建築物への木材活用を推進する取り組みの一環で、環境に配慮して適切な管理が行われていると認証された森林で生産された木材(森林認証材)を活用する動きが活発化している。2020年東京五輪のメーン会場となる新国立競技場の建設にも、森林認証材が用いられる計画だ。認証材を使うことは建築物自体の付加価値を高めることにもつながる。生産・流通から施工まで一貫した認証材の導入スキームを構築する取り組みも出てきた。
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森林認証材で建築物の付加価値向上を図る |
森林認証は、独立した第三者機関が一定の基準で審査し、森林経営が適切に行われている森林または経営組織などを認証する制度。認証された森林から生産された木材や関連製品にラベルを貼り、認証材に対する消費者の購買意欲を高めるとともに、持続可能な森林経営を支援することが狙いだ。
◇新国立競技場など国家プロが後押し◇
ラベリングした認証材を流通させるには、流通に関与する加工・流通業者などが、認証材が消費者に届くまでの各段階で認証材とそれ以外の木材を区別して取り扱う体制を構築し、その体制が認証(CoC認証)されている必要がある。森林認証制度の運営団体には、世界的規模の「森林管理協議会(FSC)」や日本独自の「緑の循環認証会議(SGEC)」などがある。国内で認証を受けている森林の面積は15年11月時点でFSCが約39万ヘクタール、SGECが約126万ヘクタール。CoC認証を取得している事業体はFSCが1064、SGECは344に上る。
国内では、日本の林業などの実情に応じて制度化されたSGECの認証数が多い。世界的に見ると、FSCの認証森林面積は約1億8492万ヘクタール(80カ国)、CoC認証の取得事業体は2万9681(113カ国)に達する。認証材の活用機運は、世界的に注目される建築プロジェクトなどを通じて急速に高まっている。12年ロンドン五輪、今夏のリオデジャネイロ五輪でも競技場など多くの関連施設に認証材が使われ、環境配慮が一段と求められる中、20年東京五輪でも同様に認証材が積極的に用いられる。
新国立競技場の実施設計・施工事業者に決まった大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JVは、日本の気候・風土・伝統を踏まえた木材利用を推進し、木材は認証を得た森林から調達することを技術提案書に明記した。
木材と鉄骨の長所を生かすハイブリッド構造の大屋根には、全国から調達可能な中断面集成材(計約1800立方メートル)を採用。適切に管理された森林から切り出され、信頼性の高い加工・流通システムで生産履歴を高度に管理された認証材を使うことで、木材の品質を確保する考えだ。
JVに加わる建築家の隈研吾氏は「新国立競技場の特徴は周りが緑に恵まれた森になっていること。森と融合した建築となることが日本らしさであり、レガシー(遺産)になる」と話している。地球規模で広がる森林の消失や違法伐採の問題への対応策の一つとして、森林認証による抑止効果に期待が集まっている。環境問題に対する消費者や企業の意識も年々高まり、森林認証の取得、認証材の採用の機運は世界的に広がりつつある。
三菱地所レジデンスは分譲マンションの建設に用いる木質部材のトレーサビリティー(追跡可能性)向上の一環として、首都圏の2物件をモデルに、使用する二重床下地合板を対象にしたFSCの部分プロジェクト認証の取得を目指す。昨年12月、認証申請が国内の分譲マンションで初めて受理された。
部分プロジェクトの認証メンバーである二重床メーカーが認証材を用いて部材を製造し、元請のゼネコンの管理の下で床施工会社が作業を行う。認証部材の設置完了後、調達から施工までの一連の流れの審査・評価を受けて認証に至る。部分プロジェクト認証は物件単位で行われる。三菱地所レジデンスは今回のモデル物件で得た知見・ノウハウを他の物件にも展開し、認証材の利用拡大に取り組む。
◇自治体が販売・流通網支援も◇
地方自治体でも、地元産木材の利用促進に向け、森林認証やCoC認証を取得した事業者による販売・流通網の構築を支援する動きが目立ってきた。工事発注の際に認証材の使用を求めたり、施工者側が利用を提案したりする事例も出てきた。認証材の活用は商品・サービスのブランド力を高める一方で、事業者側にとっては認証の取得・更新手続きなど手間やコストの増加要因にもなる。販売価格への転嫁は消費者にとってマイナス要因となる。
森林認証の普及と認証材の利用をさらに拡大していくには、事業者、消費者双方の環境問題への意識を一段と高めることも必要になりそうだ。