霧、靄(もや)、霞(かすみ)。どれも空気中の水蒸気が冷え、地面の近くで細かい水滴となって煙のように漂う現象である。同じ現象なのに、異なる呼び方があり、それぞれちゃんと使い分けられているのは、昔から人々の暮らしにこれらが深く関わってきたからだろう▼気象学では、視程(見通し)が1キロ未満だと霧、1キロ以上なら靄と言う。霞は気象観測上の定義がないので天気予報には使わないそうだ。この使い分けは明確だが、無味乾燥な感じがする▼一方、秋は霧、春は霞という使い分けが平安の昔からある。霧は朝夕と夜にもいうが、霞は昼間だけ。立ち上ったり立ち込めたりするのが霧、たなびくのが霞。こちらの使い分けはなかなか文学的で良い▼東京などの大都市では近年、霧があまり発生しなくなったという。確かに、乳白色の空気に包まれる経験を東京で最後にしたのがいつか、思い出せない▼都市化による緑地の減少で蒸散が減り、大気が乾燥していることや、熱をため込むコンクリートが増えたために朝夕の気温が下がりにくくなったことが原因らしい。春霞の季節。視界良好ばかりでは、やはり味気ない。
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