2019年6月24日月曜日

【回転窓】構造と感性

「人間が自分で判断する自信をなくし、コンピューターに形まで決めてもらうようになるのは望ましくない」。5月29日に亡くなった構造設計家・川口衞氏が生前そう話していた▼1960年代から構造設計に携わり、建築構造と造形の在り方や新しい構造技術の開発を基軸に数多くの功績を残した。新たなアイデアと斬新な建築物を具現化した象徴が28歳で挑んだ国立代々木競技場(東京都渋谷区、1964年竣工)であろう▼当時について「前例のない建築を実現するため自ら構造計算式を生み出し手動の加算機で計算した」と伺ったことがある。後にコンピューターで構造計算をやり直すと、全く同じ結果だったという話も印象的だった▼難しい理論を積み重ねる努力は貴重だが「事象の始まりは根源的なもので簡単な原理から考え始める。それが楽しい」とも。語り口は静かながら建築に対する情熱がひしひしと感じられる構造家だった▼ICT(情報通信技術)や人工知能(AI)など技術の進歩はめまぐるしいが、肝心なのはそれを使う人材。直感や本能を磨き自信を持とう-。こう後進に投げ掛けているに違いない。

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