富山県の東部を流れる1級河川・黒部川の電源開発によって開かれた立山黒部アルペンルートや黒部渓谷の散策ルート。
電源開発の資材や作業員の輸送に活躍したインフラを利用すると、雄大な自然美に触れ、数々の景勝地も目にしながら、日本有数の秘境で進められたダムや水力発電所などの建設工事の足跡をたどることができる。
9月上旬に東京土木施工管理技士会が設立20周年記念で催した見学会に本紙記者が同行。往年の建設工事従事者が歩いた工事ルートをたどった。
◇先人の偉業たどる◇
黒部の電源開発は、急峻(きゅうしゅん)な黒部川が水力発電に最適と目を付けた高峰譲吉博士による1917(大正6)年の現地調査に端を発する。昭和以降、世紀の大工事として建設が敢行された黒部ダム・黒部川第四発電所などが順次完成、平成に入ってからも新黒部川第三発電所の出力アップをはじめ開発は続いており、人を寄せ付けない厳冬期も維持管理が行われている。
アルペンルートでは、富山県と長野県のほぼ県境に位置する黒部ダムを利用して黒部湖を渡り、富山~長野を行き来できる。技士会一行は、長野側の入り口、JR信濃大町駅(長野県大町市)から出発。後立山連峰・赤沢岳の直下を貫く関電トンネルの長野県側出発点・扇沢駅まで路線バスで移動した。
関電トンネルは、黒部ダム・発電所の建設に使う資材の運搬用トンネルとして整備された。幾度となく出現する破砕帯に行く手を阻まれたものの、英知と苦闘で掘削を成し遂げた。今はトロリーバスによって扇沢駅と黒部ダム駅の間(6・1キロ)を約16分で結ぶ。信濃大町駅から黒部ダム駅までは約1時間の行程だ。
同駅から、220段の階段を上って展望台に出ると、毎秒10立方メートル以上の観光放水(16年は10月15日まで)が見られる。当日は小雨模様にもかかわらず、堤体間近の展望台は、放水を黙々と眺める人や、感嘆の声を上げる人でにぎわっていた。ダムは3000メートル級の山々に囲まれ、雄大な景色を一望できる。9月中旬には紅葉シーズンに入る年もあり、緑から赤や黄に次第に色を変える山肌の「三段紅葉」を目当てにダムを訪れる人が多い。
ここのお土産として定着しているのは、トロリーバス乗車券(立山黒部アルペンルート乗車券でも可)を提示するともらえるダムカード。竣工記念日の6月5日(53周年)から新しいカード(Ver.3・0)が配布されている。インターネット交流サイトでは黒部ダムを「アーチ式国内最強」に推す声もあり、新バージョンのカードを目的に訪れる人も増えそうだ。
アルペンルートのオフィシャルサイトによると、黒部ダムの堤頂を約15分(600メートル)かけて歩いて渡り、黒部ケーブルカー、立山ロープウエー、立山トンネルトロリーバスと乗り継いで室堂から立山高原バスで美女平駅に向かい、立山ケーブルカーで立山駅に降りるルートがモデルコースとして紹介されている。室堂からのバスは、4月には除雪した道路の両側に「天空の白壁」として高さ20メートル以上の雪の壁が出現する「雪の大谷」を通ることでも知られる。
◇アルペンルートたどり展望ツアーも◇
宇奈月駅は電源開発の歴史が随所で紹介されている |
トロッコ列車は、電源開発の際に、資材や作業員の輸送手段として軌道が延長され、1937年に現在の終点・欅平までが電力会社の専用鉄道として開通。深いV字谷に沿って山の奥へ奥へと秘境ムードを高めながら進むこの列車の乗車希望は絶えず、当時は乗車の条件が命の保証をしないことだった。
展望ツアーは関係者限定のルートを通る |
戦前から使用されている機関車にけん引され、黒部川第三発電所の仙人ダムの建設のために造られた竪坑エレベーターに乗車。崖に沿って歩く15分ほどの軽い登山をこなすと、後立山連峰を見渡せるパノラマ展望台に行き着く。ツアーは、北陸新幹線の開業を機に、富山県、黒部市、関西電力、黒部峡谷鉄道、黒部・宇奈月温泉観光局が協力して2年前に商品化。これまでに2万2000人が参加したという。
このエリアの電源開発は、高熱地帯や雪崩に遭遇しながら難工事に挑んだ人々を描いた吉村昭氏の小説『高熱隧道』の舞台として知られる。ルート上には当時の模様を説明する展示も多い。欅平からは関西電力のガイドが同行する。
展望ツアーの軽い登山は「ちょっとしたスリルが感じられます」とガイドの杉本さん |
ツアーの参加申し込みを受け付ける宇奈月駅2階の専用カウンターフロアや、欅平駅には、黒部一帯の電源開発の歴史や、難工事の記録がふんだんに紹介されており、見学会の参加者はメモや写真を取りながら行程を歩んだ。
アルペンルートを経て宇奈月温泉に宿泊し、黒部渓谷の散策や展望ツアーに参加。さらに宿泊して名峰の登山に挑む。こうした行程を1人で楽しむ女性も少なくないという。現地は今、紅葉の盛りを迎えている。
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