これからのものづくりはどう変わっていくのか |
地方都市の支店で現場の仕事に携わってきた坂井隆二さん(仮名)は、新たに赴任した他支店での現場でつくづくそう感じた。
その現場は大規模工事の経験が豊富なベテラン所長の下、各職員の役割は細分化され、会社で長年かけて確立してきた仕事の進め方もあった。しかし、そんな従来通りの施工体制では対応できない特殊な工事もある。坂井さんが配属された現場もそうした一つだった。
現場に出て間もなく、作業効率が悪い原因に気付いた。その日以降、より効率が高まる方法を繰り返し提案したが、工期の途中から加わった中堅社員の言葉に耳を貸す上司や同僚はいなかった。
もともと現場で施工管理に当たりながら、民間顧客への営業や工事費の見積もりなども自ら手掛けてきた。だから現場の効率運営やコスト管理には自信があり、新たな現場でもマネジメント全般を任せてもらえると思っていた。ところが現実は違った。
「あのやり方では作業のスピードは上がらないし、利益も出ない。現場の上司と自分とはことごとく意見が異なり、『それならここに私は必要ありませんよ』と伝えたんだ」
転機になったのは、会社が近接する類似工種の工事も受注したことだった。坂井さんは新しい現場の責任者となり、自らの考え方とやり方を押し通した。
「『安全第一』などといくら言っても駄目。なぜ安全が必要かを分からせないと。安全に配慮して作業すれば必ず作業効率も良くなる。つまり、そうした現場運営をすれば下請はもうけられるし、職員も現場や会社の利益に貢献していると自覚できる。次の受注にもつながる。だから決めたルールは絶対に守ってもらうし、守れない職員や作業員は要らない」
そんな現場運営は社内で「強引すぎる」と批判されることも少なくない。だが、自分の信念を曲げなかったことで、社内で一目を置かれるほどの結果を残した。
「何だかんだと言う人たちも、現場に来ればどうやって好成績を上げられたのかがすぐ分かるはず。社内の発表会でノウハウを説明したところで、『あの若造が偉そうに』と余計に反発を買ってしまうに決まっている」
建設会社のものづくりについて、坂井さんはこんな信念を持っている。
「良いものを造るのは当たり前だが、そもそも人によって良いものに対する価値基準などまちまち。そのことに一生懸命になる必要はない。今は自分たちが勝手に考える良いものを売っているだけで、それにこだわるあまり、捨ててしまっているものがあるのではないか。本当にお客さんが求めている良いものとは何なのか。それを追求して提供すればいい」
この考え方をシステム化し、浸透させることが、今後の建設会社経営には欠かせないと考える。
だが、変えるのは難しく、風当たりも強い。
「これからも社内から飛んでくる矢に向かっていくか」。坂井さんは唇を少しかんだ。
0 comments :
コメントを投稿