◇安全と品質は大切なお守り
私が間組(現安藤ハザマ)に入社した年は、第2次オイルショックによる不景気のために、その前まで数百人いた新入社員がわずか12人でした。3日間の新人研修後、最初に配属されたのは東京都内の大規模な地下変電所工事です。
この工事では、電力施設での大数量の土と鉄、コンクリートとどう付き合うか、どう扱うのかといったことを学びました。そして厳しく教え込まれたのが安全と品質です。場内に入ると、仮囲いに「安全は全てに優先する」という間組の社是が掲げられていました。所長や先輩たちが場内を巡視する際にわざと私を同行させて、職員や作業員に指導していくのを見せてくれました。
現場に出て3カ月ほどしたころのことです。現場で所長が私を連れて歩きながら、足場やいろいろな仮設構造物を見て指差し呼称を行っていきました。それは安全面でのものだけでなく、仮設構造物を見て頭で瞬時に計算して「よし」とやっていくのです。構造出身の所長であり、これには素直に「格好良い」と思ったものです。
私は学生時代に構造力学をあまり真剣に勉強しなかったため、コンプレックスがありました。でも、この日を契機に一念発起。自宅のアパートから現場まで電車で片道2時間近くかかっていたのですが、この往復時間を利用して構造の勉強を始めました。
そうして半年ほどで『建築仮設物の構造計算入門』(彰国社)や『鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説』(日本建築学会)、『鋼構造計算規準・同解説』(同)といった数冊の専門書をマスターしました。この現場にいた2年間で仮設の計算や設計をほとんど自分で手掛けられるようになり、大きな自信も付きました。
その後、さらに地下変電所工事2件の現場を担当します。これらの経験があったからこそ、その後の私があり、12年にわたる海外勤務もやり遂げられたのだと思います。
マレーシアではペトロナスツインタワー建設工事に携わりました。現在もツインタワーでは世界一高い建物です。現場では契約・工務課長を務めました。主な仕事は施主やコンサルタントとの膨大な量の追加変更やクレーム交渉です。自分たちは安全で良い品質の建物を造っているという自信があったので、正々堂々と胸を張って粘り強く交渉することができました。
現場では、安全と品質で確かなものがあるからこそ、これをよりどころにそれ以外のこともやれるのです。建設会社の社員にとって、安全と品質は大切なお守りなのです。
(すぎもと・ふみお)1977年東大工学部建築学科卒、間組入社。執行役員北陸支店長、常務執行役員東京建築支店長、同建築事業本部長などを経て、14年6月から安藤ハザマ取締役常務執行役員建築事業本部副本部長兼営業統括部長兼営業統括部都市開発部長。愛媛県出身、60歳。
入社2年目(1978年、手前)とマレーシア勤務時代(95年)の身分証 |
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