2015年7月21日火曜日

【プロジェクト・アイ】阿南市新庁舎建設(徳島県)/施工は大成建設

高層の市庁舎は3月に供用開始。現在は2期工事が進む
◇地場産材で「阿南らしさ」表現◇

 徳島県東部の海岸線に位置する阿南市。県南エリアの中心地で、県の「LEDバレイ構想(LED光産業集積計画)」の中核都市としても発展を続ける同市で今、新たな市庁舎の建設が進んでいる。庁舎に求められる高い機能を実現するために耐震や免震などのさまざまな先進技術を導入。LEDや木材、石材などの地場産材も積極活用し、「阿南らしさ」を体現する。市の新たなシンボルが徐々に姿を現している。
 工事が行われているのは阿南市富岡町トノ町12の3(敷地面積9012平方メートル)。新庁舎は市庁舎と議会棟で構成し、RC・SRC・S造地下1階地上7階建て延べ2万0610平方メートルの規模になる。1期工事で、敷地北側の分庁舎を解体して高層の新市庁舎を建設。2期工事として、敷地中央にある旧市庁舎を解体して低層の議会棟を新築する。新市庁舎(1期)は今年1月末に引き渡され、3月に供用を開始。4月から2期工事に入り、現在は旧市庁舎の解体と地盤改良工事が進行中だ。
 建築工事を担当する大成建設の岡信昭作業所長は「技術的に多岐にわたる工事。初めて使う技術も少なくない」と話す。その言葉通り、新庁舎建設にはさまざまな技術が盛り込まれている。最大25・2メートルの大スパンを実現するため、トラス斜材とトラス弦材で構成する「二重偏心トラス梁架構」を採用した。低層部の主要な耐震要素になるとともに、トラス梁で建物重量を集約し、効果的な免震性能(地下1階柱頭免震構造)を引き出す仕組みだ。

張弦梁工構造で大空間のロービーを実現(完成イメージ)
2層(1~2階)の外周をコの字形(東・西・北面)に囲むトラス斜材は、竹林をイメージしてデザインされている。このため斜材の角度や径はさまざま。「鉄骨工場で仮組みをし、施工方法や手順を確認した上で建て方計画に入った。施工では精度管理に細心の注意を払っている」と岡所長。災害時に庁舎が防災拠点としての機能を果たすことも考慮した構造面の技術・工夫も多く取り入れた。トラス梁や免震構造のほか、高層棟(市庁舎)にはコア部に「偏心K形ブレース」、低層部に「耐震ブレース」を配置。さらに、地盤の液状化対策として土木分野で使う砂杭による地盤改良工法を採用している。
 2期工事のポイントは「屋根」だ。低層部の中央に位置する市民ロビー「あなんフォーラム」は、約20メートル×約40メートルの大きな吹き抜け空間となる。この大空間の屋根を梁材と引張材を組み合わせたハイブリッド構造「張弦梁構造」で実現する。鉄骨偏平ボックス(梁材)とPC棒鋼(引張材)を、圧縮材となる木製ブロック(束材)を介して結合する。施工は来年6月ごろになる予定だ。岡所長は「私自身、張弦梁は初めて。本社と四国支店が一体となって取り組んでいく」と意気込みを語る。
 議場の屋根形状は、台形をした変則の寄せ棟。屋根を支える柱の多くが、3階床から立てる陸立ち柱となるため、鉄骨の建て方で高い精度が求められる。
 新庁舎には地場産材を多く取り入れ、「阿南らしさ」を体現する建築物にする。同市にはLEDの世界トップメーカー、日亜化学工業の本社があり、県のLEDバレイ構想の中心都市に位置付けられている。そこでペンダント型の「見せるLED照明」を全館に設置する。

竹林をイメージしたトラス材料
石材の産地としても有名で、大正時代に市内各地で切り出された良質の大理石は、国会議事堂の御休所や大阪市中央公会堂などに使われている。新庁舎では2階と3階の間の外装基壇部の意匠材として石材(青石)を採用。青石を打ち込んだハーフPC板で外装を飾る。地元産のスギ材もロビーや議場の屋根、西日よけのルーバー、内装、家具、サインなどにふんだんに使われている。
 新庁舎は環境配慮手法を視覚化しているのも特徴の一つ。高層の市庁舎には風の通り道となるグリーンボイドを配置。水平ひさしや木ルーバー、トップライト、屋上菜園、太陽光発電などが設けられる。



 「市庁舎は市民の理解を得ながら建設することが必要だ。仮囲いの中を市民に紹介したい」(岡所長)。そんな思いから始めたのが、阿南市新庁舎建設工事ホームページだ。工事の概要だけでなく、月間工程表や進ちょく状況などの情報を積極的に発信している。岡所長は愛媛県出身だが、四国での仕事は今回が初めてという。「新しい技術を使う時、必ず課題が出てくる。それを一つ一つ解決していくのが技術者の役割。竣工に向けて力を尽くす」と気を引き締めている。

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