2022年1月4日火曜日

【2022年展望】建設産業行政、賃上げによる好循環・継続なるか

国交省が21年12月、自治体に要請した内容(国交省公表資料から)

 赤羽一嘉前国交相と建設業主要4団体が昨年3月の意見交換会で、技能労働者の処遇改善に向け21年に「おおむね2%以上」の賃金上昇率の実現を目指すことで一致した。賃金引き上げの成果が公共工事設計労務単価の上昇という形で表れ、適正利潤の確保やさらなる賃金引き上げにつながる好循環を維持できるのか。この先の建設産業の行方を左右する大きな意味を持つ1年となりそうだ。

 昨年12月の臨時国会。衆参両院で所信表明演説を行った岸田文雄首相は、自身の看板政策となる「成長と分配の好循環」の中核に据える「賃上げ」を実現している代表例として建設業を挙げた。設計労務単価の引き上げや下請への適正発注の徹底を通じ、直近6年間の賃金上昇率が全産業平均を大幅に上回る年平均2・7%で推移したと指摘。「こうした官民協働の取り組みを他業種に広げる」と宣言した。

 他産業が見習うべき手本として示された格好だが、建設業も賃金引き上げを引き続き実現できるかどうかの岐路に立っていることは疑いようがない。設計労務単価は13年度から9年連続で上昇している。ただ昨年3月適用の労務単価はコロナ禍の影響を理由に、賃金実態が前年度を下回った地域・職種の単価をそのまま据え置く特例措置を講じた。昨年10月の公共事業労務費調査を基礎データにした新しい設計労務単価は今年の初めごろに示される予定。その結果を官民双方の関係者全員が固唾(かたず)を飲んで見守る。

 国交省は賃金上昇に向けた布石を次々と打ってきた。地方自治体には昨年6月、持続的・安定的な公共事業量の確保やダンピング受注の排除に向けた対策強化を要請。技能者への適切な水準の賃金支払いを促すため、昨年10~12月の「建設業取引適正化推進期間」には標準見積書の活用状況や見積もりに基づく協議状況を重点調査した。主要な元請企業を対象に見積書や契約書に記載した労務費と法定福利費の内訳明示状況、工期設定をチェックしている。

 標準見積書を活用した労務費と法定福利費の適正確保には発注者の理解も欠かせないとの考えから、昨年12月には自治体に請負代金内訳書の法定福利費内訳額の確認を要請。民間発注者にも足並みをそろえた対応を求めた。一方、建設業団体も労務費を内訳明示した見積もりの尊重を会員企業らに呼び掛けるなど、下請契約の配慮やダンピングの防止に努めてきた。

 こうしたタイミングでの岸田政権の発足は追い風になる。斉藤鉄夫国交相は昨年10月の就任インタビューで、建設業の担い手確保・育成には「高度な技能を持った人たちが、それに見合う報酬を得られるようにしていくことが必要だ」と強調。設計労務単価の上昇の流れを「しっかり引き継ぎ、若い人たちが誇りを持って働ける職場にしてきたい」と力を込めた。

 政府全体で「賃上げ」を巡る議論が活発化しているからこそ、技能者の処遇改善にあらゆる手段を講じる必要がある。建設産業行政の関係者からは「この機会を逃すと当分、チャンスは巡ってこない」という切迫した空気が漂ってくる。

 建設キャリアアップシステム(CCUS)が普及する現状を踏まえ、技能者の能力や経験に応じた賃金が支払われる環境づくりも求められる。持続可能な建設産業に向け、これまで以上に官民で知恵を絞り協働していくことが重要となる。

0 コメント :

コメントを投稿