2016年10月11日火曜日

【著者に聞く】漫画家・羽賀翔一氏、ダム工事題材の『昼間のパパは光ってる』

 ◇現場舞台に技術者の思い描く/10月21日、徳間書店から発売◇

 漫画で教養が身に付くプレジデント社の新感覚ビジネス誌「PRESIDENT NEXT(プレジデントネクスト)」に2014年10月から16年5月まで連載された「ダムの日」の単行本が21日に発売される。ダムの建設現場で働く技術者を主人公にしたビジネスドラマで、技術者として、父親として成長していく姿をリアルに描いた。タイトルは「昼間のパパは光ってる」。連載した15話と描き下ろしの1話を加えた。作者の漫画家・羽賀翔一氏にダムをテーマにした思いなどを聞いた。
  
 --「ダム」を題材に連載を始めたきっかけは。

 「私のデビュー作『ケシゴムライフ』(徳間書店)を読んたプレジデントネクストの編集部の方から仕事をテーマに漫画を描いてほしいと依頼があったのが始まり。私はサラリーマン経験がなく、どんな漫画を描けばいいのかイメージが湧かなかったが、所属しているクリエーターエージェント会社『コルク』の佐渡島庸平社長から、『ダムをテーマにしたらどうか』と提案があった。ダムや土木に対する知識や好奇心はそれまでまったくなかったが、知らない世界を表現できるのは面白いと思って描き始めた」

 「漫画というのは、自分の中の記憶や経験を基に描くことが多いが、全く知らない世界を学びながら描くという経験はなかなかできない。ダムの建設現場でたくさんの人と話をし、いろんな仕事があることを知る中で、漫画で表現したいという思いが一層強くなった」

 --漫画を描く前の土木やダムのイメージは。

 「世間的にも良いイメージはないと感じていた。ただ、漫画を描く上でいろんな見方、いろんな方向から土木の世界を浮かび上がらせる作品にしたいという思いがあった。多角的な視点が混ざったストーリーにすることでより魅力的になり、読者が土木やダムに対して興味を持つのではないかと考え、反対派の意見もせりふに入れた」

 「その中で主人公に葛藤が生まれ、自分の仕事はどういう価値を持っているのか、ジレンマを抱えるが、それを乗り越えた時に一人前の技術者として、また社会人として成長していく姿を描いた。いろんな見方を入れたことで、ダムを造っている人がどういう気持ちになったか不安はあったが、ダム建設に従事した技術者から『自分の中にも主人公と同じ葛藤があった』『代弁してくれた』と聞かされた。自分が描いたストーリーは現場の人たちが感じているものとかけ離れてはいないとすごく励まされた」

 --取材を通して印象に残ったことは。

 「自然の中でたくさんの人が関わるダイナミックさと、繊細な感覚が求められることに興味を持った。現場は何よりも安全が大事で、安全を守る小さな取り組みの積み重ねによって、これだけ大きなものを造れるのだという発見に至った」

 --いろいろな人と関わったと思うが。

 「以前から漫画家は自分の部屋に閉じこもって描くものだという感覚があり、『ケシゴムライフ』を描いている時もそうだった。でも、多くの人と出会い、『この人はこんなところが格好いい』『こんなところがかわいい』と感じる中で、それを漫画にしたいという感覚に変わった。自分の想像力の中だけでなく、出会いの軌跡を取りこぼさないようにストーリーに落とし込むのが漫画なんだと。ただ、頭の中での理解と違い、実際に漫画の中に落とし込むのは難しい」

 --今回の作品でそれが実現できたか。

 「私が出会った人は漫画よりも魅力的だったなと感じる部分がある。今後、私が感じた魅力と同じくらいの魅力を持ったキャラクターを描けるようになった時こそが、今回得た学びを生かせた瞬間だと思う。今後も自分が経験したことや出会った人たち、見たものを生かせる漫画を描いていきたい。それが一番の恩返しになる」

 --読者に伝えたいことは。

 「どういう結末で物語を終わらせるかすごく悩んだ。これが正解なのかどうかは分からないが、バトンをつないでいくというシーンに思いを託した。土木の世界に終わりはなく、大きな時間の流れの中でこの仕事が存在し、自分たちの生活が支えられている。読者にも脈々と受け継がれていることを知ってもらいたい」。

 (はが・しょういち)茨城県出身。2010年、ノートに描いた「インチキ君」で第27回MANGA OPEN奨励賞受賞。「ポートレート」で第57回ちばてつや賞佳作。11年に「ケシゴムライフ」でデビュー。「週刊モーニング」で短期集中連載し、14年に単行本が発売された。

徳間書店、800円(税込み)。B6判、296ページ。全国有名書店で10月21日発売。アマゾン、楽天ブックスなどで予約受け付け中。

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