2017年8月31日木曜日

【19年度着工めざす】出島架橋(宮城県女川町)、計画実現へ技術検討進む

 宮城県女川町の離島、出島(いずしま)と本土を結ぶ「出島架橋」の設計方針や架設計画などを検討する「町道女川出島線出島架橋技術検討委員会」(委員長=中沢正利東北学院大学工学部教授)の第2回会合が28日、県庁で開かれた。

 補剛桁のアップリフト対策や支承の数、ケーブルの固定方式など細部構造について意見交換。18年度初めに開く第4回会合から施工会社を交えて詳細設計や施工計画などを固め、19年度の本体着工を目指す。

 会合では、県側が主要構造のうち細部構造の検討結果を報告した。地震時に負の反力が生じる補剛桁のアップリフト対策では、橋桁内の下部にコンクリートを充てんする「カウンターウエート方式」が有利と説明。橋桁内に作業用のスペースを設けるため、幅1メートルの通路を残して両サイドを充てんする案(桁高2・3メートル)と、全幅に充てんしその上部を作業空間とする案(2・8メートル)を比較した結果、コストはやや増えるものの、作業性に優れる桁高2・8メートル案を選定した。

 補剛桁とアーチリブの交差部は、一体性を高めるため、補剛桁の下にボックス構造の鋼材を設置し、橋桁を支える。ケーブルについてはアーチリブ側、補剛桁側ともに施工性や維持管理性に優れる定着方式を採用。補剛桁側はピン構造で固定する案を示した。支承の構造は橋台、橋脚ともに分散型とし、支承数はアップリフト対策が不要で点検スペースも確保できる2点支承を採用する。部材の連結方法は現場溶接継ぎ手を基本とする。

 ケーブルの防食は、海上に架設することから内部防錆材と亜鉛めっき、ポリエチレン被膜を組み合わせた3重防食を基本に検討する方針だ。

 基本設計段階の本年度は下部工の位置や基礎構造のほか、細部構造の方針を決める。本体工事については今秋にも総合評価方式(高度II型)による一般競争入札の手続きを開始し、18年春ごろに施工者を決める予定。18年度の会合から施工者が加わり、FEM解析や風洞実験、座屈解析などを基に、付属物を含めた上部工の詳細設計や架設計画を決める。

 出島架橋の橋梁形式は鋼中路式アーチ橋。橋長352メートル。車道部(幅5・5メートル)を含む全幅員は6・5メートル。本土と出島の陸地にそれぞれ2基ずつ下部工を設置する。橋梁本体の基本設計と下部工の詳細設計は大日本コンサルタントが担当。

【供用開始は18年度から】富士訓練センター新本館・教室棟、近く鉄骨建て方完了

 富士教育訓練センター(静岡県富士宮市)の建て替えプロジェクトで、1月に竣工した共用棟・宿泊棟に続き、4月に着工した新本館・教室棟の建設工事が順調に進んでいる。

 8月3日に始まった鉄骨建て方作業は、月内完了に向けて最終段階に入っている。年度内に工事を終え、18年度に供用を開始する予定だ。

 共用棟・宿泊棟に続き、設計・施工を木内建設(静岡市)が担当する新本館・宿泊棟の建物は、S造2階建て延べ約2000平方メートルの規模。教室18室のほか、講師室、事務室、教務室、応接室、歴史資料保管室などで構成する。

 現在の鉄骨建て方が月内で終わると、工事の進ちょく率は「33%に達する」(河村毅所長)見込み。9月中に屋根ふきを行い、その後、外装の施工や内装工事に入る。竣工後、機能を移した後の既存施設の解体や外構工事を半年ほどかけて行う。

 同センターは今月、不登校、発達障害、肢体不自由といった困難を抱えた子どもたちが参加した夏の富士山自然体験合宿に協力。建設現場の仮囲いを使用した壁画づくりも木内建設の協力を得て支援した。25日には建設業振興基金の内田俊一理事長ら幹部が、作業が進む現場を視察した。

【東京・六本木に〝魅せる〟駐輪場】技研製作所、区営住宅に機械式駐輪システム納入

 技研製作所は、東京都港区六本木にある区営住宅の建て替えに合わせて整備された自転車駐車場に、機械式駐輪システム「エコサイクル」2基を納入した。

 直径8・1メートル、高さ11・9メートルの円筒形スペースを新築した施設内に2カ所構築し、計408台を収容する。入出庫は自動で行うことができ、ICタグとICカードで管理する。六本木地区最大の駐輪場で、自転車の放置や盗難被害の減少に期待が寄せられている。

 駐輪場は「港区営住宅シティハイツ六本木等整備工事」の一環として、公共棟に組み込む形で整備された。外装の一部をガラス張りとし、収納される自転車や機械装置の動きを美しく見せるデザインも特徴で、夜間にはライトアップし「みせる駐輪場」として街並みを彩る。

 所在地は港区六本木6の5の19。東京メトロの日比谷線六本木駅の1b出口から近い。周辺は、大使館や高級ホテル、大型商業施設などが立ち並び、駐輪場用地の確保が難しい。港区は、エコサイクルの省スペース・高収容、最短8秒で自転車を取り出せる機能性の高さなどから採用を決めたという。

 名称は「港区立六本木駅自転車駐車場」。施工は日本国土開発・徳倉建設・谷沢建設JVが担当した。工期は16年6月~17年6月。地下式のエコサイクルを導入した近隣の「三河台公園自転車駐車場」との相互利用も可能という。港区の公共駐輪施設での採用は、16年2月に竣工した新橋地区の「桜田公園自転車駐車場」に続き4件目、計10基となる。

【長周期地震動の揺れ半減】NTTファシリ、AI活用のアクティブ制振技術開発

NTTファシリティーズは超高層建物の長周期地震動対策として、振動制御にAI(人工知能)を活用する新たなアクティブ制振技術を開発した。

 強化学習と深層学習(ディープラーニング)を組み合わせた「深層強化学習」の機能によって最適な振動制御を学習したAIが、地震の揺れに応じて建物内部のダンパーを電動アクチュエーターで自律的に制御する。従来のパッシブ制振に比べ建物の揺れが50%以上低減できるという。第1号の採用案件は関西エリアのビルを予定している。

 新たなアクティブ制振技術は、NTTデータ(東京都江東区、岩本敏男社長)とNTTデータ数理システム(東京都新宿区、箱守聰社長)が協力し、コンピューター内の建物地震応答シミュレーターを使ってAIに制振効果の高い制御を自動的に学習させる。制御を学習したAIは建物に設置されるセンサーの計測データを使い、地震時にダンパーの減衰力を自律的に制御し、建物に生じる揺れを抑える。パッシブ制振と同じ制振性能を半数程度のダンパーで実現し、工事量の削減と工事期間の短縮を通じて工事コストを最大30%削減する。

20階建ての建物を想定した大型模型試験体で長周期地震動を再現し、性能検証した結果、建物の揺れがパッシブ制振と比べ半減できることを確認した。

 10月に電動アクチュエーターを使った動作確認試験を実施し、年内に完成させる。18年1月からの提供を目指す。

【回転窓】平和を願う舞踏を

今年はインド独立70周年に当たり、日印友好交流年として日本でもさまざまなイベントが実施されている▼先日インド大使館で舞踏公演を鑑賞する機会を得た。同国北部ジャンムー・カシミール地方のスワンザル財団舞踊団が来日し、現地語によるオペラや音楽、ダンスを披露。スピード感のある動きとしなやかな所作は見る者をうっとりとさせる魅力があった▼オペラは擬人化された鳥や花たちが主役。大雪で苦しめようとする冬の季節に打ち勝って、暖かな春を迎えるというストーリーで、平和への敬意や平穏への願いが込められているそうだ▼カシミール地方は豊かな自然に包まれた美しい場所だ。旅行で訪れた際に見た荘厳なヒマラヤの姿は今も脳裏に焼き付いている。ただ美しい風景とは裏腹に領有権を争う隣国パキスタンとの紛争地帯という側面もある。第2次世界大戦後の国境の線引きがいまだに混乱の火種としてくすぶっている▼同地方の現状は緊張が高まる東アジア情勢とも重なる。武力を背景にけん制し合う状況は打開しなければならない。互いに平和の舞を鑑賞できる時が、一刻も早く訪れることを願う。

2017年8月30日水曜日

【回転窓】地域を支える建設業の使命

16年4月に発生した熊本地震。3日後に現地入りして見た被災地の光景は、今も脳裏に焼き付いている▼被害を受けたインフラのうち、南阿蘇村の中心部と立野地区を結ぶ道路「長陽大橋ルート」の応急復旧が完了し、先頃開通式が開かれた。「開通が村の復興にとって希望の懸け橋になることは間違いない」と吉良清一村長。恒久的な復旧にはまだ時間は必要だが、住民の方々にとっては大きな一歩であろう▼今夏は記録的な長雨が続き、日本各地で水害が相次いだ。7月には九州北部で大規模な豪雨災害が発生。日本だけでなく中国や米国など世界各国でも水害や土砂災害が起きている。拡大傾向にある豪雨災害に備えた危機管理のあり方をどうすればいいのか▼阿蘇長陽大橋ルートの復旧では行政機関や建設関連企業が密接に連携し、道路の新設や橋の架け替え、斜面対策などに尽力。24時間態勢で事業が進められた。新学期からは地元の小中学生が大きな迂回(うかい)をせずに学校に通えるようになるそうだ▼地域に希望の明かりを灯す仕事。建設業が担っている社会的な役割をこれからもしっかりと伝えていきたい。

【公共事業関係費16・3%増】国交省、18年度予算概算要求発表

国土交通省は29日、18年度予算の概算要求を発表した。

 一般会計の国費総額は前年度比15・5%増の6兆6944億円。うち公共事業関係費は16・3%増の6兆0238億円と、15年度分から4年連続で6兆円を超える要求になった。ストック効果を重視した公共投資で経済成長を図りながら、経済再生と財政健全化の双方を実現するため、必要な公共事業予算の安定的・持続的な確保を目指す。

 「新しい日本のための優先課題推進枠」には1兆4228億円を計上。通常要求と合わせて同推進枠を最大限に活用した要求内容となっている。公共事業関係費のうち一般公共事業費は5兆9703億円(16・4%増)、災害復旧等は534億円(増減なし)。非公共事業として、その他施設費に683億円(10・9%増)、行政経費に6024億円(9・1%増)を計上した。

東日本大震災復興特別会計は4859億円(8・6%減)。財政投融資は44・4%減の2兆0202億円となったが、前年度にリニア中央新幹線の前倒し開業に向けて鉄道建設・運輸施設整備支援機構に充当した分の反動が理由で、17年度分を除けばほぼ例年通りの要求となった。

 地方自治体向けの防災・安全交付金には1兆2982億円(前年度比17・4%増)を計上し、頻発する風水害・土砂災害や大規模地震・津波に対する防災・減災対策、インフラ長寿命化計画を踏まえた老朽化対策などを集中的に後押しする。

 社会資本整備総合交付金には1兆0484億円(17・3%増)を充て、港湾・空港・インターチェンジなどの整備と供用時期を連携させて行われるアクセス道路などの成長基盤の整備や、PPP・PFIの活用によって民間投資を誘発する取り組みを重点的に支援する。

【東京駅丸の内地下に新商業施設】グランスタ丸の内、4期エリアきょうオープン

 JR東日本グループの鉄道会館がJR東京駅丸の内地下エリアで進めている商業施設整備事業(計55店舗、店舗面積約3600平方メートル)で、第4期エリア(約1250平方メートル)の9店舗が30日にオープンする。

 同事業では改札内で「グランスタ」の新エリア、改札外で新施設「グランスタ丸の内」を4期に分けて整備を進めてきた。

 改札内を中心とした第1期エリア(約1200平方メートル、23店舗)は昨年7月に、改札内外に21店舗が点在する第2期エリア(約1050平方メートル)は4月に、改札外の第3期エリア(約100平方メートル、2店舗)は6月に順次開業した。

 第4期エリアの9店舗はすべて改札外にあり、業態はレストランやベーカリーカフェ、デリ、グロサリーなどの飲食関係となる。

 28日には第4期施設が報道機関に公開された。鉄道会館の井上進社長は「今回の開業で段階的に開発を進めてきた商業空間がグランドオープンとなる。新たなにぎわい空間として、周辺施設とも連携しながら相乗効果を高めていきたい」と意気込みを語った。

【提携紙ピックアップ】建設経済新聞(韓国)/建設業界、鉄筋価格引き上げを拒否

9月の建設シーズンを控えて、建設・資材業界間に戦雲が漂っている。建設業界は、製鋼会社が先週相次いで断行した鉄筋価格引き上げの動きを拒否することで意見を集約した。

 仁川市南東地域でのミキサートラックのストライキと西海岸での海砂減少によるレミコン需給の逼迫問題と価格上昇圧迫問題に対しても、今月末までに速やかに対応することとした。

 建設業界の資材担当者の集まりである大韓建設資材職議協会は、18日に招集した緊急総会でこうした方針を決定。16日に韓国鉄鋼を筆頭とした6大製鋼会社の鉄筋価格引き上げが、寡占的地位を悪用した一方的措置であるために建設業界全体で受け入れないことにした。

 同協会のクォン・ジョンソン鉄筋担当副会長は、「購買者を無視した6大製鋼会社の一方的単価引き上げは受容できないというのが大半の意見だ」と話した。

CNEWS、8月21日)

【提携紙ピックアップ】セイ・ズン(越)/埼玉大学との廃棄物リサイクル共同研究始動

 建設事業の増加とともに、建設廃棄物の適正管理とリサイクルが大きな課題となっている。日本の政府開発援助を活用し、リサイクル資材の技術開発などを目指す国際共同研究がこのほど始まった。

 科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)が共同で実施している地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の枠組みで行われ、実施主体は埼玉大学と国立土木工学大学(NUCE)。25日にハノイ市内で議事録の署名式が行われた。

 研究期間は5年間を予定し、リサイクル資材を使った環境技術の開発やリサイクルを推進するためのビジネスモデル構築などに取り組む。JICAはこれまでにも環境問題の解決に協力しており、建設廃棄物のリサイクル率を50%にすることを目標に掲げている。

セイ・ズン、8月26日)

【海外ボランティア事業の運営方針は】JICA・山本美香青年海外協力隊事務局長に聞く

 ◇制度発足から半世紀、多様なニーズに柔軟対応◇


 国際協力機構(JICA)が展開する海外ボランティア事業の推進役を担う青年海外協力隊事務局。15代目の事務局長に今春就任した山本美香氏は、途上国支援にとどまらず、国内産業界の人材育成に役立つボランティア事業の意義を強調する。国内外の社会・経済環境が大きく変化する中、「従来の制度や事業の進め方などを柔軟に見直し、より多くの参加者が活躍できる体制整備に力を入れたい」と意気込みを語る。

 --初の女性事務局長として、ボランティア事業をどう運営する。

 「女性ならではの視点というものもあるかもしれないが、今や協力隊員の半分以上を女性が占める。赴任先でも女性が多方面で活躍している。女性だからと意識せず、自然体で業務に当たる。開発途上国の社会・経済発展への貢献、相互理解の深化、帰国後の社会還元といった当初からの事業目的は変わらない。ボランティア事業への『持続する情熱』を大切にしながら、国内外のニーズに柔軟に対応していきたい」

 「世界も日本もさまざまな分野で変化が進む中、ボランティア事業には変わらぬ情熱に加え、柔軟性が一段と求められている。海外では治安問題が深刻化しており、安全対策が最優先事項に挙がる。派遣できる国も治安悪化で制約を受ける。途上国も開発が進んで中進国になるなど、新たな要望・要請が出てきており、ボランティア事業へのニーズも多様化している」

 --人口減少が続く国内では人手不足が深刻化している。ボランティア事業への影響は。

 「予算の範囲内で派遣者数が決まるため、ここ数年は年間1800人程度の隊員を継続的に派遣している。東日本大震災直後は応募者数が大幅に落ち込んだが、その後は少しずつだが増加傾向にある。大きな災害を経験し、ボランティアに対する意識は国民全体で高まっている。より効果的な広報活動に知恵を絞り、途上国支援の機運を醸成していく」

 「国内では生産年齢人口が減少傾向にあり、働き方の価値観も変わってきている。企業側のボランティア事業への理解を深め、関心を高めることも大きな課題だ。従来のボランティア事業のプログラムを企業側のニーズを踏まえてカスタマイズできる『民間連携ボランティア制度』は、まだまだ活用の余地が大きい。企業側が人材を出しやすい形を模索しながら、派遣した社員が途上国での活動を通じて得た経験・情報や人的ネットワークといった価値をアピールしたい」

 □業界団体へのPR活動強化□

 --民間連携ボランティア制度の活用状況は。

 「ボランティア事業全体では依然として一般応募が大半を占めるが、民間連携制度を取り入れた企業からは高い評価を得ている。海外人材の育成には時間とコストがかかり、特に中小企業では対応が難しい。JICAは中小企業の海外展開支援事業も行っており、民間連携ボランティアによる人材育成と併用することで、企業の海外進出をきめ細かくバックアップできる。企業のニーズを踏まえ、いろんな形で複合的に使ってもらえるプログラム、制度に継続的に改善していく」

 --シニア海外ボランティアの派遣状況は。

 「青年海外協力隊員に比べて経験値が高く、工学分野などで長年培った技能や知識を生かし、参加する人たちが目立つ。途上国では都市計画がないまま開発が進み、測量や都市計画などの技術者のニーズが高まっている。その一方、国内の建設・インフラ関連の需要増でシニアボランティアの参加者は伸び悩んでいる。中長期的には国内需要が落ち着き、高齢化も進むことから、新たな活躍の場として海外にも目を向けてもらえるようにPR活動を強化する。業界団体を訪問して制度の説明や活動事例の紹介などに重点的に取り組む」

 --今後の途上国支援のあり方をどう考える。

 「円借款で地下鉄や橋などインフラを造ることも重要な協力の形であり、現地でも非常に喜ばれる。ボランティア事業のように現地のコミュニティーに入り、活動することで生まれる信頼関係や絆は、現地の人たちの記憶に直接的に残る。インフラ整備と草の根レベルでの支援活動の両面から日本を見てもらうことが、真の国際協力につながる。ボランティアに参加する人たちにとっては、必ず自身の成長につながることを約束できる。帰国後はその経験を国内外でさらに生かし、将来の日本を元気にする人材になってほしい」。

2017年8月29日火曜日

【ものづくりへのこだわり表現】熊谷組、創業120周年記念ロゴ制定

熊谷組が18年1月に創業120周年を迎えるに当たり、記念ロゴマークを制定した。「お客様の願いと使う人の想い」を大切にしてきた同社のものづくりのこだわりを、手書き風の文字と人間味あふれるバランスでレイアウトした。

 誠実さを表す「クマガイ・ブルー」を基調にした色彩で、シンボリックで愛らしいクマの輪郭を「120」の中に配置している。

 ブランドを継承すると同時に、未来を担う次世代に向け、親しみやすく、発想豊かなアイデアを柔軟に形にしていく「新たな熊谷組」の姿を表現したという。

 名刺や封筒に印刷するほか、ホームページなど対外的な場面で活用していく。「当社120年の歩みを支え、応援していただいたすべての皆さまへの感謝のメッセージを記念ロゴマークに込めて届けていきたい」(同社)としている。

 1898年、石工職人だった熊谷三太郎がその腕を見込まれ、福井県の「宿布発電所」の水路建設工事を請け負ったのが同社の始まり。建設事業を通じ社会に貢献してきた。バブル崩壊後は厳しい経営状況が続いたが、再建から再生、成長へと歩みを進めている。

【回転窓】アルピニスト建築家・吉阪隆正

コルビュジエに師事した3人の日本人建築家のうちの一人、吉阪隆正(1917~80年)には、建築家ともう一つ、ヒマラヤの8000メートル峰を目指す登山家の顔があった。少年時代をスイスで過ごし、父の手引きで本場のアルプスの登山に熱中した経験が「アルピニスト吉阪」を育んだといわれる▼東京の世田谷文学館で開催中の企画展「山へ!」(9月18日まで)は、「時代を超えて同じ〈山〉というフィールドで繰り広げられてきた多様な〈知〉と〈表現〉」に迫るというユニークな展覧会。「文学」の深田久弥、「日常」の田部井淳子らと並び、「建築」で吉阪の業績が取り上げられている▼〈山の建築が立派になることは第二のチロルを生み出すもとでもある〉との信念の下、吉阪の研究室が計画した山小屋、ホテル、鉄道駅などの山岳建築は20件超。うち12件が実際に建設された▼険しい地形や強風・豪雪などの気象条件に適応した設計が特色で、展示された模型や図面、スケッチからもそれがうかがえる。過酷な自然環境にさらされながらも10件は現存しているそうだ▼「吉阪建築」を巡る山旅もまた一興であろう。

【応急復旧が完了】南阿蘇村道・長陽大橋ルートが開通

 熊本地震で大きな被害を受け九州地方整備局が権限代行で進めていた南阿蘇村道栃の木~立野線の「長陽大橋ルート」(熊本県南阿蘇村河陽~立野、延長約3キロ)の応急復旧工事が完了し27日、現地で開通式が開かれた。

 関係者や地元の小中学生らがテープカットやくす玉開披を行い、新学期に間に合わせた夏休み最終日の開通を祝うとともに熊本地震からの早期の復旧・復興を祈念した。

 式辞で石川雄一国土交通省道路局長は「開通により南阿蘇中心部と立野地区との間で生じていた大きな迂回(うかい)が解消され、通勤通学や緊急時の医療機関への搬送など地域間の移動時間が大幅に短縮される」と述べ、引き続き恒久的な復旧などに全力を挙げると表明。蒲島郁夫熊本県知事は「開通は物流や観光などの回復にも大きな弾みになる」と期待を寄せた。

 増田博行九州整備局長と本来の道路管理者である南阿蘇村の吉良清一村長が引き継ぎを行い、吉良村長は「開通が村の復興にとって希望の懸け橋となることは間違いない」と謝辞を述べた。テープカットとくす玉開披の後、地元小学生の代表は新学期を迎えるのが楽しみとし「工事に携わった皆さんに感謝します」と話した。引き続き小中学生が乗ったスクールバスなどが通り初めを行った。

 応急復旧工事は国道57号立野交差点から阿蘇長陽大橋まではルートを変更し道路を新設。阿蘇長陽大橋は補修、戸下大橋は架け替えや仮橋による復旧、斜面対策などを行った。工事は富士ピー・エスや日特建設、地元建設業者のJVらが担当し、内容に応じて24時間態勢で進めた。

【運営企画の旅行会社も募集】北海道開発局、公共施設見学ツアーに工事現場追加

北海道開発局がダムや橋梁など公共施設の見学コースを旅行商品(ツアー)に取り入れた「公共施設見学ツアー」の対象に、工事中の現場3カ所を新たに加えた。

 いずれも道路工事で、開通前のトンネルなど通常は立ち入ることができない現場を見学することができる。申し込み方法などは同局ウェブサイトに掲載している。

 開発局では、民間の旅行会社のツアー企画に公共施設の見学会を盛り込む取り組みを13年度から実施している。見学会への参加者に公共施設の役割や社会資本整備の必要性などを広くアピールするのが狙い。

 公共施設見学ツアーに追加された建設現場は▽国道228号函館・江差自動車道茂辺地木古内道路工事(渡島トンネル)▽38号旭川十勝道路富良野道路工事▽38号・44号釧路外環状道路工事-の3カ所。開通前のトンネルの内部を見学したり、掘削工事の進め方を学んだりしながら、迫力のある土木工事の現場を間近で体感できるのが魅力だ。見学対象の追加に伴い、ツアーを企画する旅行会社の募集も開始した。

【18年度中に事業者選定へ】有明アリーナ、コンセッションの基本的考え方公表

有明アリーナの完成イメージ
(2015年10月時点、提供:東京都)
東京都が2020年東京五輪のバレーボール会場などとして使用する「有明アリーナ」(江東区)の管理・運営に関する基本的考え方を公表した。コンセッション(公共施設等運営権)方式の適用を前提に12月にも条例・実施方針を制定・公表し、18年5月に民間事業者の募集要項を明らかにする。五輪後の運営期間は25年程度とし、ネーミングライツ(施設命名権)を導入する方針も示した。

 募集要項の公表後、18年9月に提案を受け付け、同11月に候補者(単体またはグループ)を選定する。19年1月の仮契約締結、同3月の運営権設定議決・契約締結を想定している。

 契約締結から有明アリーナ竣工(19年12月)までを準備期間に充て、選定事業者には、その期間中からスポーツ大会や興業イベントの誘致・予約受け付けといった開業準備の実施を認める。五輪開催中には施設の維持管理業務を任せる。コンセッション方式に基づく実際の運営期間(約25年)は、五輪後に都が行う追加工事が終了してからの開始となる。

 選定事業者が運営期間中に担う業務は、▽スポーツ大会や興業イベントなどの誘致・予約管理▽施設の提供・利用料金収受▽マーケティング・プロモーション▽付帯事業(飲食・物販店舗など)の運営-など。施設のサービス向上・収益性改善に向けた追加投資・改修工事は事業者の負担で行ってもらうが、劣化した施設を元の水準に回復させるための大規模修繕は都の負担で実施する。大規模修繕に伴い休館した場合の営業補償までは行わない。

 有明アリーナの年間の来場者数は140万人が目標だ。主要施設のうちメインアリーナでは、スポーツで利用する期間を年間2カ月程度(通算)とし、この期間中は仮設の木製床を原則設置する。大規模スポーツ大会の開催は「年間10大会程度」が目標。利用料金はアマチュアスポーツに配慮し、都との協議で決める。

 都は、この基本的考え方に対する民間事業者ヒアリングを9月19日から29日まで行い、実施方針の策定に生かすとしている。

【15社が現場公開、延べ384人参加】17年けんせつ小町活躍現場見学会が終了

 日本建設業連合会(日建連)が女子小中学生と保護者を対象に行った17年の「けんせつ小町活躍現場見学会」が27日、全日程を終えた。

 会員企業が工事を行っている全国15カ所の現場で開き、子ども217人、保護者167人の計384人が参加。「けんせつ小町」の愛称で呼んでいる会員企業の女性職員らが参加者を引率したり、建設の仕事に親しんでもらえる企画を提供したりした。

 今年で3回目、過去最多となる会員企業15社の現場で実施した。例年を上回る早さで参加者募集を終えた現場が多く、日建連の担当者は「夏のイベントとして定着してきた。建設の仕事や現場の人気の高さがうかがえた」と手応えを話す。初参加が多い中、3年連続参加の親子もいた。

 現場では作業を見学した上で、鉄筋の結束やタイル張りなどを行ってもらった。竣工後に見えなくなる部分に名前や絵を書いてもらうなど、施主と協力して企画を立案した現場が少なくなかった。

 バーチャルリアリティー機器を使った安全教育の体験イベントを行った現場もあり、働きやすさだけでなく就労者の安全も追求する姿勢をアピール。9現場は女性職員らで組織する「けんせつ小町工事チーム」が見学会を主導し、ある女性職員は「一緒に働いてくれるとうれしいと思って頑張った」という。

 参加した小学生は「お姉さんがかっこよかった」と興奮した様子でコメントした。

 保護者の一人は「ものづくりが好きな娘のために応募した。将来を考えるきっかけになれば」と参加の動機を説明。別の保護者は「女性がこんなにたくさん働いているとは思わなかった」と話した。

 東京都内の建築工事現場で行われた見学会には、石井啓一国土交通相が視察に訪れた。国交相の参加は初。石井国交相は親子に建設業の魅力をPRし、会員企業の職員をねぎらった。

【凜】コマツ建機マーケティング本部・山関 珠実さん

 ◇常に新しいことに挑戦したい◇

 大学時代、外国語学部だったこともあり、カナダへ留学した。現地で一緒になった他国の留学生から、海外では日本の製品に対する信頼性やブランドイメージが依然として高いと聞かされた。

 「日本のモノづくりのレベルの高さを改めて知り、メーカーで働きたいと思うようになった。中でもインフラ整備など幅広く社会に貢献できる建設機械メーカーに魅力を感じ、入社を決めた」と振り返る。

 現在、入社から11年目。最初の6年間は、小型エンジンなどを製造する小山工場(栃木県小山市)で生産管理に携わっていた。その後、貿易や販売企画などの部署を経て、16年4月に設置された建機マーケティング本部グローバルコミュニケーション部に異動した。

 現在の部署では、国内外の市場情報を調査し、経営陣やマーケティング担当者向けに情報を発信。社内コミュニケーションを促進し、業務を円滑化するための仕組みづくりにも携わっている。

 「今の仕事で最も難しいのは、課題や問題点を自分で見つけ出し、それを一から解決していくこと」。試行錯誤も多く、すぐに結果は付いてこないが、「常に新しいことに挑戦できるのは大きなやりがい」と目を輝かせる。

 「それぞれの部署が持っている有用な情報を部門を超えて共有できるようにすることが今の目標」と情熱を燃やす。

 (グローバルコミュニケーション部、やまぜき・たまみ)

【サークル】富士古河E&C ゆいまーるマラソンクラブ

 ◇結び合いと助け合いでフルマラソン完走◇

 フルマラソンを完走することを目的に1998年に発足した「ゆいまーるマラソンクラブ」。名称に使用している「ゆいまーる」は沖縄の方言で「結び合い」「助け合い」などの意味を持つ。2017年8月時点での部員数は約40人。技術部門を中心に管理部門、営業部門や関連会社の社員などで構成している。

 代表を務めるのは、福田一矢さん(電設・建築事業本部電設事業部第三技術部長)。「自ら目標を設定し、無理せず楽しみ、ランニング後の『飲みニケーション』も大いに楽しむことを活動のモットーにしている」と笑顔で話す。

 毎月第3土曜日に皇居ランニングをするほか、茨城県のかすみがうらマラソンと、沖縄県のNAHAマラソンへ出場するのが主な活動。ほかにも各地で開催される大会へ参加したり、同社のサイクリング部と合同で合宿を開いたりと積極的に活動を展開する。

 福田さんは、「フルマラソンの楽しさを皆さんに味わってほしいと声掛けしている。マラソンと聞くと『きつい! 辛い! 疲れる…』と敬遠されてばかりだが、これからも若手などに声掛けを続け、部員を拡大したい」と力を込める。

【駆け出しのころ】不動テトラ執行役員地盤事業本部副本部長兼技術部長・大林淳氏

 ◇いずれ役に立つ時が来る◇

 大学の研究室では交通工学を勉強しました。ゼネコンを就職先に選んだのは、「全国だけでなく世界のいろいろな所に行ける」と考えたからです。当時の不動建設(現不動テトラ)は海外事業も積極的に展開していました。

 最初に配属されたのは地盤改良事業を扱う特殊工法事業本部の研究室です。新人で地盤について深い知識があるわけでもなく、研究室で飛び交う専門用語を聞いた時はびっくりしました。新人の頃は「これはまずい」と相当に焦っていたと思います。建築の仕事をしていた父が、私が家に帰ってきても土質工学の教科書を開いていると知り、「会社人生は長いんだから、焦らず少しずつやっていけばいい」と言ってくれたのを覚えています。

 東京本社の勤務でしたが、大変に忙しい部署であり、入社1年目から支店や現場の設計支援でよく出張していました。出張と言っても泊まるところは会社の寮です。夜に仕事を終えると、テレビもなく布団だけある部屋に帰って眠り、翌朝にまた仕事に行く。これが1カ月近くに及ぶこともありました。

 入社して3年間は同じ部署に後輩が入らず、宴会の段取りなどあらゆる雑用が自分に集中していたため、「他にもやることがいっぱいあるのに」とぼやいてしまったことがあります。この時に先輩から言われたのが「『若い時の苦労は買ってでもせよ』という言葉があるように、後で役に立つから頑張れ」でした。

 大学との共同研究にも携わりました。続いて大規模な海上工事の現場を担当させていただき、ここで設計と現場の関係を身をもって知ったことも大変貴重な経験になりました。

 1990年代半ばには、JV施工の発電所工事に設計課長として携わります。申請関係がうまく進まないなどでかなりしんどい時期があり、体調を崩して点滴を打ったこともありました。でも、任された仕事だったので何とかやり遂げたいという思いが強く、今でもそれを乗り越えられたことは大きかったと思っています。

 大阪への転勤を経て東京に戻り、かつて地盤改良を手掛けた場所に造られた高速道路を初めて車で走った時は本当に感動しました。運転しながら思わず叫び声を上げてしまったほどです。

 新入社員研修などでは「何でも吸収しなさい」と話しています。自ら「これは関係ない」などとフィルターをかけてしまわず、社会や会社で見たり聞いたりするいろいろなことを吸収していってほしいと期待します。かつて私が先輩から言われたように、その時には分からないかもしれませんが、若い時に経験したことは、いずれ役に立つはずです。

 (おおばやし・じゅん)1984年横浜国大工学部土木工学科卒、不動建設(現不動テトラ)入社。ジオ・エンジニアリング事業本部技術統轄部第一研究室長、不動テトラ東京本店第二営業部長、地盤事業本部技術部長などを経て、16年4月から現職。工学博士。神奈川県出身、56歳。
大学との共同研究に携わっていた頃の一枚(左側が本人)

2017年8月28日月曜日

【回転窓】ヒマワリの次はダイコン

 7月後半から8月中旬にかけて毎年、鮮やかな黄色い花一色に埋め尽くされる山梨・明野のヒマワリ畑。その数約60万本といわれる。26年目となった今年の「北杜市明野サンフラワーフェス」は、ぐずついた天候の影響で人出が例年の8割ほどにとどまったという▼「きょうもお客さん少ないかな」。霧雨の中、会場に設営された朝採れ野菜の直売所に立ち寄ると、主人が心配そうに空を見上げていた▼雨雲が途切れて薄日が差すと、滴を載せた黄色い花がきらきらと輝いているように見え、青空の下とはまた違った映え方をする。「たまにはこういうヒマワリもいいでしょ」という主人に、雨中の畑を歩く元気を頂いた▼「次はダイコンよ」と現地の農業関係者。いくつかの畑は、しおれたヒマワリごと耕し、名産の「浅尾大根」の栽培を始めた。毎年、文化の日の「北杜市浅尾ダイコンまつり」で振る舞う▼8月も終わりに近づいて天気図にようやく太平洋高気圧が目立つ。東日本では8月の前半や盆休みは夏らしからぬ天気に閑散とした行楽地が少なくなかった。それもまた自然。淡々と受け入れ、次のイベントを待とう。

2017年8月25日金曜日

【公設民営で収支黒字化めざす】豊橋新アリーナ構想、実現へ報告書取りまとめ

豊橋新アリーナの完成イメージ
 愛知県豊橋市が豊橋公園内を建設候補地に検討している「豊橋新アリーナ構想」で、コンセプトや整備・運営手法、経済波及効果などを明らかにする調査報告書がまとまった。中心市街地に立地する文化・スポーツの新たな拠点に位置付けるとともに、美術館や野球場、吉田城、既存商業施設などと連携し回遊ネットワークの形成を実現する。

 アリーナはプロバスケットボール(Bリーグ)・三遠ネオフェニックスの本拠地として利用するほか、コンベンションやコンサートなどで幅広く活用。興行価値の高いイベントを開催することで利用料収入を拡大し、運営キャッシュフローの黒字化を目指す。

 調査報告書では、新アリーナの規模を延べ1万3000㎡と想定。Bリーグトップカテゴリーの座席数基準(5000席以上)を満たす条件として1階に可動席1312席、2階に固定席2160席、3階には固定席1496席とVIP席104席を設ける案を設定した。

 ネオフェニックスのホームゲームでは5000人程度を収容する。豊橋市の地域性を考慮し、コンサート利用は1000人規模を想定。可動式仮設ステージや吊り下げ暗幕、パーティションを使った自由度の高い仕様にする案を提示した。

 事業スキームは、まず民間からの寄付金を行政に集め公的資金と合わせて、入札によって設計者と施工者を決めて施設を建設する。民間が設立する特定目的会社(SPC)に指定管理料0円でアリーナの運営と維持管理を任せ、SPCが利益の一部を納付金として市に納める。SPCへの出資はイベント運営会社や体育協会、プロモーター、クラブなどを想定し、アリーナの稼働率を上げることで収益力を高めて事業の安定化を図る。

 投資回収方式は運営権売却型、賃貸型、指定管理納付金環流型の3タイプを比較検討。収益状況に応じて指定管理者が行政への支払額を柔軟に変動できる指定管理納付金環流型が、民間参入を促す上で最も望ましいとした。

 公設民営方式を採用した場合、基本計画の立案に12カ月、設計に13カ月、工事には17カ月が必要と試算した。

 建設費は82億円程度とし、行政負担と法人寄付で各30億円、個人寄付で2億円、公的助成で10億円を目標に調達。施設運営者からの納付金10億円(年間0・5億円×20年間)を合わせて収支をバランスさせる案を示した。

 Bリーグやコンサート、コンベンションなどで34万人、市民利用で4万人の年間来場者を見込む。38万人のうち14万人が市外から来場者と見積もる。新アリーナ整備による経済波及効果は建設段階の3年間で85億円、共用後の7年間で122億円と試算する。

 新アリーナを地域のプロフィットセンターとして機能させる運営面のポイントには▽収益確保が可能な利用料単価の設定▽興行利用日数の最大化▽主要施設以外の収入確保▽人件費の最小化▽必要最低限のインフラ整備-を列挙。公共施設の整備・運営における教訓を踏まえ、施設・設備を過大な仕様にしない設計にすることで、人件費や維持管理費が抑制できるとした。

 調査は経済産業省の「魅力あるスタジアム・アリーナを核としたまちづくりに関する計画策定等事業」の採択案件として実施。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが報告書を策定した。

【周辺エリア巻き込む開発実現を】今治スタジアム実現へ報告書取りまとめ

 トップチームのJリーグ昇格にあわせて、1万5000人規模の複合型スマートスタジアムを建設する-。サッカー日本代表元監督の岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治(愛媛県今治市)が実現を目指すプロジェクトの方向性や課題を示した報告書がまとまった。

 人を呼び込む機能と快適な観戦スタイルを提供する機能を組み合わせた「複合型スマートスタジアム」の新設と併せて、周辺エリアに宿泊施設やサービス付き高齢者住宅などを整備。「健康・スポーツ・教育」をキーワードに、スタジアムを中心としたエリア全体でにぎわいや収益を生み出す仕組みの実現を目指すという。

 検討に当たっては今治市やFC今治、民間企業、金融機関などで構成する協議会が事業モデル案や整備運営手法案などを議論した。

 報告書ではサッカー専用スタジアムを単体で整備した場合、複合機能を持たせた施設でも運営を黒字化するのは困難と指摘。スタジアムが提供可能な基本機能と周辺エリアで提供する拡張機能を組み合わせて、地域の活性化や課題可決につなげる方向性を打ち出した。

 スタジアムの整備は▽公共による整備運営▽PFI方式▽負担付き寄付方式-の3手法を比較検討した。自治体が整備と運営を担う従来手法は、マツダZoom-Zoomスタジアムのように指定管理者が納付金を支払う方式を採用しても「興行日数が限られているサッカースタジアムでの成立は難しい」とした。

 PFI方式を採用したミクニワールドスタジアム北九州(北九州市小倉北区)、負担付き寄付方式を導入した市立吹田サッカースタジアム(大阪府吹田市)の事例もメリット・デメリットを分析。その上で「事業候補地の立地条件や公共の関与度合い、タイムスケジュール、民間事業者候補の考え方などを踏まえ慎重に検討する」必要性を指摘した。

 施設整備に不可欠な資金調達は個人や企業からの寄付金、自治体やスタジアム運営事業者の資金拠出に加え、スタジアム内外のさまざまな施設(スタンドやスペース)を第三者に転貸する方法を検討。事業権対価や前払い賃料を施設整備費に充てるという仕組みの具体化を目指す案を打ち出した。

 スタジアムと周辺エリアの整備による経済波及効果は建設段階で約120億円、運営段階で毎年10億~20億円と試算。エリアマネジメントを徹底して交流人口の底上げを図れば、地域経済への貢献はさらに大きくなると見ている。

 FC今治らは今後、報告書をたたき台にスタジアム建設に向けた協力者や中核企業の選定、ソフト面でのビジネスモデルの実現可能性調査、施設整備の総事業費と資金調達目標の具体化、整備運営手法の確立などを進める。報告書は経済産業省の「魅力あるスタジアム・アリーナを核としたまちづくりに関する計画策定等支援事業」の検討成果として、デロイトトーマツコンサルティングが取りまとめた。

【より長く使うために】豊スタ長寿命化計画策定業務、日建設計JVに

愛知県豊田市は、「豊田スタジアム長寿命化計画作成支援業務」の公募型プロポーザルを行い、日建設計・日建設計コンストラクション・マネジメントJVを委託先に決めた。

 施設の現状や運営上の問題点などを調査した上で、健全度・緊急度を判定し、長寿命化計画を作成する。履行期限は18年3月22日。

【器械体操の新たな拠点に】新潟県上越市、新アリーナ整備を計画

新潟県上越市は、大潟区に建設する体操競技専用施設「(仮称)上越市体操アリーナ」の用地取得費と造成工事費を28日にも公表予定の9月補正予算案に計上する。

 施設の基本・実施設計はハート一級建築士事務所が担当しており、履行期限は18年3月20日。市は18年度早々にも建築工事を発注して、同6月に本契約を結びたいとしている。完成は19年12月を予定している。

 建設地は大潟体操アリーナ(大潟区潟町)から東に約1キロの場所にある国際石油開発帝石所有の土地約1万1700平方メートル(大潟区九戸浜居ノ町361の3他)。取得価格は同社と詳細を協議して決定する。

 新施設は2階建て延べ約3800平方メートルを想定。器械体操の男女合計10種目の同時開催が可能な施設とする観客席は250席設ける。148台収容可能な駐車場も整備する。土地取得費を含めた事業費は最大26億円。

【何事も体験が大切】兵庫建協のサマーセミナーに学生30人参加

 大学生や専門学校生、高校生らが実際の工事現場を体験する兵庫県建設業協会(川嶋実会長)の「建設サマーセミナー」が、兵庫県姫路市で開かれている。

 建設業の将来を担う若者にものづくりの大切さを理解してもらおうと毎年開催、県西部地区では20回目となる。厳しい暑さのなか、参加した学生は真剣なまなざしで作業に取り組んでいる。

 実習場所は、マリモ(広島市西区)が北条口で建設を進めている「ポレスター姫路ザ・レジデンス新築工事」(RC造15階建て延べ8366平方メートル、工期18年7月末)の現場。施工を担当する前川建設が学生を受け入れた。

 実習には岡山理科大学、神戸芸術工科大学、修成建設専門学校、日本工科大学校、県立龍野北高校、県立東播工業高校、相生学院高校から女子学生3人を含む30人が参加している。

 21日午前に開講式を行い、4班に分かれて実習を開始。日曜日を除く28日までの7日間行われる。学生らは鉄筋、型枠、造作、左官、仮設、電気、設備の7項目を受講する。

 ひょうご建設産業若年者入職促進協議会の内藤康男代表は「今回は1年生が多数参加しており、意欲的な学生が多い。講習を通じて、学校や年齢が異なる班内でチームワークがしっかり育っている。施工技術だけでなくコミュニケーション力を養い、将来業界で人脈を築いてほしい」と語る。

 参加した龍野北高校1年生の南都龍志さんは「左官工事の精密さについて改めて体感できた。将来の夢である設計業務に今回の体験を役立てたい」と話していた。

【回転窓】インフラ健康診断書に期待

インフラの保全・更新の必要性を国民にどう分かりやすく伝えるか-。そんな発想から生まれたのが、米国で始まったインフラの健全性を評価する「社会インフラ健康診断書」。今は英国や日本にも広がっている▼第三者の立場で診断書を作成するのは、いずれも各国の土木学会。米国土木学会(ASCE)が行っている診断は、通信簿形式を採用し、5段階で評価する仕組み。国民にも好評だそうだ▼ASCEはインフラを16部門に分けて状態、予算、将来需要、維持管理、安全・安心などの8項目を評価。現状だけでなく、資金調達方法などの実行策も示す。その信頼性の高さは、インフラ投資の必要性を説くオバマ前大統領が演説で引用したほどという▼日本の診断書づくりは昨年始まったばかり。部門はまだ道路、河川、下水道の三つ、項目は状態、維持管理の二つにとどまり、16部門の診断書が出そろうのは21年度という。評価項目や表現方法の充実も必要で、土木学会は信頼性を高めるためASCEと意見交換を始めた▼国のインフラ政策への影響は未知数だが、千里の道も一歩から。土木学会の挑戦を見守りたい。

2017年8月24日木曜日

【年額1億円以上、期間は5年】吹田スタジアム、ネーミングライツの募集手続き開始

大阪府吹田市は、Jリーグ・ガンバ大阪が本拠地として使用する「市立吹田サッカースタジアム」のネーミングライツパートナー募集を開始した。

 年額1億円以上(税込み)、使用期間5年などが条件。漢字、ひらがな、ローマ字などは問わないが、必ず「吹田」の文字を入れる。法人名や商品名、ブランド名などの使用が可能。利用者の混乱を避けるため、原則として使用期間内にネーミングは変更できない。愛称の使用開始は2018年1月1日を予定している。

 募集期間は8月21日~9月28日。8月29日に現地説明会を開く。最低募集価格以上のネーミングライツ料(年額)を提示した応募者を対象に、市が設置する選考会議が提案内容などを審査。優先交渉権者と次点者を決める。審査内容は応募者の経営基盤、名称案の親しみやすさ、ネーミングライツ料の3項目。評価項目に一つでも0点があれば選考対象から外れる。応募者が1者の場合も選考会議で審査する。

 愛称の看板はスタジアム外側の西・北・東の3面、スタジアム内側のメインスタンド上部と南東角の2個所に設置できる。使用期間が終了した後も契約継続の優先交渉権が付与される。ネーミングライツ料の収入は市の財源として活用され、スタジアムの維持管理や改修の原資には使わないという。
 
 吹田スタジアムは140・8億円の資金と22カ月(13年12月~15年9月)の工期で万博記念公園内に整備された4万人収容のサッカー専用スタジアム。建設資金を寄付と公的助成金で賄い、自治体に施設を寄付した上で指定管理者制度を活用し、ガンバ大阪が自主運営するスキームを導入している。6階建て延べ床面積6万6184㎡の規模で、設計と施工を竹中工務店、コンストラクションマネジメントを安井建築設計事務所が担当した。

【どうなってるの!?、五輪施設整備】最終回の6回目は札幌ドームや埼玉スタジアムなど5会場

 「どうなってるの!?、五輪施設整備」シリーズ、最終回の6回目は札幌ドームや埼玉スタジアム2002など5会場の現状や今後の見通しなどを紹介する。
札幌ドーム
天然芝ピッチにした札幌ドーム(ⓒ tokyo2020)
【所在地】  北海道札幌市豊平区羊ケ丘1

 【開催競技】 サッカー
札幌ドームの全景(ⓒ tokyo2020)
【施設動向】 サッカーと野球2つのプロチームの本拠地となっているドーム型スタジアム。施設は札幌市が所有し、札幌市と民間が出資する第三セクターが運営管理を行っている。約4万人が入場可能で、2019年ラグビーW杯でも使用される。札幌市が札幌ドーム保全計画を策定していて、ホヴァリングサッカーステージの天然芝の更新、サッカー用照明設備の更新などが予定されている。新たな照明をLEDタイプにして明るさ向上と使用電力の低減を図り、ラグビーW杯や東京五輪に備える。
宮城スタジアム
宮城スタジアムの全景(ⓒ tokyo2020)
【所在地】  宮城県宮城郡利府町菅谷字舘40の1

 【開催競技】 サッカー
宮城スタジアムのトラックとフィールド(ⓒ tokyo2020)
【施設動向】 2000年に完成した陸上競技・球技兼用スタジアム。施設規模はSRC・RC・S造6階建て延べ5万7564㎡で、収容人数は約4万9000人。宮城県が建設し、「宮城県スポーツ振興財団」らによるグループが指定管理者となり運営管理を行っている。

 宮城県はスタジアムの大規模改修に着手し、五輪競技の開催基準を満たす照明設備や2面の大型ビジョンの設置、芝の張り替え、仮設メディア・センターなどの整備を行う方針だ。

 2017年度6月補正予算に芝改修の設計委託費を計上した。17年度内に芝の改修設計を終え、来年度以降に芝改修工事を発注するとともに、設備改修を行うための設計なども委託する。
埼玉スタジアム2002
6万人以上を収容する国内最大規模の球技専用スタジアム
【所在地】  さいたま市緑区美園2の1

 【開催競技】 サッカー
スタジアムの内部(ⓒ tokyo2020)
【施設動向】 6万3700人を収用できるサッカー専用スタジアム。規模はRC造6階建て延べ6万0867m2。埼玉県が所有し、埼玉県公園緑地協会が指定管理者となり運営管理を行っている。

 東京五輪に向け、埼玉県が大規模改修事業を進めていて、初弾の設計業務として「埼玉スタジアム2002コンコースほか改修工事設計業務」と「同外壁ほか改修工事設計業務」の2件が2015年6月に発注された。改修工事は分割発注され、2015年度は外壁の修繕やスタンド改修などを実施。以降も改修に向けた設計業務や設備改修工事などが順次、進められている。
横浜国際総合競技場
横浜国際総合競技場の全景
【所在地】  神奈川県横浜市港北区小机町3300

 【開催競技】 サッカー

 【施設動向】 国内最大の7万2327席の観客席を有する陸上競技と球技の兼用スタジアム。横浜市が所有し、横浜市体育協会・管理JV(ハリマビステム、東京ビジネスサービス、シンテイ警備、西田装美)共同事業体が指定管理者となり運営管理を行っている。

 2019年にラグビーワールドカップ(W杯)の決勝戦も行われる。改修工事の基本・実施設計は松田平田設計が担当。改修工事の内容は特定天井改修(観客席上部、2階正面玄関前天井)とフィールド床補強、大会関連諸室空調設備更新。特定天井は新たな耐震基準に沿った補強を進める。フィールド床は地下部分から補強し、フィールド上への重機などの乗り入れを可能にする。
来夏までにピッチはハイブリッド芝に切り替わる予定だ
(ⓒ tokyo2020)
ラグビーW杯、五輪サッカーと国際的な試合が続き、サッカーJリーグ・横浜F・マリノスもリーグ戦などで使用する。横浜市はピッチ状態を良好に保つため、総天然芝に比べ耐久性が高い、天延芝と人工芝を組み合わせた「ハイブリッド芝」の導入を決定。8月1日に「フィールド芝開発・育成事業」を1億1900万円で東洋グリーンに委託した。

 計画ではピッチ全面(7700㎡)と新横浜公園内ほ場(1000㎡)の合計8700㎡をハイブリッド化する。来年6月までを育苗期間とし、その後ほ場からの切り出し・運搬作業を実施してピッチ全面をハイブリッド芝に切り替える予定。芝の育苗と並行してハイブリッド芝の維持管理・育成手法も確立する。
茨城県立カシマサッカースタジアム
カシマサッカースタジアムの全景(提供:茨城県)
【所在地】  茨城県鹿嶋市神向寺後山26の2

 【開催競技】 サッカー

 【施設動向】 日本初の本格的なサッカー専用スタジアムとして1993年4月に誕生。規模はRC・SRC・S造6階建て述べ8万5019㎡。約4万人の観客を収容する。茨城県が所有し、鹿島アントラーズFCが指定管理者となり運営管理を行っている。7月10日に国際オリンピック委員会(IOC)理事会で、東京五輪のサッカー競技会場として正式に承認された。東日本大震災の被害から復興した競技会場であることなどが評価された。
カシマスタジアムのスタンドとピッチ(ⓒ tokyo2020)
県はスタジアムの経年劣化に対応するため、改修工事を継続的に実施している。6月には屋根鉄骨修繕第4期工事を4億1900万円で常総開発工業に発注。スタジアムを覆う屋根のうち南東側10スパン分、延べ1500㎡を改修する。県は座席や階段、トイレの改修、屋根鉄骨修繕の5期工事も17年度内に発注する計画を立てている。

 さらにJリーグが進めるスタジアムのスマート化プロジェクトに関連し、7月に高密度wi-fiが導入された。455基の公衆無線LANアクセスポイント(AP)を整備。スタジアム全観戦エリアと近隣エリアで高速データ通信が可能になった。


「どうなってるの!?、五輪施設整備」の回目はこちらから。