2020年3月23日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・250

存廃に揺れる原発も多い
◇原発で働く意味とは◇

 「正直なところ、葛藤はある」。電力会社で働く高岡統さん(仮名)は自身の仕事をこう話す。担当しているのは原子力発電所の維持管理。仕事に真摯(しんし)に向き合いながらも「自分がここで働いている意味は一体何なのか」と自問する日々を過ごしている。

 小さいころから手先が器用で、機械の組み立てやDIYに没頭していた。地元の大学に進んで機械工学を専攻し、大学院にも通った。就職活動では「大学で学んだことを生かすことができるし、地元に残れるという漠然とした考え」から、地元の電力会社を志望した。

 入社後に配属されたのが原発の維持管理を担う部署だった。家族や親戚たちに伝えると「いい顔をしなかった」。当時は東京電力福島第1原発事故が発生して日が浅く、被害状況を伝える報道が続いていた。心配や不安の声が多かったが「なんとかなるだろう」とあまり気に留めなかった。

 仕事の都合で原発がある地域に引っ越すと、原発廃止を強く訴える住民たちがいることを知った。プラカードや横断幕を掲げ、多くの住民が集まって行進するのを目の当たりにして衝撃を受けた。すれ違いざまいきなり罵声を浴びたことも。これまで楽観的に構えていたが、「自分は必要とされているのだろうか」と次第に思い悩むようになった。

 心にわだかまりを抱えながら数年が経過したころ、停電を伴う大規模災害に見舞われた。部署を飛び越え社員総出で復旧作業などに追われた。「今までで一番しんどい時期」。

 業務に忙殺される中、インターネットのニュースサイトで目にしたのは避難所の状況を伝える記事だった。いつ家に帰れるかも分からずただ途方に暮れている多くの人。「自分たちがやるしかないんだ」。決意を新たにした瞬間だった。

  災害対応を経て「生まれ育った地元を支えているという責任感のようなもの」を持つようになった。住む人が誰しも必要とする電力の供給に携わることは「他の業種ではなかなか味わうことができないやりがいがある」と考えている。

 一方で、自分が担当する原発に対する懸念の声が「いまだあることも事実」。原発が本当に必要なのかと聞かれたら「正直分からないし、答えられる自信がない」。それでもさまざまな意見を重く受け止めながら、事故などを絶対に発生させないよう「維持管理を担うプロフェッショナルとして、一生懸命仕事に取り組むしかない」。

 一昨年に結婚し、来月に第1子が誕生する予定だ。「公私ともに考えることがいっぱい」だが、「将来子どもに『パパはどんなお仕事をしているの』と聞かれた時に、自慢できるような答えを見つけ出したい」と照れくさそうに笑う。

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