◇計画の具体化・実行、今後2~3年が正念場◇
国内総生産(GDP)600兆円の実現を目指す政府は、成長の余地があるスポーツ産業に焦点を当て、さまざまな方策を実行に移そうとしている。スタジアムやアリーナを多機能・複合化し“稼げる”施設にする取り組みには、産業育成に加え、地域の発展や活性化につなげる狙いがある。スポーツビジネスに詳しく、整備計画のスキームづくりに金融面から携わってきた三菱UFJリサーチ&コンサルティングの大野知也氏は、国の動きが出始めている現在を「新しい施設づくりにとって絶好の機会」と捉える。
--“稼げる”スポーツ施設整備を後押しする政府の取り組みをどう見る。
「海外では一般的なスタジアムやアリーナの多機能・複合化も、国内では法制度や規制、資金の問題などから、これまで計画が具体化しにくかった。ただ昨年から経済産業省やスポーツ庁が先導役となり、整備を目指す動きが顕在化してきた。スポーツ庁が昨年11月に公表した『スタジアム・アリーナ改革指針』は、施設の整備・運営主体である自治体のマインドを、初期投資を抑えながら運営で利益を得る方向に変えるためのものだと理解している」
「最初から完璧な施設を造ろうとすれば仕様や設備が過剰になりがちで、結果的にイニシャルコストが高止まりしてしまう。公共施設である以上、市民利用を優先し、利用料金を抑える必要もある。こうしたさまざまな課題が積み重なり、スタジアムやアリーナは事業収支を黒字化することが難しかったといえる」
民間主導で建設した吹田市立サッカースタジアム(大阪府吹田市)。 スタジアム整備の成功例として手法を参考にする自治体は多い |
「イニシャルコストを引き下げ、ランニングで利益を上げる。利用率を高めるという視点を持ち、スポーツはもちろん、地域イベントやコンサート、展示会などを開催する前提で計画を立案する。施設の立地条件、スタジアムで3ヘクタール、アリーナで1・5ヘクタールといわれる用地の確保、イベント需要などはもちろん大切な要素だ。サッカーなどの球技専用施設の場合、芝を養生する時間が必要になるので、現時点ではアリーナの方が多機能・複合化しやすいだろう」
「国内では整備主体がほぼ自治体であり、プロジェクトを実現する上では限られた財源をなぜスタジアム、アリーナの整備に投入するのか明確な理由付けが欠かせない。まちづくりへの貢献や防災対応など副次的な効果をしっかり説明し、理解を得る必要もある」
「経済産業省は昨年、スタジアム・アリーナを核としたまちづくり計画策定事業の委託先として、5件を選定した。当社もその一つに関わっているが、各地域がどう具体的な成果を出していくのか。国が主導しスタジアム・アリーナ整備で新たな胎動が見え始めている現在は、大きなチャンスだと思っている」
--スタジアムやアリーナの整備・運営に民間のノウハウや資金を活用するにはどうしたらいいのか。
「スポーツビジネスの中でも施設の整備・運営事業は比較的有望な分野だと思う。民間主導で実現した吹田スタジアム(大阪府吹田市)、行政が主導した北九州スタジアム(北九州市小倉北区)は象徴的なプロジェクトだ。一方、計画づくりが難航している広島のケースは、初期段階での意見のすり合わせが不十分でボタンの掛け違いがあったと見ている。コンサルタントの立場から言うと、寄付金を集めて整備し、完成した施設を行政に寄付するスキームの実現性が最も高いだろう。将来的には民間がSPC(特定目的会社)を設立し、資金を調達して整備運営する民設民営もあり得る。既存施設をスマート化するプロジェクトにも注目している」
「プロジェクトへの民間参入を後押しする上では(固定資産税などの)税制優遇、土地賃料の低価格設定など横方向の行政支援が必ず必要になる。スポーツ庁が予算案に新事業の経費を計上するなど、具体的な動きが出ている17年度は、新たなスキームが定着するかどうか正念場を迎えるだろう。人口30万~50万人の中規模都市で成功例が出始めれば、流れは大きく変わるはずだ」
2月にこけら落としを迎える北九州スタジアム。 PFI方式を採用し整備した(提供:北九州市) |
「欧米のプロスポーツでは入場料収入がクラブ収益の大きな柱になっている。国内では試合数が少ないサッカーの場合、一部のクラブを除き現在の施設規模で経営体力を高めることは難しい。クラブの事業規模が底上げされなければ強化費を増やすことも困難だろう。新しいスタジアムやアリーナを整備したいという意識はあるだろうが、その具体的な方法が見つからない、というのが現状ではないか」
「コンサルタントフィーをどこで稼ぐのかは課題だが、当社としてはクラブと行政の両方にアプローチを強めて、新しいビジネスの芽を育てたいと思っている。2020年東京五輪をはじめ、大規模なスポーツイベントを控えたこれから2~3年の間にプロジェクトを形づくらなければ、今の勢いがしぼんでしまう可能性もある」。
(コンサルティング・国際事業本部東京本部革新支援室チーフコンサルタント、おおの・ともや)
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