2017年8月17日木曜日

【周辺再開発の起爆剤に】首都高日本橋区間撤去・地下化事業、五輪後着工へ検討本格始動


 ◇立体道路道路制度の活用視野◇


 東京都中央区にある日本橋の景観が復活する。国土交通省と東京都は、日本橋の真上を走る首都高速道路を2020年東京五輪の後に撤去し、地下に移設する方針を決めた。近く建設主体の首都高速道路会社と共に事業計画作りに本格着手する。新設する地下トンネルのルートは立体道路制度の活用を視野に、日本橋周辺で計画される複数の都市再開発事業の用地内に確保する方針だ。

 石井啓一国交相と小池百合子都知事が7月21日にそれぞれ開いた記者会見で表明し、青空が広がる日本橋の水辺空間の形成に期待を示した。国と都の方針決定を経済界も好意的に受け止める。不動産協会の菰田正信理事長(三井不動産社長)は「東京の都市の景観は国際競争力に極めて大きな影響を持つ」と指摘。「世界の代表的な都市を見ると、都心の中心部には高速道路が通っていない。東京が成熟した都市になってきたことを考えれば、世界標準的な都市の造り方を参考にすべきだろう」と話す。

 今後、国交省は首都高速会社の事業計画を認可する立場、都は道路整備や都市再開発の都市計画決定・変更を認可する立場から、首都高速会社と共に日本橋区間の撤去・地下移設の事業計画作りを進める。協議の枠組みと開始時期は未定だが、関係者は「遅くても年内に動きださないと五輪後の着工も遅れてしまう」との見方を示す。

 1964年東京五輪の前年に開通した日本橋区間は、高架橋の都心環状線竹橋ジャンクション(JCT、千代田区)~江戸橋JCT(中央区)間(延長約2・9キロ)にある。既設ルートは高架橋の真下を流れる日本橋川と並行している。日本橋区間の撤去は、これまで官民による提案が何度も行われてきた。このタイミングで国交省と都が決断した背景には二つの大きなきっかけがある。一つは14年に首都高速会社が高架橋の架け替えによる竹橋JCT~江戸橋JCT間の大規模更新計画(事業費約1400億円)を決定。もう一つは16年に日本橋周辺で計画されている複数の再開発が国家戦略特別区域制度の認定都市再生事業に提案されたことだ。

直上の高架橋が日射を遮るため、日本橋川は水質悪化も問題になっている
国交省によると、竹橋JCT~江戸橋JCT間は1日当たり約10万台が通行する都心の交通の要衝。このため、日本橋区間の地下化は、既設の高架橋をできるだけ使いながら進める必要がある。こうした状況を勘案すると、地下トンネルは高架橋の橋脚が林立する日本橋川の真下ではなく、周辺用地に整備。通行をトンネルに切り替えてから高架橋を撤去するという手順になりそうだ。

 現時点で、日本橋区間の撤去と地下移設にかかる期間は数十年、建設費は現行の更新計画の規模を大幅に上回る見通しだ。そのため、近く始まる事業計画作りではコストの削減方策が優先課題になる。そこで国交省らは、日本橋周辺の複数の再開発用地内で道路と構造上一体になった建築物を建てられる立体道路制度の活用を検討する。地下トンネルのルートを効率的に確保するのが狙いだ。この方法だと、民間の再開発事業者にとっても、一般的な再開発ビルの建設時より手厚い容積率割り増しなど優遇措置を受けられるメリットがある。

 事業の意義について、首都高速会社の幹部は「老朽化したインフラを更新しながら社会的価値をさらに高める。インフラ整備のイメージを大きく変える社会的にエポックメーキングな取り組みだ。施設構築物が密集する都心でのこうした取り組みは世界的にも例がないだろう」と強調する。

 ただ、日本橋周辺の再開発には課題もある。地権者などの事業関係者が極めて多いことだ。都によると、同様に立体道路制度を活用して建てられた虎ノ門ヒルズ(港区)よりも事業関係者は大幅に多いという。今後の事業計画作りは、地元の意見を十分に考慮しながら進める必要がありそうだ。

 □景観に好影響、不動産価値上昇に期待□


 半世紀以上にわたり、日本橋(東京都中央区)の上空を覆っていた首都高速道路の地下化の方針決定を受け、日本橋川の周辺5地区=図参照=で、地下化と連動した再開発事業の機運が高まっている。立体道路制度の活用を視野に、準備組合が施設計画を検討。デベロッパーや区も再開発を積極的に支援している。

 今回の方針決定を「念願であり悲願」(中村胤夫名橋「日本橋」保存会会長)と好意的に受け止める地権者は多い。「コストをかけずに(道路を)撤去するべきという意見もあるが、地元では大半の人たちが喜んだ」(区幹部)という。景観が良好になるため「地価など不動産価値も上がる」(事業関係者)との見方もあり、地下化が再開発にも追い風となる格好だ。

 再開発が検討される5地区のうち、初弾の「日本橋一丁目中地区(4~12番街区)」は施設規模が固まっているが、それ以外の4地区は立体道路制度の活用が想定されるため、施設計画の検討は今後本格的に進む。地下化の議論の行方を注視しながら、首都高と構造上一体になった再開発ビルの建設が検討されることになりそうだ。

 複数の地区の再開発構想に事業協力者として関わる三井不動産の菰田正信社長は「事業化の取り組みはこれからが本番だが、地下化の方針が決定されたことは一歩前進だ」と評価。再開発計画の具体化に向け、準備組合への支援に本腰を入れる方針だ。

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