仕事柄、文章講座に類する本をよく読むが、有名作家の名文を並べるばかりでさっぱり実用の役には立たないものが多い。そんな中、数少ない例外の一つが『理科系の作文技術』(木下是雄著、中公新書)▼この本が先日、1981年の初版から80回増刷を重ね、発行部数が100万部を突破したと報じられた。歴史ある中公新書の中でもミリオンセラーはわずか2冊目らしい▼1940年、英首相に就いたチャーチルは政府の各部局長に、報告は歯切れのいいパラグラフにまとめて書け、思い切ってパッと意味の通じる言い方を使えと指示したという。同書はそんなエピソードの紹介から始まる▼科学論文など理科系の仕事文書の書き方を指南した内容だが、不特定多数に読んでもらう実用文という点で新聞の文章にも誠によくマッチする。一つの文は短く、事実と意見を峻別(しゅんべつ)、必要なことは漏れなく記述、不要なことは一つも書くな…と読み返すたびにいちいち痛い所を突かれる▼座右に置けば文章力はめきめきアップ、と言いたいところだが、そう簡単にはいかない。だからこそ、文章講座本が売れるのだろう。
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