2016年7月19日火曜日

【自ら乗り出す姿勢を】早大・間野義之教授に聞く「〝稼げるスポーツ施設〟の実現策は」

 ◇首長の理解で状況変わる◇

 スポーツ庁と経済産業省が設置した「スポーツ未来開拓会議」が、スポーツ市場の拡大に向けた方策を検討している。その中でキーワードになっているのが「稼げる施設」。同会議の座長として中心的な役割を果たしている早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授は「施設の整備・運営に対する首長の理解が深まれば、状況は大きく変わる」と指摘。スポーツビジネスに関わる民間企業の育成との連動で、欧米並みの環境は生まれると強調する。

 --スポーツ施設の整備・運営に関連する国内の状況をどう見る。

 「スポーツ政策の中で施設の建設・維持管理が占める割合は圧倒的に大きい。ここを効率化しなければ国内のスポーツを取り巻く環境は良くならない、という問題意識を以前から持っていた」

 「昨年10月にスポーツ庁が設置され、文部科学省だけでなく他省庁や企業からも人材が加わった。組織として何か特徴を出そうとした時に、スポーツに焦点を当てて産業育成に本気で取り組む考えが生まれ、以前から施設を切り口にスポーツビジネスの研究を行ってきた私に、検討組織の座長に就いてほしいとの提案があった」

 --スタジアム・アリーナが抱える課題は。

 「2008年に欧州5カ国を回り、14施設の調査を行った。その時に感じたのは、多くの施設が公設民営で多機能という特徴を持っていたことだ。世界最先端のスタジアム・アリーナはICT(情報通信技術)を駆使し、観客が快適な空間を楽しめる施設になっている。一方、日本では、ビジネスプランからのアプローチでスタジアムやアリーナが造られ運営されているケースはほぼない。プロ野球やサッカーJリーグのチームが拠点にしている多機能・複合化していない施設は、競技観戦にはいいかもしれないが、ビジネスの拠点としては不十分だと言わざるを得ない」

 --稼げる施設を実現する上での課題は。

 「スポーツ施設の整備・運営で一般的に言われるのは、『都市公園法に問題があり、規制が厳しく稼ぐ事業ができない』という点だが、決してそうではない。国土交通省の担当部署も前向きな見解を示している。問題の多くは自治体の自己規制に起因している。ここが変わらなければ、いくら立派な施設を造っても魂が入らないものになってしまう。昨年5月に日本バスケットボール協会の理事に就き、新しいプロバスケットボールリーグの立ち上げを間近で見てきた。Bリーグのチーム、関係する自治体は『見る・稼げるアリーナ』という視点を持ち始めており、施設づくりの認識も徐々に変わりつつある」

 「稼げる施設の具体例を挙げると、国内では東京ドームシティだろう。野球の試合がない日でも多くの人が訪れ、敷地のわずかな隙間でもビジネスに活用しようと貪欲に考えている。運営会社は850億円以上の売上高があり、営業利益も127億円を確保している。確かに恵まれた立地で人気球団の本拠地と条件はそろっているが、スポーツビジネスを展開する上で、学ぶべき点は多いはずだ。海外に目を移せば、欧米にはAEGに代表されるスタジアム・アリーナ運営会社が存在し、規模の大きな事業を展開している」

 --改革への一歩を踏み出す方策は。

 「指定管理者制度を導入するケースも増えているが、それは行政機関の業務代行に近い。PFIも独立採算型はなく、参画する運営事業者もリスクを負わず、繰り延べ払いで行政からコストを受け取りながら、事業を行っているケースがほとんどなのではないか。稼げる施設を実現するには、硬直化した自治体の意識・制度、リスクを負わない民間事業者の姿勢を変えていく必要がある。もちろん可能性を感じるチームは野球やサッカーに存在し、場所借りにとどまらず、自らビジネスに乗り出す姿勢を打ち出している」

 「自治体側の課題は、知事や市町村長の意識によって大きく変わっていくと思っている。立地条件はもちろん重要だが、スポーツビジネス、稼げる施設に対する首長の理解があれば、追い風は吹く。そのためにもスタジアムの整備や改修を検討している自治体への支援策が必要だ。新国立競技場を例に挙げると、私は五輪開催後にコンセッション型のPFIで改修し、ビジネスを展開できると思っている。これからの数年間でスタジアム運営の民間事業を育てながら、場合によっては外資を呼び込むことも考えてもよいのではないか」。

 (早稲田大学スポーツ科学学術院、まの・よしゆき)

稼げる施設をどう実現するのか。官民双方に知恵と工夫が求められている。
(左上から時計回りに北九州スタジアム、新国立競技場建設地、武蔵野の森総合スポーツ施設
花園ラグビー場、釜石鵜住宅復興スタジアム、吹田スタジアム。パースは完成イメージ)
□スポーツを基幹産業に/市場規模15・2兆円目標□

 政府はスポーツを基幹産業の一つに成長させる取り組みを加速している。スポーツ庁と経済産業省が設置した産学官連携の「スポーツ未来開拓会議」は6月、スポーツ産業ビジョンの策定に向けた中間報告を公表した。現在5・5兆円といわれるスポーツ産業の市場規模を2025年までに15・2兆円へと拡大する目標を提示。対応が不可欠な課題として、▽スタジアム・アリーナ改革▽コンテンツホルダーの経営力強化▽スポーツ分野の産業競争力強化-の3点を挙げた。

 このうちスタジアム・アリーナ改革では、地方自治体が所有・運営する大規模集客型の公共スポーツ施設を官民連携で「稼げる施設」に変革する必要があると明記。

 スポーツ施設を街づくりの拠点に位置付け、競技者への配慮と同様に観客の利便性も重視する欧米の事例を参考に具体策の検討に入るとした。

 政府は近く建設会社や設計事務所も参加する「スタジアム・アリーナ推進官民連携協議会」を立ち上げ、新築・改築設計に焦点を当てた施設整備指針の検討を開始。17年度予算の概算要求にも関連施策を盛り込む方針を明らかにしている。

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