2016年2月15日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・126/もう一度現場に立ちたい

子育ての〝ひと段落〟はいつなのか
「大きな構造物を造りたい」と鈴木真美さん(仮名)がゼネコンに入社して10年がたつ。一人前の土木技術者になりたい一心で仕事に打ち込み、全国各地の現場を経験した。結婚、出産を経て数年前に本社の技術部に異動。今の職場では再生エネルギー関連の業務を担当している。「再び現場に立ちたい」最近はそんな思いが頭を離れない。

 子どものころから橋を眺めるのが好きで、大学では迷わず土木工学を専攻。就職先は施工に関われるゼネコンを選んだ。入社当時は女性総合職の採用が本格化する直前で、気軽に相談できる女性の先輩や同僚も少なかった。それでも体力的にきつい現場勤務を続けられたのは、ものづくりが好きな気持ちと入社3年目に出会った現場の所長のおかげだと思っている。

 関西地方の高速道路の建設工事。そこで初めて橋梁の施工を下部工から上部工まで一人で担当した。PC(プレストレストコンクリート)上部工は現場打ちの一発勝負。あんな若い女の子で大丈夫か-。そんな声が聞こえてきそうな現場の空気を一変させたのが所長の一言だった。「チャレンジしなければ成長しない。彼女にやらせよう」。その言葉が今も鈴木さんを支えている。

 「あの時、自分は輝いていたかも。少なくとも迷いはなかった」と振り返る。夫と出会ったのもその現場だ。工事が終わり、鈴木さんが首都圏の現場に移ってしばらくは遠距離交際を続けていたが、結婚を機に彼の方が転職してくれた。「夫がいて、子どももいて、仕事もある。ぜいたくだと言われるかもしれない。でも…」。

 現場勤務の希望は毎年出しているが、「子どもが小さいうちはお母さんがそばにいないと」と平気で言う今の上司の元では実現しそうにない。時代遅れの性別役割分業意識を疑わない世代が上にいる限り、自分はこれ以上成長できないかもしれないと焦りを感じている。「子育てが一段落すればそのうち外に出られる」と声を掛けてくれる人もいるが、いつ「一段落」つくのか。今も頻繁に出張をこなしているし、夫も現場の事情をよく知っている。やってやれないことはないと思う。

 これまで一緒に仕事をした所長の中には、事情がある社員には朝礼参加を免除するなど柔軟な対応をしてくれる人もいた。現場の実権を握る所長の考え方次第で働きやすい現場になるのでは、と思う。「男女問わず子育てや介護など家庭で責任を持つ人も、ちょっとした配慮があれば活躍できるはず。朝も晩も休日も働ける人だけで現場を回すのはこれからますます難しくなるのに」。

 ワークライフバランスや男性の育児休業取得といった取り組みが進んでいる他の産業の話題を見聞きするたびに、建設業界の硬直ぶりがもどかしくなる。

 ここ数年で社内の女性技術者は急増。彼女たちが生き生きと働いている姿を見ると、自分も悩んでばかりいられないと思う。

 10年後になりたい姿を聞かれると、「橋梁の現場に立ち、完成を見届けたい」ときっぱり。

 現在担当している業務も将来の仕事につながるはずだと信じ、技術を磨きながらチャンスを待つしかない。今は諦めと希望が半々の心境だ。

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