2015年3月9日月曜日

駆け出しのころ/長谷工コーポレーション取締役常務執行役員・北村欣一氏


 ◇多くの人との出会いが成長に
 大学時代はクラブではなく、自由に楽しめる建築デザイン同好会に所属していました。この会で指導を受けた先生から、美術・建築の総合的な教育を行ったバウハウス(ドイツ)の歴史や教育理念などを教えていただき、ものづくりの魅力や建築物の素晴らしさ、住空間の深さを知ったように思います。
 入社して初めて配属された現場は、京都・山科のマンション建設工事でした。最初のころは建物をどう造っていくのかがほとんど分からず、職人さんに「次は何をやるんだ」などと言われっぱなしでした。その当時は学生時代に憧れていたものづくりの環境とはまったく違い、小間使いのような仕事の連続で、現実の厳しさを思い知らされました。
 そうやって落ち込んでいた時、一人の先輩から「自分のノートを大事にしているのか」と言われました。何を問い掛けられたのか意味が分からずに聞くと、きょうの仕事で何をするのか、あすはどのような仕事をするべきか、ノートに書き込んで自分の行動日程を作りなさいとの教えでした。
 それ以来毎日、作業内容を事細かにノートに書き、作業終了後に先輩のチェックを受けるようにしました。そのおかげで、自分がどのような行動をするべきか、どう段取りをするか、と先が読めるようになり、やる気も出てきたのを覚えています。
 三つ目の現場は自社開発の大型マンションでした。大規模な造成工事を伴うため、上司に土木を勉強するかと言われ、何も分からずに「はい」と答えました。現地に行くと土木分野でよく知られたゼネコンのベテラン所長がおられ、いきなり土木工学の専門書を数冊渡されました。
 その日から読み始めたものの、すぐに理解できるはずもなく、とにかく基本的な土木用語だけでも覚えようと努力しました。最初は怖いイメージの所長でしたが、土木についていろいろと教えていただけたことは大変貴重な経験です。その時に覚えた土木工事の基礎知識は、傾斜地でのマンション建設や、阪神・淡路大震災で被害を受けたマンションの復旧工事などに生かすことができました。
 若いころに会社の先輩や他社の所長などさまざまな人たちと出会い、多くを学べたことで今日の自分があります。若い人たちにも多くの出会いをつくってほしいと思います。仕事の世界だけの出会いでは大きく成長できません。
 そして仕事で困ったり、悩んだりした時は、頭の中で考えるのではなく、自分のノートの中で整理することが大切です。それでも方向付けができない時は、指導してくれる多くの先輩が身近にいます。若手社員にはこうした言葉を掛けるようにしています。
 (きたむら・きんいち)1975年福井工大工学部建築学科卒、長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。94年関西支社建築1部工事長、00年関西建設部門建築1部部長、07年執行役員、08年取締役執行役員、09年同常務執行役員、14年同関西建設部門管掌兼関西代表。滋賀県出身、63歳。
29歳の時、竣工した建物の前で会社の仲間と(中央、1981年4月)




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