コルビュジエに師事した3人の日本人建築家のうちの一人、吉阪隆正(1917~80年)には、建築家ともう一つ、ヒマラヤの8000メートル峰を目指す登山家の顔があった。少年時代をスイスで過ごし、父の手引きで本場のアルプスの登山に熱中した経験が「アルピニスト吉阪」を育んだといわれる▼東京の世田谷文学館で開催中の企画展「山へ!」(9月18日まで)は、「時代を超えて同じ〈山〉というフィールドで繰り広げられてきた多様な〈知〉と〈表現〉」に迫るというユニークな展覧会。「文学」の深田久弥、「日常」の田部井淳子らと並び、「建築」で吉阪の業績が取り上げられている▼〈山の建築が立派になることは第二のチロルを生み出すもとでもある〉との信念の下、吉阪の研究室が計画した山小屋、ホテル、鉄道駅などの山岳建築は20件超。うち12件が実際に建設された▼険しい地形や強風・豪雪などの気象条件に適応した設計が特色で、展示された模型や図面、スケッチからもそれがうかがえる。過酷な自然環境にさらされながらも10件は現存しているそうだ▼「吉阪建築」を巡る山旅もまた一興であろう。
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