◇広島市福富町で空き家をゲストハウスに再生◇
少子高齢化、人口減少に伴う空き家の増加が社会問題となっている。特に中山間地域では若年層が流出し、コミュニティーや伝統文化の喪失などが危惧されている。
近畿大学工学部建築学科の谷川大輔講師の研究室は昨年、同じような課題を抱えている広島県東広島市の福富町で、空き家を再生するプロジェクトに着手した。中山間地域の空き家問題を解決する一つのモデルにしようと、築100年ほどになる民家を交流・宿泊できるゲストハウスにリノベーションする計画だ。
東京生まれ、東京育ちの谷川講師が近畿大学に着任したのは2012年。「東京と比べ不便かもしれないけれど、豊かな自然に囲まれ、季節ごとに新しい感動を体感している。近年は僕と同じように移住してくる人が結構いて、まちのさらなる活性化が期待されている」と福富町の魅力を説明する。
再生中の古民家は、谷川講師自ら購入。納屋を自宅に建て替え、母屋のリノベーション後に家族で移り住む予定という。
同プロジェクトは、建築・まちづくりの実践教育の一環。母屋は、時を経る中で現代住宅に改装されていたが、床下には昔のいろりや火鉢などが残されており、それらの再利用も検討している。
学生は母屋の床の解体、納屋の実測などを通し、日本の伝統的民家の様式や在来工法の知識を深めるとともに、建築の専門家としての振る舞い方、プレゼンテーション能力を習得する。
今年3月から11月にかけて中山間地域への共感と誘客促進を主題に持続可能な地域づくりを目指した「ひろしま さとやま未来博 2017」が開かれる。福富町エリアの中心施設として再生中の民家の活用が予定されている。
現在、谷川研究室では、同じ東広島市内の志和町で二宮神社の境内にある「志和見晴らし公園再整備事業」も進行中。古い倉庫を休憩スペースに改修するほか、休憩所となるパーゴラ(日陰棚)の設置を提案している。
◇建築・まちづくりを実践指導◇
「建築は思想であり、より良い社会の構築に貢献する使命を担っている。しかし、最近、建築家という言葉がファッションみたいになり、本当に社会に役立っているのか疑問に思う。格好良さや奇抜さも表現形式の一つだが、そのデザインに社会性がなければ、建築としての存在価値は認められない」と谷川講師は指摘する。
「大学が建築家教育を目指すのであれば、学生時代から社会との接点が必要だ。学生自身がそうした場をつくるのは難しいので、指導者としてワークショップなど社会的な活動に身を投じる機会を創出している。卒業生には、市民と一緒に建築の設計やまちづくりに関われるような人間になってほしいし、自分もさらに上のレベルで社会に役立ちたいと考えている」。
谷川講師は、東広島市の地方創生審議委員会、大規模小売店立地審議委員会、建築審査会の委員を務め、昨年11月には空き家対策審議会の委員にも任命された。
東広島市に転居して5年。「まだまちづくりについては、研究というより移住者としての個人的な関わりの方が強く、気持ちで走っている」と話すが、着実に地域にとけ込み活動の幅を広げているようだ。
(たにかわ・だいすけ)1973年東京都生まれ。97年東京理科大学工学部第一部建築学科卒。2001年一級建築士事務所谷川大輔建築設計事務所設立。04年東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)。06年東京理科大学工学部第二部建築学科助教、12年近畿大学工学部建築学科講師。
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