優れた技術者、技能者は〝技と経験〟を伝える役割も担う |
建設産業の持続的な発展のため、工事現場の生産性向上と工夫を凝らした広報活動は今や避けることのできないトレンド。ある地方自治体の建設部局に土木技術者として勤務する大田正さん(仮名)も本年度、そうした取り組みで汗を流してきた一人だ。
昨年4月から、部局内のプロジェクトチーム(PT)の一員として活動。「年度末までには、現場の生産性向上で一定の方向性を報告できるところまで来ている」と話す。
ひと口に生産性向上といっても、使える技術の種類や性能、用途はさまざま。管内の発注工事に適した技術は何なのか、複数の建設業関係団体へアンケートも行いながら、前半は導入効果や課題の精査に時間を費やした。
国土交通省や他の自治体で先にモデル工事が試行されるのを見て、焦りを感じないわけでもなかったが、「施工条件は地域によって異なる。重要なのは、実情に合った継続可能な方法を見極めること」。トレンドはしっかり踏まえ、しかしそれにのまれないよう注意しながら、他の試行事例をPTの検討作業の参考にしてきた。
これまでも導入実績があった一部工種のプレキャスト(PCa)化の活用促進でコスト縮減を図る方向性は、比較的早い段階で決まった。日進月歩のICT(情報通信技術)については、年間発注工事件数の大半を受注している中小企業の現状にも配慮しつつ、活用の方向性を模索している。
工事現場の生産性向上以外の分野でも、社会資本の整備・維持更新に関わるさまざまな技術の調査・開発に取り組むのが所属部署の役割だ。そこで蓄積された膨大な知見は、市民の日常生活の安全・安心を縁の下で支えている。
こうした建設技術に対する幅広い知識を生かし、建設業の魅力アップのための地域交流や広報活動にも尽力している。
地元の小学校の課外授業の一環として昨年開いた体験学習では、れんがと砂を使ったアーチ橋の製作などを通じ、土木技術の面白さを伝えた。完成したアーチ橋は子どもたちが同時に乗ったり、歩いたりしても壊れることはなく、その頑丈さを不思議がる表情や、やや興奮気味にはしゃいだりする姿が印象的だった。
小学生向けの体験学習自体は珍しい取り組みではないが、初めて参加する子どもたちにはすべてが新鮮に映る。一人として同じではない将来の可能性に目を向けながら、目の前の子どもたちに接するのが、イベントを運営する側に求められる心構えでもある。
「土木を少しでも身近に感じてもらうきっかけになったと思う」
どれだけ優れた技術を編み出し、さらにその研さんに励んでも、それを伝える技を磨かなければ技術の継承はそこで途絶えてしまう。体験学習に参加してくれた子どもたちの一人でも多くが建設業に興味を持ち、その道を歩んでくれることを願っている。
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