2016年10月24日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・149

一般公開を始めた国管理施設は多くの観光客でにぎわっている
◇好きな仕事ができる喜びかみしめて◇

 政府が取り組む成長戦略の看板政策の一つ「観光立国」。東京五輪が開かれる2020年までに訪日外国人旅行客(インバウンド)を現在の倍となる年間4000万人に増やす目標が掲げられ、交通インフラの機能強化や多言語対応サービスの充実といったハード、ソフト両面の政策が活発化している。

 東京・霞が関の中央官庁で働く三浦豊さん(仮名)も今、観光政策に関連する戦略作りやさまざまな施策の企画・立案を担当。それまでの約15年の公務員生活では経験したことのない強力な追い風を受けながら充実した日々を過ごしている。

 公務員になった当初は、大学で専攻した都市計画の知識を生かし、都市の将来像を描くような仕事を担当するのが目標だった。きっとそうなれるとも思っていた。だが、現実は違った。

 任された仕事は、市街地再開発事業や土地区画整理事業などの制度設計が中心。理想とする都市づくりよりも、関係者間のスムーズな合意形成といった部分に知恵を絞ることがほとんどだった。「都市づくりで合意形成に配慮しなければならないのは当然だが、自分なりの理想ばかりを描いていた若いころは、そんな現実をなかなか受け入れられなかった」と振り返る。

 理想と現実のはざまで悩む日々がしばらく続いていた時に、観光政策担当への配置転換という転機が訪れた。大学で知識を学び、理想として描いた分野とは必ずしも同じではないが、新たな仕事はそれまでの葛藤を一掃してくれた。

 前向きな気持ちに転換できた最大の理由は、一番の趣味が海外旅行だったこと。上司から次々と求められる施策の企画・立案は、以前の仕事では強いストレスと感じていたが、海外の各地で外国人旅行客の立場で経験したことや感じたことを直接反映できるため、苦にならない。

 例えば、数年前にフランスを旅行した際に見学したベルサイユ宮殿にはさまざまな国から多くの観光客が訪れていた。本来なら国内外の要人だけが利用できる国の管理施設にも大きな観光需要があることを実感。日本でもこれをヒントに今年、外国の賓客を接遇する迎賓館(東京、京都)など多くの国管理施設の一般開放が始まった。観光客でにぎわうこうした施設を見て「自分の最も好きなことを仕事に直結できるのが、こんなに幸せなことだとは思わなかった」という。

 今、個人的な思いから可能性を模索している企画がある。観光政策と、政府が本格着手した「稼げる」スポーツ施設づくりを柱とするスタジアム・アリーナ改革とのコラボレーションだ。神奈川県出身で地元のプロ野球横浜DeNAベイスターズの大ファン。海外旅行先では、必ず現地のプロスポーツの試合を観戦する。そんな経験から温めている企画だ。

 ただ、気掛かりなのが次の配置換え。霞が関の官庁では、一つの職務に継続して就く期間は平均2~3年だ。「今」を大切に、自身の知恵と情熱を全力で注ぐ決意を固めている。

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