2016年4月25日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・134

建設現場で増える外国人。受け入れ側の準備や覚悟も必要に
 ◇日本人も外国人も関係ない◇

 外国人技能実習生にも「サムライ」の魂を感じた-。

 30代後半という若さで水道工事会社の社長を務める中村伸一さん(仮名)。都心部での工事が中心で仕事の量も多く、その分、つらいことや大変なことも多い。ご多分に漏れず、若手技能者の入職減少や早期離職が悩みの種だ。

 建設業界で人手不足の問題が顕在化してからはや数年が過ぎる。水道工事業界も例外ではなく、技能者を集めるのに苦労が絶えない。「一日二日働いただけでは職人の仕事は覚えられない。最低でも3年間はみっちり下働きをすることが必要で、その後も自分で技術を磨いていく必要がある。だからこそやりがいがあると思うが、若者には受け入れ難いのかもしれない」。

 中村さんの会社が外国人技能実習制度を活用して東南アジアから一人の若者を受け入れたのは1年前。「言葉が通じなければ、完全な意思疎通はできない。育ってきた環境も違う。日本人が美徳とする『職人気質』を理解できるとは思えない」と最初は受け入れに否定的だった。何より「日本人の若い技能者を育てて後世に残したい」という思いが強かった。しかし、仕事の量は増す一方。背に腹は代えられず、受け入れを決めた。

 不安を抱えたまま迎えた仕事初日。それまでの考え方をすぐに覆されることになった。「分からないことを、覚えたての日本語で何でも聞いてくる。できないことがあれば何度でも挑戦する。現場の誰よりも熱心だった」。故郷から遠く離れた外国の地で頑張る姿に「かつての侍もこんな風だったのでは」と感じた。

 数カ月がたったある日、浮かない表情をした彼に話し掛けるとホームシックになっていた。「地方から出てきた日本の若者と何も変わらないじゃないか」。そう思った中村さんは、周囲の仕事仲間も含めて彼を頻繁に食事に誘うようになった。日本人と同じように接するようになってから「家族が増えたような感じがする」と話す。

 外国から来る実習生の中には、途中で仕事を投げ出して行方が分からなくなる人もいる。しかし中村さんは「きっと、最初から逃げようと思っている人はほとんどいない」と見る。「周囲が気遣ってやり、コミュニケーションを積極的に取ることで良好な関係を築ける。そうすれば、仕事にも自然と熱が入るはずだ」。

 建設現場の外国人技能者は増えている。不足する人手を補うのに技能実習制度が役立っていることも認めるが、「日本人の若者の入職を増やす努力も怠ってはいけない」というのが中村さんの考え方だ。「『時代は変わった』とか『今の若者に泥臭い仕事は合わない』とかは言い訳。本物の職人を育てるためにどうすればいいか、もっと本気で考えるべきだ」。自分に言い聞かせるようにそう話す。

 「日本人も外国人も関係なく、現場で責任ある立場の人間が本気で相手に呼び掛ければ必ず反応が返ってくる。その繰り返しを大事にすることで、若者も仕事を続けようと思うし、関係も深くなっていく」。

 「給料を上げてやるのには限界があるが、うまい酒や食事ならいくらでも付き合ってやれるよ」と笑う。国内外問わず若者と向き合うことで「家族」を増やしていくのが今の夢だ。

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