん(仮名)は最近、協力業者の親方らとの会合などで、仕事量の落ち込みについて不平・不満をよくぶつけられる。着工の遅れなどで仕事の量が減り、協力業者の職人たちのモチベーションを維持するのに一苦労だ。

 仕事に対する意欲が下がると事故も起こりやすくなり、事故が頻発すればゼネコンからの信用を失い、仕事がさらに減るという悪循環に陥りかねない。

 市場が活況の中、「元請のゼネコンは手持ち工事が増えて消化を優先し、新規着手する現場の数は逆に減っている」。そう説明しても、日給月給の職人にとって日々の仕事がないことは死活問題。素直に耳を貸してはくれない。「仕事をもらう立場と仕事を出す立場の二つの顔があり、厳しい状況下でどちらにもいい顔をしなければならないのは本当につらい」と石原さんは苦しい胸の内を明かす。

 建設技能者の処遇環境の改善に向け、労務単価の引き上げや社会保険加入促進策など、業界の長年の懸案を解決するための取り組みが官民挙げて本格化している。石原さんは、期待する気持ちも大きいが、その実現性に懐疑的な見方も払しょくできないという。「末端の現場で実際に働いたことがない人たちが、働き手の環境を本当によくすることができるのか」。どこかにそんな不信感が付きまとう。

 業界内での受注者と発注者、元請業者と下請業者の力関係はそう簡単には変わらない。凝り固まった業界構造を抜本的に改革するには痛みも伴う。

 「これまでしわ寄せを受けてきた末端の職人たちに代わって、上の人たちが自らその痛みをかぶることは考えられない。腕のいい職人たちがいなくなったら建設業は成り立たないという意識は共有しているものの、大きな問題を前に関係各者の足並みはそろっているとは言い難い」

 深刻化する人材不足などに危機感を強めるゼネコンの中には、協力会などを通じて下請業者の確保・育成に力を入れる動きも目立ってきた。優秀な職長に特別手当を支給する評価制度を導入するなどして職人のやる気を引き出し、自社への帰属意識や忠誠心を高める狙いもある。

 石原さんの会社も協力業者の職人への評価制度を構築し、このほど運用を開始した。現時点で導入効果は判断しかねるが、「すべての職人が恩恵を受けるわけではないので、やる気を高める人と失う人の二極化が進む恐れがある」という心配も。特に最近の若い世代は仕事に見切りを付けるのが早いと感じている。「努力と根気が続かず、周りから認められていないと感じると辞めてしまう子も少なくない」。競争意識が乏しく、仕事で親方や先輩を見返してやろうと考える負けん気の強い職人が年々減っているという。建設業界では、処遇環境の悪化が職人から仕事に対する誇りと情熱を失わせてきた。これから昔かたぎの職人をどう育んでいけばよいのか。

 石原さんは、元請と職人の間に挟まれながらも明るい未来を信じ、処遇改善の努力を続けていこうと思っている。

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