企業が業界団体に求める役割は時代と共に変化している |
「入会のメリットで判断される。籍を置いておきたいと思ってもらえなければ淘汰(とうた)される」
建設業界団体の職員として働く樋口健輔さん(仮名)。最近、業界団体の先行きに危機感を募らせている。「存在感が揺らいでいる。団体だからこそできること、うちの団体にしかできないことを整理し直さなければ、埋没してしまう」。
「この橋と公園、じいちゃんが造ったんだぞ」。工具を担いで弁当を持ち、建設現場に向かう祖父の姿を見て育った。ただ学生時代は、周囲の多くと同様に経済学を専攻。就職難の中、縁あって内定をもらったものの、当時は土木と建築の違いだけでなく、業界団体の仕事や役割も詳しくは知らなかった。それから約20年がたつ。
待遇が決して良いわけではない。利益を追求する企業の仕事と違って日々の業務で達成感が得にくいこともあって、転職が脳裏をよぎったこともある。それでも働きたい地域で働くことができ、ノルマを課されることもない。残業を強いられることも少なく、家族と夕飯の食卓を囲めるのも魅力の一つだ。「どんな仕事でも思い通りにいくことが3割もあればいい方だろう」。今は団体職員としてのキャリアを積もうと考えている。
業界団体は、会員各社の経営に直結する公共工事の入札契約制度などに関する要望活動をはじめ、発注機関とのパイプ役となって会員企業が直面する課題を解決したり、時には会員同士や地域間のいざこざを仲裁したりする役割を担ってきた。
会員には、団体の発足から関与してきた老舗や、先代の意向で加入を続けている企業も少なくない。かつては樋口さんも業界団体は永続的に存在すると思っていたが、近年は様相が大きく異なってきた。国内建設市場の変化がその背景にある。
現在、国内の建設需要は活況だが、人口減少と少子高齢化が進む中、長い目で見れば先行きは不透明だ。特に地方では、先行きに不安を抱える企業が少なくない。企業の存続を懸念する会員が多い地域では、企業連携など独自の動きも活発になっている。
そうした中で最近は、団体に加入していることにメリットがあるのかどうか、会員に直接指摘されることが増えている。「本部に対する会員会社の接し方が変わった。へりくだってくれていた昔と立場が逆転し、風当たりが強まっている」。
会員企業からの出向職員が増える中、面倒を見てもらい、頼りにしてきたプロパーの上司の定年退職が迫ってきた。泥臭い話をうまく処理したり、黒か白かの議論をグレーで収めたりする姿を見てきた。「一人親方のような仕事をしてきた人が多い。その人しか知らない仕事のやり方が膨大にある」。20年勤めても、分からないことに出くわすことは多い。樋口さんもこの20年の間に、バブル崩壊後の不況と会員企業に巻き起こったリストラの嵐、東日本大震災の旺盛な建設需要と、社会経済情勢の目まぐるしい変化にさらされながら所属団体と業界の変遷を見てきた。
そんな経験を生かし、新しい業界団体の在り方を自分なりに考えてみようと思っている。
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