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本格化した採用活動。企業と学生の思いに違いはあるのか |
企業による16年春入社の新卒採用活動がスタートしてから1カ月。リクルートスーツに身を包み、「ただいま就活中」とひと目で分かる学生を街中で見かけることも多くなった。少子化による学生数の減少に、採用活動に前のめりな企業が増えたことが加わり、売り手市場が定着した就職戦線。建設業に限らず、「女性をどう採用していくか」はここ2~3年、企業にとって重要性が増している。ただ経営陣や採用部門の思いや動きとは裏腹に、実務の最前線では、急速な女性登用の流れに戸惑う声があるのも事実。女性労働問題の専門家からは、男性の意識改革や働き方の見直しがなければ、本当の意味での女性の活躍は難しい、との指摘も出ている。
◇社内環境が整っていないのに…◇
「以前は、女子学生は本社で面接する前に落とせと言われていた。それが今は、女子学生を積極的に採用しろと言われている」
ある中堅ゼネコンの採用部署の担当者は最近、会社からの指示が180度変わったことに戸惑っている。「目標の採用人数を確保するだけで精いっぱいなのに、その上一定割合の女子学生を採用しろと言われても無理がある」と話す。「女性社員は特に転勤を嫌がる。社内で女性を受け入れる環境が整っていないのに、わざわざ採用したいとは思わない」と、ついつい「本音」も漏れる。
総務省の統計によると、建設業の就業者数はピークの1997年が685万人だったのに対し、2014年には26%減の505万人まで減少した。就業者の高齢化も進んでおり、このまま就業者が減り続ければ産業自体が立ち行かなくなるとして、官民挙げての人材確保の取り組みが始まった。その一つが女性技術者・技能者の採用拡大だ。
国土交通省は昨年、業界団体と共同で「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定。現場で活躍する女性技術者・技能者を5年後に倍増させる目標を打ち出し、女性が働きやすい環境を整備する取り組みに乗りだした。
大手ゼネコンで現場作業所に勤務するAさんは、女性の登用を促進することについて、「女性の働き方に幅が出て良い」と歓迎する一方、「建設業界特有の長時間労働を見直さなければ実現は難しい」と指摘する。彼女が働く現場では、作業のスケジュールが発注者に左右されることも多い。そのため、業務を分割して他人に任せたり、自分で仕事の量を調整したりすることが難しく、長時間労働も避けられない。 それだけに「子どもを持つ女性が時間短縮勤務などを使って現場で働くというのは非現実的では」と話す。
◇トップの意識改革が絶対条件◇
内閣府の有識者会議「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」の委員で女性労働問題が専門のジャーナリスト・白河桃子氏(相模女子大客員教授)は、「名ばかりの女性活用の看板を掲げることは、入社後のミスマッチを生み出す懸念がある」と指摘。「企業のトップが女性の力を必要と感じるのなら、管理職がそれを納得するまで研修させることが大事だ」とトップの意識改革を促す。
「女性活用とは、裏を返せば男性を家庭に帰すこと」とも指摘。長時間労働の見直しは「男性も含めて行うことが必要だ」と白河氏。ただ、長時間労働が定着している建設業界で、特に男性社員が育児などを理由に時間短縮勤務をすることへの抵抗は強いとみられる。
白河氏によると、どの業界でも女性活用の最終段階は男性の育児参加を促すような労働改革だが、「建設業界はその一つ手前で止まっている状態。男性や会社は何も変わらずに女性の力だけを借りることはできない」と手厳しい。そうした中でも、未来の技術者である女子学生の間で建設業界の女性登用に対する注目度は高まっている。
◇企業の本気度見つめる女性たち◇
きょう、大手ゼネコンの入社式に臨むBさんは、職場となる企業に育児休業を活用して働き続けている女性社員もおり、「人を大切にする会社だと感じられたし、そういう先輩たちがいるということはとても心強い」と話す。ハウスメーカーに入社するCさんは「就職活動では、自分が働きやすい環境かどうかを重視した。業界が女性活用に積極的になるのは良い流れだと思う」と業界の取り組みに期待を寄せる。中学生の時に自宅をリフォームした経験がハウスメーカーに興味を持ったきっかけだという。「入社後は建築士の資格を取り、暮らし方の提案に携わっていきたい」。
日本女子大学の就職支援担当部署によると、「15年前は結婚・出産後も働きたいという学生は半分にも満たなかったが、今では約8割の学生が一生働き続けたいと考えている」という。「どんな会社ならそれが可能なのか、今の学生はそこをしっかり考えて進路を決めようとする傾向がある」とも分析する。
白河氏は、男性社員の育児参加を促す策として、育休の取得義務化などを提案。超高齢化社会の到来で「男性も親の介護などで労働時間が制約される『制約社員』になる可能性があることを自覚させることも有効」とみる。業界に長く染み付いた意識や働き方を、新たな時代に合わせて改革できるかどうか。各企業の「本気度」を多くの女性が見つめている。