◇商社を利用する土壌つくりたい◇
官と民の人事交流の輪を広げることは、民間企業と国との相互発展を図るきっかけになると期待されている。
佐藤浩介さん(仮名)も官民交流人事の一環で、昨年9月から2年間の期限付きで霞が関の中央官庁に出向している。商社に入社して18年になる。出向先では、商社では接する機会のなかった社会資本整備や建設産業に関連する仕事にも関わる。
公務員をしていた父の姿を見て育った。父への反発心もあってか、自身は商社マンの道を選び、役所で公共の仕事を手掛ける自分の姿など想像することもなかったという。それでも「知らない世界を見てみたい」という好奇心は強かった。学生時代にラグビー部で鍛えた突破力もある。上司から出向の打診を受けた時は、「ためらうことなく『行きます』と即答した」と振り返る。
出向から間もなく1年。戸惑いもあるが、むしろそれ以上に、役所と民間の文化の違いを発見する驚きの連続で、毎日が楽しくてしょうがない。
地方の出先機関も含め全国に何万人もの職員を抱える巨大組織の中で1年を過ごして分かったのは、「組織体制がしっかりしていて、トップから係員までロール(役割)が明確になっていること」。役所、特に中央官庁の組織は、とかく「縦割り」などと批判されることが多いが、「これだけの巨大組織の中でロールがはっきりしないままでは、それこそ無駄なのではないか」と思う。
そして何よりも感心するのが、高い文章作成能力という霞が関の文化。手短に、しかも伝わる文章を作成できるスキルは、「頭の中が整理されているからこそ持ち得るものではないか」。
もちろん、役所という組織の弱みを感じることも少なくない。役所の活動の原資は税金。その性格上、行政で最も重視されるのは「公平」「公正」だ。民間から出向している目には、そのことがかえって良い施策を打とうとする上での弊害となっているのではないかと映ることがある。
例えば、施策上必要な業務を民間企業に発注する場合。企画競争でなければ、発注先を決める基準はコストとなる。しかし、当然ながら最も安い価格を提示した企業が最良の仕事をするという保証はない。かえって業務の品質が低下し、行政側の負担増を招きかねないケースをわずか1年の間にも目の当たりにしてきた。そこを何とか改善したいという思いが強い。
2年の出向期間中、自身にミッションとして課していることが一つある。今いる部署に、商社をうまく活用する土壌を根付かせることだ。公平・公正なプロセスを踏みつつ、商社マンとして培った人脈をフル活用し、行政とコラボレーションする機会を増やす。それができれば、行政の施策をより良い方向に導く選択肢が増えると考えている。そのための「先鞭(せんべん)を付けたい」。
出向期間は残り1年。役所生活の中で培ったノウハウや知識、業務の進め方などを、商社に帰ってからの仕事にも生かせるようにしたいと考えている。
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