建設業界で担い手確保に向けたさまざまな取り組みが展開される中、国土交通省北海道開発局が本年度に試行を始めた全国初の支援策が、道内建設会社の注目を集めている。
高校生や大学生が工事現場でインターンシップ(就業体験)を行う際にかかる企業側の受け入れ費用を発注者の開発局が肩代わりする「インターンシップ支援型」と呼ぶ取り組みだ。効果や課題を探った。
昨年12月、北海道千歳市の新千歳空港内で行われている「新千歳空港誘導路外新設工事」の現場で3人の男子大学生がインターンシップを行った。3人は、札幌市にある北海道科学大学の未来デザイン学部で学ぶ1年生。施工を担当する道内ゼネコンの勇建設(札幌市)の社員の指導を受けながら、報告書に添付する現場写真の撮影や、TS(トータルステーション)の操作などを2日間にわたって体験した。
学生の一人は「建設業の仕事は力仕事ばかりというイメージを抱いていた」と打ち明ける。大学ではコンピューターのプログラミングなどを学んでおり、「建設業とは無関係だと思っていたため、建設業への就職は全く考えていなかった。インターンシップで作業の機械化が進んでいることを知り、将来の選択肢が広がった」と充実した実習を振り返った。
3人の指導に当たった勇建設工事部工事課の油谷浩英さんは「専攻している学部こそ違うが、インターンシップを通じて多少なりとも建設業界に興味を持ってもらい、業界に対する暗いイメージを払しょくできてよかった」と成果を実感する。
◇就業体験、発注者経費肩代わり◇
同工事はインターンシップ支援型が初適用された工事で、学生たちの作業着、防寒着、ヘルメットなどの購入費約10万円を開発局が負担した。
インターンシップ支援型では、受注者がインターンシップの受け入れを希望した場合、受け入れ人数や期間、作業内容、必要経費などを盛り込んだ計画書を提出してもらい、受発注者が協議した上で共通仮設費の「イメージアップ経費」として必要経費を設計変更で上乗せする。
必要経費として認められるのは、学生の交通費、宿泊費、作業着代など。学生が在籍する学校や受注者が加入する賠償責任保険、傷害保険などは対象外だ。これまでに26件の工事でインターンシップを実施。高校生や大学生ら計43人を受け入れた。うち12件の工事で受け入れ費用の一部を開発局が負担した。1件当たりの受け入れ費用は平均7万円程度という。
開発局が全国でも初めてこの取り組みに踏み切った背景には、地元建設業界の人材確保に対する強い危機感がある。北海道は全国に先駆けて少子高齢化が進行していることから、若手人材の確保がとりわけ困難とされる。若手がせっかく入職しても定着しにくい。厚生労働省北海道労働局が発表した道内建設業の離職率を見ると、大卒者の3年後の離職率(16年3月時点)は46・6%と全国の30・4%を大きく上回っている。
同局の担当者は「道内は求人数が少なく、学生が就職先を十分に精査して選ぶことができないことなどが要因」と分析する。そのため道内建設会社の多くが、入社前に抱くイメージと実際とのミスマッチを防ぐ目的でインターンシップを実施するなど、人材の確保・定着に向けた取り組みを模索している。
「効果がある」とした理由で多いのが「建設業を知ってもらう機会が増える」「企業が積極的にインターンシップを実施できる」というもの。中には、「工業高校の無い地域では普通科の卒業者にも入職してもらおうと建設業をPRしている。インターンシップは普通科の生徒に建設業を知ってもらう貴重な機会」との回答もあり、学生と建設業の接点が増えることへの期待が強いようだ。
◇建設業界からは評価と課題指摘の声◇
もちろん課題もある。効果について「どちらとも言えない」との回答も46・7%あった。「実施しようにも、学生が集まらない」と支援を活用できない環境を指摘する声や、「単位取得目的で参加する学生もいる」とインターンシップ自体の効果を疑問視する声も寄せられた。
「費用負担が軽減されれば、大人数の学生の受け入れも可能になる」と多くの企業が支援を歓迎する一方で、「作業着などの経費よりも、学生に仕事を指示したり、説明したりする社員を余分に配置する人的負担の方が大きい。学生に対応する社員の労力も積算で見てもらいたい」との要望は、「どちらとも言えない」と答えた企業からも上がった。
支援型は現時点で港湾・空港工事だけに適用され、道路や河川などの工事への適用拡大は予定していない。17年度の運用について開発局港湾空港部は「16年度と同程度の件数に適用したい」としている。学生に対応する社員の積算に関する要望については「直接そうした意見を耳にすることは少ないが、人的負担の積算を求める声が今よりも大きくなれば検討する」という。
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