新施設は支柱のない、らせん階段も見どころの一つだ |
国宝「迎賓館赤坂離宮」(東京都港区)の正面に隣接する公園内に参観者の憩い施設が誕生する。迎賓館と公園の景観を考慮し、施設の大半は地下に設けられる。建設地は鉄道トンネルに近接するなど、極めて高い施工精度が求められる局面がいくつもあった。昨年は迎賓館での国の行事が多く、現場閉所せざるを得ない日も。こうした中、受発注者が共に完成に向けて全力を傾けた。
日本初の西洋風宮殿建築となる迎賓館は、2016年4月に通年での一般公開が始まり、1日平均約4500人が訪れる人気の観光スポットとなっている。だが休憩スペースやトイレが不足。館内や庭園を散策した後に立ち寄る飲食店が周辺に少なく、休憩施設の整備が課題となっていた。
内閣府の支出委任を受けた国土交通省官房官庁営繕部は、迎賓館参観者の利便性や満足度の向上を図るため、休憩スペース、カフェなどを提供するとともに、周辺エリアの観光情報を発信する施設を計画した。基本・実施設計は柳澤孝彦+TAK建築研究所が担当。基本コンセプトがまとまった後、柳澤氏が亡くなった。建築家・柳澤孝彦の遺作ともいえる建築だ。
「赤坂迎賓館前公園施設(仮称)新築(18)建築その他工事」を手掛けているのが鉄建建設。建設地は迎賓館の正門前にある若葉東公園の西側のエリア2534平方メートル。施設の規模はRC一部S造地下1階地上1階建て延べ1169平方メートル。建築や電気・機械設備のほか、造園や外構なども整備する。
憩いの場となる水盤 |
迎賓館と周囲の木々の調和を考慮して施設を地下化するが、JR中央線と総武線のトンネルに近接している敷地となっている。施設とトンネルの距離は最も近いところで5メートル。昭和初期にできたトンネルで道床に砕石や砂利などを用いたバラスト軌道ではないため、「設計段階からJR東日本と協議し、トンネルが動く限界値を2ミリに設定した。新幹線よりも厳しい値だ」(柊平室長)。
この難工事を担当した鉄建建設東京支店赤坂見附建築作業所の宮田美岳所長は「前工事(埋蔵文化財調査)の山留め杭と、地下外壁を一体化して山崩れしないようにし、トンネルへの影響を最小限に抑えた」と振り返る。通常では不要だが、鉄道に影響を与えないよう地盤改良も実施。夏季の暑さで山留めの鋼材が1~2ミリ伸びたものの、掘削の影響で山留めが動くことはなく、トンネルの原位置をきちんと保った。
迎賓館前の工事には特殊事情も多い。現場周囲に観光バスが10台止まっている日も少なくないという。新規入場教育に加え安全教育協議会などを通じて「風紀を乱さず、第三者に迷惑をかけない。交通災害を絶対に起こさない」(宮田所長)。こうしたことを常に徹底してきた。
昨年は天皇陛下の即位や米国大統領の来日など、迎賓館での国の行事が多数催され、現場を閉所する日も多かった。さらに自然災害が相次ぎ、台風15号では千葉県の鉄筋業者の加工場が被災。停電が解消するまで鉄筋が入ってこなかった。今年に入り新型コロナウイルスの影響も受けた。使用する予定だった中国産の石材の輸入がストップ。宮田所長は「急きょ国内中を探し、何とか在庫を確保できた」と胸をなで下ろす。
柊平室長㊧と宮田所長 |
今後カフェなどの準備を経て、4月下旬にオープンする。昨年8月に日本建設業連合会(日建連)の「けんせつ小町活躍現場見学会」の現場として、小学1~6年7人を受け入れた。宮田所長は「この建物が完成したら、また見に来てほしい。夏の思い出になっていればうれしい」と笑みがこぼれる。
柊平室長は施設を整備した目的通りに利用されることで「迎賓館の思い出と合わせて、この施設で休憩したという思い出を作ってほしい」と語る。地域住民にも開放する施設となり「地域の皆さんの憩いの場としても活用していただきたい」と迎賓館の新たな構成要素に期待を寄せる。
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