2015年3月2日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・84/ものづくりの魅力だけでは…

厳しい工程に追われ、土曜日も現場は動き続ける
 東日本大震災の復旧・復興事業で急増した工事に対応するため、ゼネコン各社は、特に被害の大きかった岩手、宮城、福島3県に本社や他地域の支店から多くの職員を異動させる「東北シフト」を進めた。阪田亮さん(仮名)が勤める会社もその一つだ。
 公共投資の回復も相まって、関東以北に工事が集中。官庁工事の入札では、入札前に配置予定技術者を提示する必要があり、受注が決まれば専任で配置しなければならない。「人員の多い大手なら各エリアの支店で技術者を配置できるが、当社程度の規模だと支店だけで対応するのは難しい」。阪田さんの会社でも、西日本から東北、関東エリアへと、資格を持った技術者や応援職員の異動が相次いだ。
 阪田さんは、13年間現場の最前線で工事管理を行ってきたベテラン土木技術者だ。多くの工種を経験した実績を買われ、現在は本社の土木部門で全社的な事業管理や人員配置計画を担当している。土木部門の社員が働きやすい環境を整備する立場にもある。
 会社で近年問題になったのが、若手の離職だ。受注工事が増えても、一つの現場に配置される人員は必要最小限。「自分の時間が取れない」「この仕事に向いていない」といった理由で若手が辞めていく。土木部門では3年前まで入社3年以内の離職率が15%程度に上っていた。
 「このままでは会社の根幹を成す技術の伝承ができない」。土木部門を挙げて対策に乗りだした。まず、新入社員研修後のフォローアップを手厚くした。従来の入社半年後と3年目に加え、2年目にも研修を行うようにした。OJTを強化し、若手が交流できる現場見学会の機会も増やした。
 これらの取り組みが奏功し、現在は離職率が5%未満に改善した。「離れていても孤立しないよう、つながりを保つことができるようになった。同じ悩みを共有できるようになったのも大きい」。阪田さんは手応えを感じている。
 それでも課題はまだある。仕事での拘束時間が長いことだ。工程が厳しく土・日曜も出勤しないといけない、早出や残業が多い…。多くの現場では、1カ月の休みがまだ4週4休。「私が現場にいたころは土曜は当たり前に出勤していたが、今の世代はお金よりも自分や家族との時間を大切にしている」。
 離職の問題は若手だけではない。30代から40代前半までの世代でも課題になりつつある。土木部門で取り組める対策の一つとして、土休取得の促進を急ぎ、まずは4週5休の実現を目指したいという。
 阪田さんは、建設業には他の職業では得られないものづくりの魅力があると若手に伝えてきたが、やりがいだけでは人は付いてこないことが身に染みて分かった。転勤が嫌だという声も少なくない。本社で行っている階層別の集合研修では、支店から集まった全員に希望工種や希望勤務先をヒアリングするようにした。
 もちろん、全員の希望をかなえていたら現場が回らなくなってしまう。いかに希望に応えつつ人員を効果的に配置するか、苦悩が続く。「会社は自分たちのことを考えてくれている」。これから会社を支えていく世代にそう感じてもらえるようにしたいと考えている。

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