同じ情報も伝え方一つで与える印象は変わってくる |
産官学を問わず、今やさまざまな組織に設置されている広報関係の部署。担当者は、自分たちが持つ情報のどこに価値があり、世間の関心が向くのかを考え、発信した情報に対して疑問や質問が寄せられれば、それに答える。この繰り返しが日々の広報活動の形の一つと言えるが、常に前向きに役割を全うするのは難しい。
「若手のころ、『外部への対応には慎重になるように』と上司からよく言われていた」。土木系の技術職員としてある公共発注機関に勤める林治虫さん(仮名)は、自身の広報にまつわる経験をそう振り返る。
若い職員は、真面目なほど「住民やマスコミ関係者の質問に丁寧に答えなければ」との思いが強い。このため、知っていることをできるだけ詳しく話そうとし、その結果、不正確な情報を伝えてしまうことがある。林さんが駆け出しの頃は、特に公共事業が悪者として扱われる風潮が強かったこともあり、マスコミ対応には今以上に神経質になる雰囲気があった。こうした世代には、広報活動にネガティブな意識を持っている人も少なくない。
その1人であった林さんも、2年前から組織の広報を統括する部署に。建設業界の魅力アップのため、広報活動の重要性が以前より高まっていることは十分承知していたが、具体的にどんな新しいことができるのか、すぐに答えを出せなかった。考えた末、他の幹部の提案も参考に昨年実行したのが、インフラの整備効果を要約して発表する技術職員向けの研修に、外部の記者にも参加してもらうことだった。
「どんな若手も、経験を積み、技術を磨けば、いずれ責任者として情報発信の先頭に立つことになる。その立場になってから役割を果たせといっても難しい」
自身の経験を基に、同じ組織の同僚では気付きにくい視点や、誰が相手でも分かりやすく情報を伝える意識などを早くから養ってもらおうと、研修では各職員の発表後、記者から率直な意見や批評をその場で述べてもらった。初めての試みだったが、「短期間の研修に緊張感が生まれ、学習の密度が濃くなった」と手応えを感じた。
建設業界では担い手確保が喫緊の課題とされていることもあり、現役の若手にスポットを当てた取材の要望を受けることも増えてきている。
「若手がメディアで紹介されることには大きなメリットがある」。就職を控えた学生から、自分たちの職場に親近感を抱いてもらうきっかけになることに加え、取材を受けた本人の責任感も強まるため、「取材後はより高い意欲を持って業務に当たるようになる」と捉えている。担い手不足という危機を前に、つかめるチャンスもあると発想が転換された経験の一つだ。
情報の伝え方で反省は尽きない。発信する内容も前向きなものばかりとは限らない。それでも、組織の「顔」をつくる広報活動には、道路や橋を建設するのとは異なる新たなやりがいと面白さを感じている。
技術者としての集大成を迎えるのはまだ先だが、「今の仕事は振り返ってみて、また携わってみたいと思えるものになる」と確信している。
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