建設現場での女性の活躍に向けた取り組みが活発化する中、東急建設が山岳トンネル工事の 現場に初めて女性技術者を登用した。同社が重要な経営戦略の一つと位置付けるダイバーシティー(人材の多様性)の一環。土木工事の中でも環境が厳しい山岳トンネル工事の現場での女性技術者の活躍ぶりを取材した。
山形県南陽市で同社が施工中の「東北中央自動車道たかつむじやまトンネル工事」(発注=東日本高速道路東北支社、工期=2015年7月1日~17年12月16日)。南陽高畠インターチェンジ(IC)~上山IC間の延長2・4キロの土木工事で、区間内に長さ約1・1キロのトンネルを掘削している。
この現場で技術者として働くのが、東日本支店土木部たかつむじやま作業所の原沢蓉子さん。入社2年目の若手で、昨年4月に配属された。新潟県出身で、04年に起きた新潟県中越地震の経験から、「安全は普通にあるものではない」と感じて土木工学に興味を持ち、土木系の学部がある大学に進学。卒業後は大学院に進み、コンクリート工学を専攻したという。
「長く仕事を続けたいと考えていた。そのため、女性でも長く働ける環境や制度が充実している東急建設を志望した」と入社の動機を話す。
入社1年目は、土木技術設計部に配属され、発注者から受け取った図面や計算書に間違いがないかなどをチェックする仕事を担当。その後、2年目を迎えると同時に現在のトンネル工事現場に配属となった。
このトンネル工事は発破掘削方式のNATMで進められている。掘削した部分を吹き付けコンクリートで素早く固め、ロックボルトを岩盤の奥深くに打ち込み、地山と密着させていく。その後、覆工コンクリートを打設するという手順で一連の作業が進む。
その覆工コンクリートの管理を行うのが原沢さんの仕事だ。覆工コンクリートの打設は週に3回実施。その管理に加え、翌日に使用する移動式型枠の移動と位置出し、さらに生コン車の手配など、作業員が効率よく仕事ができるようにするのが大きな役割だ。
現場で作業を陣頭指揮する小林敬一東日本支店土木部たかつむじやま作業所長は「ここ南陽市は、冬場は雪が深く、気温も氷点下になる一方、真夏には気温が40度近くに達することもあり、過酷な現場だ」と話す。
原沢さんは「女性の技術者として初めてトンネル工事の現場に配属され、最初は受け入れられないんじゃないかという不安が大きかった」と振り返る。だが、実際に働いてみると、「現場の人たちとの会話を通じてお互いのことが分かり合え、不安は消えた。
やりがいの方が大きくなった」という。「多くの人が協力し合うことで大きなものが造れる。今は覆工コンクリートの打設が進み、日々、作業が進んでいくことを実感できる。毎日が楽しい」とも。
東急建設はダイバーシティーを経営戦略の一つに掲げ、多様な人材が活躍できる組織を目指した取り組みを推進してきた。その一つが女性の登用だ。女性活躍推進法に基づく行動計画として、20年度までに女性総合職の採用比率を現在の10・6%から倍の21・2%に引き上げる目標を設定。女性管理職候補を倍増させる目標も掲げる。
現場で活躍する女性技術者が増えつつある中、15年10月には、同社が施工を担当している東京・渋谷駅の南側に超高層ビルなど複数棟を建設する「渋谷駅南街区プロジェクト」の敷地内に、女性が安心して利用できる休憩所を開設した。
これらの取り組みに加え、同社土木本部ではさらに女性活躍の推進活動を活発化させるため、「TWC(Tokyu Women Civil engineer)」と呼ぶ女性土木技術者で構成する会を設け、社内での勉強会や意見交換会、現場見学会などを行ってきた。
TWC活動はこれまで、女性土木技術者の配属先が主に都市部の現場や本支店の内勤だったことから、都市部の現場や本社だけで勉強会や意見交換会、現場見学会などを開いてきたが、今月、原沢さんが活躍する今回のトンネル工事現場でTWCを実施した。
原沢さんは「先輩社員から、今の現場は女性用トイレなどもあって環境面で恵まれていると言われ、女性活躍の場が広がりつつあると感じる。働きやすい現場を作ってくれていることに感謝している」という。今はトンネル工事現場で女性はまだまだ少数派だが、「数が増えれば、さらに環境はよくなっていくと信じている」と期待を込める。