2017年8月4日金曜日

【ERI学生デザインコンペ審査員インタビュー・4】木下庸子氏(建築家、工学院大学教授)に聞く「コンペの特徴と応募作品への期待」

 ERIホールディングスが主催する設計競技「ERI学生デザインコンペ」。2017年度は「RULE(ルール)/SPACE(スペース)/HARMONIZE(ハーモナイズ)」をテーマに全国の学生から作品を募ります。コンペの選考委員に聞くリレーインタビューの最終4回目は、建築家で工学院大学教授の木下庸子氏です。

 ――昨年の審査の印象は。


 「昨年のテーマ、『ルール、スペース、シェアラブル』のうち、シェアラブルの解釈に各作品の特徴が出ていて、興味深く見ました。一方、ルールとスペースというキーワードは比較的何にでもあてはまるせいか、特段触れられていなかったものもあったのは残念でした。ルールとスペースにもいろんな攻め方があると思うので、今年の学生さんには去年とは違った提案を期待しています」

 ――今年のテーマは『ルール、スペース、ハーモナイズ』に決まりました。

 「一般的にハーモナイズは統一、調和などと訳されますが、そもそも統一性とは何か、どういう時に必要か、あるいは本当に必要なのかといった問いが立てられます。世界にハーモニーが感じられない今だからこそ、ハーモナイズという言葉を念頭に置きながら何を提案できるか、そのあたりから攻めていくとおもしろいのではないでしょうか」

 「私の設計事務所・ADHのHはハーモニクスを表しています。複数の建築家が集まって事務所を設立した時に決めた名前ですが、音楽で和音が一つの音以上のものを奏でることができるのと同様に、建築でも一人ではできないまでも、複数でこそ可能となるものつくりを目指したいという思いを込めました。ハーモニーは、建築の空間でも、建築のつくり方でも、あるいは居住のあり方にでも見つけられる概念です。色んなシチュエーションで相乗効果を生むハーモニーは重要なコンセプトだと考えています」

 ――学生にはコンペへの挑戦で何を学んでほしいですか。

 「チームワークを磨くという側面もあると思います。20世紀の建築は比較的個人の力で勝負する面もありましたが、まちづくりが建築家の職能として意味を持つようになったように、現代の建築は一人で作品をつくりあげるだけではない方向に動いています。チームだからこそ生まれる発想に期待しています。私が学生だったころは今ほどコンペの数も多くなく、学生向けのコンペもありませんでした。今の学生にはたくさんチャンスがあります。大いに利用してほしいと思います」

 ――数多くある学生コンペの中でも、ERI学生デザインコンペの特徴は何だと思われますか。

 「ルールというテーマは、民間の審査機関であるERIらしい言葉だと思います。建築がルールに沿っているかどうかを確認することを仕事にしていながらも、コンペの主催者が期待しているのはその固定概念を破ることも含むのではないでしょうか。ルールを鵜呑みにするわけではなく、その行間を読みながら新しいチャレンジをするというスタンスも大切ですから、学生もそこに注目して提案を考えてもらいたいです。選考委員も、ルールという言葉に惑わされず、それを超えようという意識を持っている建築家たちだと思います」

 ――ルールの新しい解釈とは。

 「法律など建築にまつわるルールは、人間がある条件の中で作ったものであり、絶対的なものではありません。合理的で、物事を進める上で都合の良いものではありますが、社会の変化に応じて見直されるべきです。ルールが更新されるからこそ進歩があるのです」

 「学生と話していると、『こうすべき』といった何か定量的に基準となるような答えを求める傾向があるように思います。『自分はこう思うから、こう解釈していいのでは』といったルールを読み替えようという姿勢も必要だと思います」

 ――ルールは時代によって変わっていくのですね。

 「例えば、高度経済成長期の日本は、定型3LDKと呼ばれる決まった間取りの集合住宅を大量生産していました。早くたくさんのものを作る時代では、このルールが最適解だったのでしょう。1980年に米国から日本に戻り、内井昭蔵先生の事務所に勤めはじめたころ、新聞に『これぞパーフェクトな住まいの形式』と定型3LDKのマンションが紹介されていました。当時は、最も効率的なプランであり、それが「完成形」と賞されたようです」

 「ところが社会の成熟とともに、自分たちの暮らしをルール(定型)に合わせるのではなく、自分たちの生活にあった形の建築があってもよいと気づいたのです。ルールは崩されてよいものだという思いを強くしました。この変遷はいつか、ルールをテーマとする研究課題として取り組んでみると面白いでしょうね」

 ――進行中のプロジェクトを紹介してください。

 「東京都板橋区にある小豆沢スポーツ公園の改修設計を手掛けています。これまで団地の中庭などの改修設計の実績はありますが、一つの公園の設計は新しい経験です。プロポーザルでは、公園全体に小豆沢ループと呼ぶ300mのランニングコースを提案しました。崖のある部分ではループがブリッジとなるなど、公園設計の中に建築的な提案を加えた点が評価されたようです。ランドスケープと建築の融合といった、これまでとは違う面白さを探究しています」。

(リレーインタビューは今回でおわります)

ERI学生デザインコンペ2017

【主  催】ERIホールディングス
【協  賛日本ERI、ERIソリューション、ERIアカデミー、東京建築検査機構、イーピーエーシステム
 【特別協賛】 日刊建設工業新聞社
【応募受付】 2017年9月1~20日
【一次選考】 2017年10月上旬
【最終選考】 2017年11月11日(公開審査)
【賞  金】  最優秀作品賞(1点)50万円、優秀作品賞(1点)25万円、佳作(数点)5万円、特別賞

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