面会した相手の名前を思い出せない時、田中角栄は握手をしながら「君の名前何だっけ」と聞く。相手が名字を答えると、「名字は分かっているよ、下の名前のことだよ」と言っていたそうだ▼真偽のほどは分からぬが、細かな気配りで瞬時に相手の心をつかんだとされるこの人らしい逸話である。最近、田中角栄がブームになっているらしい。新聞や雑誌が特集を組み、関連本が書店の平積みに並ぶ▼平成も30年近くがたつ今、没してはや23年になる昭和の今太閤がブームとは。「庶民宰相」としての国民的人気の根強さもさることながら、やはり社会情勢がその背景にはあるのだろう▼〈いまの日本に欠けている「心」、あるいは「情」のようなもの、どうやら国民はそれを求めているらしい〉。かつて朝日新聞政治部で角栄の番記者を務めた早野透さんが、先日の「週刊朝日」で昨今の角栄ブームをそう読み解いていた▼もちろん、それぞれ評価は分かれようが、今の安倍政治と角栄流気配り政治とでは、方向性が随分異なることだけは確かだろう。潮目が変わりつつあるのか。行方の気になるブームではある。
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