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誕生から半世紀、筑波研究学園都市の歩みを書き記した |
◇求心力持ち「自立都市」で継続発展を◇
筑波研究学園都市(茨城県)の建設が、1963年に国家プロジェクトとして閣議了解されてから50年以上がたつ。元国土庁事務次官の三井康壽政策研究大学院大学客員教授は、この都市計画づくりなどに携わった一人で、その理念や仕組み、建設の歴史を『筑波研究学園都市論』(鹿島出版会)にまとめた。これからの筑波研究学園都市にも視線を向けた新著について話を聞いた。
――出版に至った経緯は。
「東京一極集中の是正と、科学技術振興という目的が一致したことで、筑波研究学園都市は整備された。国や自治体、日本住宅公団(現都市再生機構)、住民、企業などが一生懸命に取り組んできた成果であり、2013年に50周年を迎えたことに感慨無量の思いだった。だが、50年という長期間にわたる生成発展をまとめたものもがなかったため、私なりに書き残しておきたいと考えた」
――筑波研究学園都市と関わりを持ったのは1960年代にさかのぼる。
「1967年、建設省の都市計画課にいた時からで、1919年に制定された都市計画法を全面的に改正するための作業に力を入れていたころだった。私も若手の一人として携わっていた時期で、そこに筑波研究学園都市に関わる都市計画決定の案件が持ち込まれた。当時の都市計画決定は国が行う仕組みで、いろいろと工夫して筑波研究学園都市の都市計画をまとめた。それは特別なやり方であり、事業用地を確保するために一団地の官公庁施設を都市計画決定することと、新住宅市街地開発事業、区画整理事業の三つを組み合わせるというものだった」
――その後に茨城県へ出向して企画部長を務める。
「県に出向した1980年当時、いろいろな公共事業の計画があり、筑波研究学園都市では国際科学博覧会を開こうとしていた。かつて都市計画に携わった筑波研究学園都市は、既におおむねでき上がっていたが、人口がなかなか集まらず、当初計画の20万人都市とするにはどうするかという問題があった。東京から移転してきた研究機関で働く人などには単身赴任者が多く、その家族が東京にいたままでは人口が増えない。人口が増えなければ商業施設なども増えない。こうした時期が長く続き、人口を増やすのと同時に、新旧住民の融和を図ることも大きな課題だった」
――どのような施策を講じたのか。
「人口を増やすには経済的な力を付ける必要があった。県は国際科学博覧会の開催を契機に、その跡地を公園ではなく工業団地にして優良な企業を誘致しようという方針を取る。そうして国際科学博覧会の成功でつくばのネームバリューも上がり、谷田部町と大穂町・豊里町に二つの工業団地を整備した。これがつくばを発展させる一つの大きな起爆剤になったと思う」
――2005年8月、つくばと都心をつなぐつくばエクスプレス(TX)が開通した。
「1980年に県が作成した『第2期茨城県民福祉基本計画』の中に、『第2常磐線の具体化に努める』と鉄道新線のことが初めて公式に記載された。そして国や関係都県、鉄道事業者などとの議論を積み重ねた結果、82年に運輸政策審議会で審議されることになり、新線構想は実現に向けて軌道に乗っていく。ただ、私には迷いがあった。どこかの都市に従属するのではなく、自立都市というコンセプトで整備されたのが筑波研究学園都市。第2常磐線ができると、都市の自立性が失われるのではないかという懸念を持っていた」
「第3セクターが事業主体となってTXは開通し、非常に便利になった。逆に便利な鉄道ができたことで、他の都市へ通勤する人が増える結果となり、やはり筑波研究学園都市の自立性が弱まる傾向は否定できないと言える。しかし、筑波研究学園都市の人口が計画の20万人を超えたのはTXが開通した年であり、これが都市づくりの理想と現実かもしれない」
――これからの筑波研究学園都市に期待することは。
「TXの利便を享受しながら都市としての求心力を高め、今後も自立都市としての特性を失わないでいってほしい。筑波研究学園都市の本質的な理念は『田園都市』にある。これからも田園都市として自然に恵まれた良好な都市づくりを進めていくことが大切だ。それと、筑波研究学園都市が世界的な科学技術都市として発展するには、羽田空港の国際化も随分進んでいることもあり、いずれはTXが羽田空港まで延伸されてほしいと考えている」
「大学や研究所が何の研究をしているのかについて、一般の人にもう少し分かりやすく説明していくことも必要だろう。こうした機関から世界的に注目される研究成果が数多く発表され、多くのノーベル賞受賞者が出る都市にもなってほしいと期待している」。
(みつい・やすひさ)1939年東京都生まれ。63年東大法学部卒、建設省入省。茨城県企画部長、住宅局長、国土庁事務次官兼総理府阪神・淡路復興対策本部事務局長などを歴任。09年4月から現職。主な著書に『防災行政と都市づくり』、『大地震から都市をまもる』、『まちを歩く 建物を楽しむまち散歩』(編著、非売品)など。