2017年1月12日木曜日

【『ブルーズ・マガジン』発行人に聞く】建設業の未来に懸ける思いは?

実験的精神にあふれたブルーズ・マガジンの誌面。
㊤は石丸氏による巻頭言(第7号)、㊦はシリーズ土木の神々・暁工業編(第6号)
(写真はいずれも感伝社提供)
 ◇もっと自由な発想を◇

 深刻化する担い手不足、公共工事に付いて回る否定的なイメージ…。建設業界にはなかなか克服の糸口を見いだせずにいる問題が山積している。「コンプライアンス(法令順守)に縛られてばかりでなく、もっと自由に発想したらどうか」。そんな挑発的な声を、現場の底辺から上げる者が現れた。土木工事会社の柳工業(東京都狛江市)を経営する傍ら、建設業に関するカルチャー雑誌「BLUE’S MAGAZINE(ブルーズ・マガジン)」(発行・感伝社)を立ち上げた柳知進氏。現場たたき上げの若き経営者が「建設業の未来」に懸ける熱い思いを聞いた。

柳知進氏
取材当日、待ち合わせ場所に姿を見せたのは、ニット帽にしゃれたメガネを合わせた柳氏。スーツでも作業服でもない経営者らしからぬいでたちに意表を突かれた。

 「土建屋の社長っぽくないでしょ」と笑う。これまではニッカボッカなど職人らしいファッションを好んできたが、ブルーズ・マガジンを手掛ける中で新たな感触を得たという。

 「建設業を一般の人に理解してもらうには、僕らの方から寄っていく必要もあると分かった。受け入れてもらうために、こういうファッションも楽しんでみる。意固地にならなくても、変えていく方法はたくさんある」。

 この2年弱で第7号まで発刊したブルーズ・マガジンは、メディアなどで取り上げられることが少なかった現場の職人に光を当て、建設業界の知られざる魅力を伝えることに一役買ってきた。サブカルチャーの世界を主戦場にベストセラーを生んできた作家の石丸元章氏を主筆に迎え、若い世代を中心に読者を広げている。

 何百万人もの就業者を抱える業界なのに、一般の人が知らないことがあまりにも多過ぎる。柳氏は、日頃感じていたもどかしさを雑誌にぶつけた。リアリティーを追求し、批判を覚悟で生々しい現場の実態にも切り込んだが、発行を重ねるうちに気付いた。

 「ダメだと思い込んでいたことが、意外とダメじゃない」。

 転機となった出来事がある。

 東京都内のビル解体現場。防音パネルに囲われ、内部の様子が全くうかがい知れない世界。石丸氏にとっては念願の取材だった。体感したことを無我夢中で言葉にした。

 ただ、現場責任者の原稿チェックで無数の赤字が入った。「ブレーカーでコンクリートの壁が四方に飛び散る」と書いたら、「飛散しないように工夫している」と注文が付く。「戦争映画のような爆音がとどろく」と表現したら、「戦場ではない。安全第一だ」と指摘された。

石丸元章氏
「文章を訂正する中で、現場の人たちが一番大切にしているものを教えてもらった」と石丸氏。表現だけを変えていき、臨場感を残すことに心血を注いだ。諦めずに取り組めば、表現の仕方はいくらでもあると確信するに至った経験だった。

 柳氏は「思った以上にコンプライアンスは固いものじゃない」と話す。逆に、批判を恐れて情報をブラックボックスに閉じ込めてしまえば、いつまでたっても社会の理解は得られない。デリケートな問題についての伝え方に憶病になっている業界に対し、「塗り固められた厚化粧はやめたほうがいい」とあえて苦言を呈する。

 ◇東京五輪には無限の可能性◇ 

 2020年の東京五輪は、対外的な業界のイメージを良い意味で破壊する絶好のチャンスだとみている。石丸氏は提案する。「スタジアムの建設に、誰が、どのような気持ちで関わっているのか。そこで生まれる物語に目を向ければ、より多くの人たちが土木・建築に興味を抱く」。新たな試みの場として、東京五輪には無限の可能性があると訴える。

 そうした試みを業界全体に広げるため、柳氏は「東京五輪をきっかけに、ゼネコン業界とタッグを組みたい」と呼び掛ける。

 青年期から影響を受けてきたパンクロック精神で挑戦を続けるつもりだ。パンクロックの始祖とされるジョン・ライドン(英国のパンクロックグループ、セックス・ピストルズのボーカル)から受け取ったというメッセージに思いを込める。

 「自由になるには、心の解放一つだよ。どこに行ったって、俺は笑えるんだぜ」。

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